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第17話 行き先

 城の内部は慌ただしくなったが、ラキアの処置は相変わらずだった。メイドが時に来ては、監視も兼ねて世話をされる。騎士は人為が裂けないためにメイドかと思った時もあったが、騎士以上に眼光は鋭いモノだった。

 何気なく窓を見ていると控えめに扉がノックされた。

「はい」

 いつものメイドさんかな、と声を返すとしばらく経ってから扉が開かれた。

 ピンク色の癖毛が隙間から覗く。

「エウロパさん」

 メキアラから命じられ、星の観測をする日々の彼とはあれ以来顔を合わせてはいない。地位もそれなりの彼がわざわざラキアの部屋を訪れるなんてよっぽどのことだろう。

 思わず腰を上げたラキアに、エウロパは悟って首を振った。

「あ、あの、部屋に入っていいですか?」

「あ、どうぞ」

 促すと、エウロパは軽く頭を下げておずおずと入ってくる。あまり覚えてはいないが、異世界に行く前に見た彼はもっと堂々としていた気がする。しかしこの姿こそ通常なのだろう、とラキアは薄々感じていた。

「あの……」

 エウロパが勢いよく頭を下げ、癖毛が跳ねる。

「あの時はごめんなさい!」

「えっ!?」

「あ、あの……前、ボク達戦ったじゃないですか……」

「あ、あの時」

 あの時の彼の姿をどうにか思い浮かべていたラキアは、思わぬ話の方向に唖然としてしまった。まさか彼の口からその時のことが出てくるとは思わなかった。

「えっと……あの時は僕もその」

 悪かったとは何となく言えなく、ぼやかしてしまう。

 城に初めて来た時はサラをとにかく返してほしい一心で、今でもその行為が『悪いこと』だとは正直思ってはいない。それでも暴れたことにより負傷者が出ていることも事実だ。

 エウロパも黙り込んでしまい妙な空気が流れる。

 こんな時、アクエがいたらどんな言葉を投げかけるのだろう。

 無茶はするが、人の心にするりと入ってこれる彼女だったらこの空気を打開してくれそうだが、そんな都合よく彼女は現れない。

 顔を上げると互いに目線が合い、妙な笑い声が二人の口から漏れた。

「……ボク、別な側面を持っていて」

 口を開いたのはエウロパからだった。ラキアは手を動かしてエウロパに座るように促す。

 エウロパはこくんと頷いて、ゆっくりとした動きで椅子に座った。

「あの時はきっかけとなる単語を聞いたみたい」

「きっかけ……」

「あ、別にもういいんだけど。謝りたかっただけなんだ」

 そう言いながらエウロパは穏やかに笑う。あの時の狂気じみた彼と同じとは考えられない。

(それは僕も同じか)

 汚い側面を次はいつ晒すことになるのだろうか。

「あの、天体の様子どうですか?」

「もっとぐちゃぐちゃになってきてる。もしかして変わらない北側が怪しいんじゃないかってイオ参謀は警戒を強めたんだけど、もうどこが怪しいかなんて分からなくなってきた」

(どこにいるの)

 聞けば聞くほどにどツボに嵌っていく。天体の動きだけで解答を求めようなど不可能に等しいのだ。

(どうすれば……)

 黙りこくってしまったラキアに、エウロパは目線を泳がせる。かける言葉が見つからない。

 皆が期待しているのはラキアだ。たとえ、サラの手下だとしても――それは真実ではないのだが――彼女への近道となるのは彼なのだ。

 彼女の行方が早く語れることを願ってしまう。自分の命は、今生きている者の魂は何よりも重いのだ。

 ラキアは睫毛を伏せたままで顔を上げようとはしない。

 いつかサラが言っていたかのように頭の中には靄が掛かり、答えは見えそうにない。人々の目と自身の焦れた重圧に押し潰されそうになる。

「あ、ボクちょっと用事を思い出したのでこれで……その、あ、何でもないです」

 ゆっくりと語ってくれ、とは言えなかった。

 明らかにない用事を言われていると分かっていながらも、ラキアはそれ以上何も言わず、少し微笑むようにしてエウロパの背を見送った。扉が閉じて、静かに表情を元に戻す。

 ゆっくりと瞼を閉じる。何も見えない闇の中に光は差し込まない。

(何故、飛び出さなかったのだろう)

 不意に疑問が浮かんで、脳内をぐるぐると駆けまわる。いつでも彼女の元へ飛びだす準備は出来ていた。星の天体がどうか、ではない。エウロパが星読み関係の話をした時でも、今でもよかったのだ。闇雲に飛び出して、そして……

 意味のないことだと否定する自分と、何故ここに縛り付けられることを肯定しているんだと怒鳴り散らす自分が心の中に宿っているようで気持ち悪くなってくる。

『怖いのか?』

 ないはずの吐瀉物を耐えようと口を覆ったラキアは、その体勢のまま固まった。ゆっくりと眼球だけを動かす。

 そこに、自分に似た男が、立っていた。

 幻覚なのは理解できるが、振り払うことが出来ない。

 彼――ライアはゆっくりと近づいてくる。

『恐ろしいのか?』

 問い掛けはライアの存在自体ではなかった。

 脳内で彼女が瞬く。

 失うのが怖いのか? また逢うのが恐ろしいのか?

 そう、問われていた。

「……違う」

 声を掠れさせながら答えるが、語尾は震えていた。それは感染して四肢にまで拡大する。

 ライアがラキアを抱きしめた。そのままラキアの中へ溶ける。

 脳内から彼の声が響いた。

『お前は……いつか思い出すであろう』

 それは宣告だった。その時に駆け出すのだと諭されている。

 ラキアの中で、何かが爆ぜた。

「思い出せない!」

 中に宿ったライアを振り払うかのように、ラキアは宙を手で払う。

『お前なら知っているはずだ、彼の者の行方を』

「知らない! 分からない! 知ってるのはお前だろう!」

 自分はただの人間だ。ライアのように清い気など持っているはずもない。

 魂は穢れてしまったのだ。

 まるで幼子のように手を振り払い叫んでいると、勢いよく扉が開いた。

「どうしたの!?」

 飛び込んできたのは数分前まで求めていた彼女だった。特徴的なミミは驚きでぴんと立ち上がり、目は丸く見開かれていたが、躊躇いなくラキアの手をとる。

 その温もりでラキアは硬直した。ゆっくりとアクエの方を向く。

「どうしたの?」

 眉間に皺を寄せながらも、ラキアを落ち着かせるようにと優しく問いかける。

 ラキアはその目線に耐え切れず、瞼を伏せた。身体の中にはもうライアの気配は感じられない。完全に自身に溶けたのか、それとも焦る自分が見せた幻想だったのか。しかし狼狽した自分はとても彼女を救えるものだとは思えなかった。

(僕は、弱い)

 アクエはラキアの手を握ったまま、ベッドに腰掛けた。

 じっと彼の横顔を見つめる。

「……知りたい」

 彼の薄い唇から零れた言葉は悲痛な叫びだった。

 アクエは瞼を伏せた。その唇が言葉を紡ぐ。

「あたしも知りたいよ」

 ラキアはゆっくりと首を動かしてアクエの方を向く。琥珀の瞳に映り込んだ彼女は少し口をもごつかせてから、噛みしめるように言った。

「あの人の行方とか……」

 ラキアのこととか、とは、言えない……言えないはずだった。のに、あの瞳と目の前の瞳が重なり合った瞬間、堰を切ったかのようにアクエの口から言葉が溢れ出た。

 言うつもりはなかったのだ。

「好きだったあの人の行方、知りたいよ。ラキアのことも知りたい。好きな人のこと、ちゃんと知りたい」

 言の葉とともに雫が瞳に溜まり、ラキアの顔がぼやける。

 泣くなんて、と笑いそうになるが、上手く口角は上がらない。溜まりにたまった感情は最早、出口に向かってただひたすらに流れ続けていた。

 ラキアはそんなアクエに指を伸ばそうとして、中途半端な形で固まった。

 今の彼女はいつもの彼女よりも美しい。そして、脆く儚い。神聖なものに触れてしまってはいけないという感情と……一人の少女が脳裏にまたたいて、腕を下ろした。

 アクエにとっては残酷な選択だった。

「ごめんね」

 彼女を選び取ることは出来ない。

「応えられなくて、ごめんね」

「……知ってる」

 それだけは、分かっていた。

 アクエは憑き物を振り払うように頭を振って、そして。

 振りかぶった手のひらを、渾身の力を込めてラキアの頬に叩きつけた。乾いた音が辺りに響き渡り、その音が鳴りやむと静寂が訪れた。

 アクエの瞳にはもう涙はない。真っ直ぐにラキアを見つめて言い放った。

「ラキアのことは好きだよ。でも、今のラキアは嫌い」

 叩かれた頬は痛いはずだが、神経がなくなったかのように何も感じなかった。

 アクエはラキアを振り払うかのように、ベッドから腰を浮かせる。ラキアはそんな彼女の袖を掴んだ。

「それをやるのはあたしじゃないでしょ」

 アクエの口調はきついモノではなかったが、それでもラキアは初めて痛みに触れた感覚がして、そっと袖から指先を離した。何をしているのだろうか、突き放したのは自分のくせに。

「うじうじしてるくらいなら、あたしは動くよ」

(そうだ、僕も動きたい)

 胸を強く握る。そこにライアはいるのだろうか。

「さっき、もう一人の僕……ライアが現れたんだ」

「えっ?」

「いつか思い出すって言ったんだ。多分、サラへの行き方だと思う……僕は今すぐ行きたい」

 世界の平和だとか、人々の為とかではない。ただのエゴで我が儘で、それでも、ただ一人の為だけに。

 今度は死なない。必ず彼女の手を掴む。

「行き方……」

 アクエの脳裏にあの時の光景が蘇る。メキアラに見せられた――勝手に見てしまったライアとティニアの関係。その結末は悲劇だった。

 あの時の光景は断片的なものだった。今の風景とも違う。

「もう、メキアラねぇちゃんに聞いちゃおうよ」

「でも……メキアラさんはサラの行方は分からないって……」

「メキアラねぇちゃんはサラちゃんの行方は知らないって言ってるだけでしょ? 地上と天界の行き方を知らないとは言ってないじゃん。過去のラキアが教えてくれたんでしょ。なら、多分その先にサラちゃんがいるよ」

「なんで、分からなかったんだろう」

 アクエに言われて、そんな簡単な答えに行きつかなかった自分が酷く滑稽に見えた。ただ自身に畏怖して縮こまっていた。

「そうと決まればあたし聞いてくる」

「え、あ、僕も」

「ラキアはその真っ赤になった頬、とりあえず冷やしてて」

 罰が悪くなった顔でアクエはラキアの頬に軽く触れる。先ほどまで痛くなかったのに、電流が走ったかのように痛みが駆け抜け、そして自己主張を始めた。思わず手で覆うが、さらに痛みを感じて慌てて離す。

 その間にアクエは扉を開けて振り返ることなく部屋から出ていった。

「ごめんね」

 彼女のその声は何に対してか。

 ラキアは瞳を閉じて、過去をこじ開けようとする。しかし、頭の中は空っぽで断片さえ見えない。

「いつか、思い出す」

 零れた言葉に対して、拳を握った。




 茶葉の芳しい匂いが部屋中に充満する。男のものとは思えぬ綺麗な指先がティーポットを傾けた。飴色の液体が注がれる音さえも優美に一役買っていたが、メキアラの眉間の皺は増えるばかりだった。

「いかがなさいましたか?」

「お前は注ぐ側の人間ではないだろう」

 今、この部屋にはメキアラとイオしかいない。そして立場上、イオのその手は王の為、民のためにだけに使う意味がある。紅茶を注ぐなどメイドを遣わせてやらせるのが普通なのだ。

「神様に注がせるわけにはいきませんから」

 どうぞ、と微笑まれながら差し出された紅茶にメキアラは目線さえ配らせなかった。

「毒などは入っていませんよ」

「毒ごときで死ぬ私ではない。何用に来た?」

「お暇かと思いまして」

「今すぐ帰れ」

 気に食わない者とずっと居られるほどメキアラは寛大ではない。それに彼が神の暇つぶしで来たわけではないということも分かっていた。

 イオを睨みつけたまま、親指で扉を示す。

 彼はその動きを無視して、空のティーカップに紅茶を注ぎ、それに口付けた。

「本当は見当がついているのではないですか?」

 メキアラにあてた部屋から出る気などはなからないイオは、そう会話をきり出した。メキアラは腕を組んで、イオを高圧的に睨みつける。

「何がだ?」

「ご冗談を。質問の意味、解ってますよね」

 ソーサーに置かれたカップが耳障りな音を立てた。

 イオは口角に笑みを湛えてメキアラを見つめる。しかし、その瞳は勿論笑っていない。

 大抵の者はこの表情で竦み上がっていただろうが、メキアラは鼻で笑うだけだった。こんな奴に口を滑らせるか、と内心ではいつ喰らってやろうかと睨み続ける。

 この事態の引き金を引いたのはある意味目の前の男だ。

「言葉で丁寧に説明いたしましょうか?」

「あれ? イオ兄もいる……もしかしてお楽しみ中だった?」

 一触即発寸前だった空気が少女の声によって突然ぶち壊された。

 メキアラは不服だと言いたげに溜め息を吐いて、その少女を睨んだ。

「お前はどう見ればそう思う……」

「だって、メキアラねぇちゃんの部屋にわざわざ来て、一緒にお茶してるってそういうことでしょ。ごめんごめん、また改めて訊きに来るねー」

 あっけらかんと言うアクエは明らかにわざとそうしていると分かるものだったが、メキアラの沸点は簡単に限界を迎えた。

「こいつと恋仲など絶対にあり得ないからな!」

 指差されたイオはメキアラを煽るために小首を傾げた。

「こいつの顔を見ろアクエ。こんな人間味のない人間なんかと……いや、そもそも神と人間の恋などありえないのだ。時も理も違い過ぎる」

「でも、ラキアは、違うよね?」

 問われた言葉にメキアラは押し黙った。身近に事例はあるが、それとこれとは違う。自分が愛を知ることなんてあるのだろうか。そう、またいつもの問い掛けが脳内に駆け巡る。

 アクエの目もまた、ラキアとサラの関係に真剣みを持つ。しかし、それはすぐに破たんした。

「イオ兄はメキアラねぇちゃんどう?」

「お断りします」

「こっちもお断りだ」

 ここで肯定されても困りものだが、彼の答えはあっさりしたものだった。へらりと笑うイオはまたはぐらかすかのように紅茶を飲む。

「私には愛が分かりませんから」

 ティーカップを置いた彼から発せられた言葉は、メキアラがよく知っていることだった。彼には感情が欠落している。愛を育む器など持ち合わせていたらそちらの方が驚く。

「それにしても、メキアラ様に問いたいことがあったのでしょう? 私は無視して構いませんからどうぞ」

 催促されて、そうだった、とアクエは顔を引き締めた。メキアラも自然と背筋を正す。

 一瞬だけイオの方をメキアラは見たが、彼はこの場にいないかのように沈黙して、何もない虚空を見つめていた。本当に魂があるのか疑わしい。

「あ、うん。メキアラねぇちゃんに答えてほしいことがあって」

 訊きたいこと、ではなく、答えてほしいこと。

 アクエの言葉にメキアラはイオの存在を無き者として、耳を傾けた。

「メキアラねぇちゃん、地上から天界までの行き方、教えて」

「お前はどう足掻いてもいけないぞ」

「あたしじゃなくて、ラキアに教えてあげて」

「……何故? 言っておくが、あの場所にあいつはいない」

 いないはずだ。

 メキアラは瞳を閉じて精神を天界に飛ばし、俯瞰してその場を覗き込む。しかしそこには無残に壊れた像があるばかりで、彼女は影も形もいない。

(悲劇の舞台には立ちたくないだろうな)

 アクエの世界、ラキアの世界が分断されたのは最早途方もない時間軸の中の出来事だ。いまさら行けるのは、メキアラと……

「でも、ラキアが言ってたよ。過去の自分が出てきたって……それってあの時の記憶が関係しているかもしれないってことでしょ?」

「それはそうだな。多分、関係はあるだろうな……」

 唯一行けた人間、ライア。彼が云うのであれば。

(幻想でも虚言とでも笑い飛ばすことは可能だが、多分、そういう類ではないだろうな)

「メキアラ様、すみませんがそこのところを詳しくお願いします」

「お前は参加しないと言っただろう」

「興味が湧きました」

「知らなくていいことだ」

 この男がラキアに行ったことについて忘れてはいない。神の力を無駄に使うはめになったのに、まだ彼は白々しく笑っていた。

(こいつが知ったら、ラキアがそこに到着する前に兵をけし掛けるのは明確だ)

 そんな馬鹿なことはできない。二度目はもう、ないのだ。

「本当に教えてはくださらないのですね」

「土下座して靴でも舐めたら考えてやろうか」

「その行為で情報が手に入るのなら、簡単なことです」

 感情のない笑みを顔に貼りつけて、イオはおもむろに立ち上がった。アクエの前だというのに、躊躇いはないらしい。

「冗談だ。やったとしても教えるわけがないだろう」

 メキアラは自ら折れて、脚をテーブルにのせた。

「神様なのにお行儀が悪いですね」

「今お前がやろうとしたことの方が無様だろう」

「イオ、です」

「なんだ?」

「お前ではなく、イオです。メキアラ様」

「イオ兄、もしかして名前呼んでほしいの?」

「神から名を呼ばれるなんて光栄でしょう?」

 同意を求めるかのようにイオはメキアラの方を向く。

 真剣な話が相当に逸れたと、メキアラは目線を空中に漂わせた。彼はわざと逸らせるようなことをしたのだろうか。

(情報を探るために外堀を削る気だったのか? それにしては直球だった気もするが……)

 イオの考えていることは、神の力を使うことでしか得られない。

「神に名を呼ばれれば魂も捕らえられると聞いたことがありますが……本当ですか?」

「私はそんなことしない」

「ならば、知られているラキアは?」

「何がいいたい」

「彼女が幻影を見せた可能性は?」

 彼女が彼だけを誘うための策略。

 ラキアがいなくなれば、この世界は終わる。

「ラキア・ペルセフォネはあいつの元へ行かねばならない。それが神との契約だからな」

『僕は、止めに行きます。これは、僕が償わなければいけない物語です』

 彼は誓を立てたのだ。この世を見守る神の御前で、反語にすれば……魂は二度と救済されず朽ち果てる。

「メキアラねぇちゃん……ラキアは行けるよね?」

「奴が、願えばな」

 今、彼女もどこかで抗っているのだろう。

「貴女もラキアを愛しているのですか」

「愛している、じゃない。言っただろう、契約だと。愛を知らないお前は愛されたいのか、神に」

「面白いですね。人間に愛されるよりはよっぽどいいですね。でもそれが元で人間様に迷惑はやはり考えものなので、遠慮します」

「……メキアラねぇちゃん、二回フラれた?」

 ぽつりと呟かれた言葉にメキアラはじっとりとアクエを睨む。

「お前はラキアの心配だけをしていろ」

「あ、はは……そうする。ありがとう」

 さきほどのビンタの件を思い出し、罰が悪そうにしながらアクエは手を振って部屋から出ていく。

「思い出すよね……」

 その呟きは扉が閉まる寸前に神の耳に止まり、メキアラは瞳を伏せて首を軽く縦に振った。

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