第三話
投稿が2ヶ月ぶりくらいになりました。
「……ん…」
目が覚めた。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
窓からは日が差し込み、小鳥の鳴く声が聞こえる。どうやら朝のようだ。
まだぼんやりとした頭で、周りをキョロキョロと見回す。
…ん?なんだかいつもと景色が違うような……
「あっ…!」
どうして忘れていたんだろう。ここは私の部屋じゃない。あの男の家の中だ。
あの後、信じがたいことに首を完全に貫通した状態で、彼は生きていたのだ。息もせず、脈も乱れ、心臓が出す血液が全て首から流れ出ているのではないかという状態だったにも関わらず。
さらに、私が触れた瞬間、傷口がみるみるうちにふさがっていった。 …誤解しないで欲しいのだけど、私にそんな急激に傷を治す能力なんて無い。
手当て、という言葉の通り、手を当てるという行為は、昔は治療として使われていたらしいが、それだって傷の治療ではなく、腹痛や頭痛、めまいなんかをちょっと楽にする程度だろう。間違っても、首を貫通した傷の治療には使われていないはずだ。
それとも、本当は私にはそんな能力が…。
そんなことを考えていたせいか、私は一番大切なことに気づくのが遅れた。
「…あっ!!」
一番大切なこととは、もちろん自分がうつぶせていたベッドに男が居ないことである。
まさか、私が寝ている時に起きて、逃げ出した…?
そう思った瞬間、私には戸惑いや焦りの前に、怒りを感じた。
なんて恩知らずなのだろう。私が看病していたことは、起きた時から一目瞭然だろうに。出て行くなら出て行くにしても、せめて置き手紙をするとか、やりようはいくらでもあっただろうに。
彼をそんな状況に追いやったのが他ならぬ自分であるということも忘れて、理不尽な怒りをたぎらせながら、私はリビングに向かった。
その時無造作に放り捨てた、肩に掛かっていたタオル。その意味に気づくことも、当然のことながら出来なかった。
☆ ☆ ☆
俺はゲームをしていた。
随分前から人気の、その筋ではかなり有名な王道のFPSだ。
ちなみにFPSとは、「ファーストパーソンシューター(ファーストパーソンシューティング)」の略称であり、端的に言うと一人称視点…すなわちキャラクターそのままの視点で銃を撃ちまくるゲームだ。(ちなみに三人称視点…キャラクターの背後の視点で銃を撃つゲームをTPSという。)
このゲームの良い所は、視点がキャラクターなので没入感、臨場感が圧倒的である事…すなわち自分で敵を殺したのに近い感覚が得られるのだ。まぁそのせいでレーティングが18禁になることも多いジャンルだが。
俺がこのゲームにハマるのは、その自分の手で敵を殺す、という感覚が好きなのだ。…というと猟奇的に聞こえるかもしれないが、なら何故敵を殺すのが好きなのか。
それが俺に出来ないことだからだ。
日本の法律だの、倫理観だの、良心の呵責だの、そんなもんではない。そもそも俺に殺す権利があるのなら、今こうしている間にも、世界中の全人類を殺すべく動いている。
なら、その理由は…
とそこまで考えた所でマッチが終わった。
結果はこちらの圧勝。
そのことに満足感を得つつ、長時間続けてゲームをやっていたことで凝った肩をほぐし、大きく伸びをする。
その時、ドンっ!と大きな音がした。
驚いて音のした方に目を向ける。
そこには、顔を真っ赤にした少女がいた。
そんなに真っ赤な顔をして、俺に一目惚れでもしたんだろうか。…いや、違うな。彼女の顔をよく見ると、目は血走り、眉間にはシワを寄せ、口からはギリギリと歯を鳴らしている音が聞こえた。 全力で、I am angry.を表現していた。
しかし俺は、こんな美少女を怒らせるような罪な事はしていない。…いや、したことはあるが、この少女にしたことではないということは間違いない。
というかまず、この子はどこからどうやって入ってきたんだろうか。非常に気になる。
…まあいい。いや良くはないが、入られた以上、ここは怒りをおさめてもらい、立ち去って頂くのが賢明だろう。そして少女がここに来た、という事実を、無かった事にするのだ。
「あのーどなたかは存じませんが、ご用があるならまた日を改めて、この場は丁重にお引き取り願えま…」
その言葉の、特に「どなたかは存じませんが」と「日を改めて」の所で、彼女の怒りが更に上昇したようだ。
問答無用とばかりにツカツカと歩み寄ってきて、止める間もなく殴られた。グーだ。最初はグーだった。
全くの不意打ちだったため受け身もとれず、俺は後ろ頭から倒れ、意識を失った。