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第8話 (サイドB)

ここからしばらく、サイドB(陛下視点)のお話が続きます。ぐだぐだと暗い男の話ですが、お付き合いくださいませ。

 元神官長だったセグジュが挨拶にやってきた。隣国から貢がれた黒の姫への教育期間の半年が終了したのだ。黒の姫は、王の自分にとって、苦い思い出だった。15歳くらいの黒髪黒瞳の少女で、昨年、珍しい貢物として贈られてから後宮に暮らしていた。その存在すら忘れていたが、半年前にたまたま出会った。王である余に対して生意気な態度の少女が、可愛いと思った。その少女がこの国を言葉を話そうと勉強していると知り、十分な教育をとセグジュをつけた。へつらおうとしない反抗的な少女に、うっかり手を出してしまった。可愛いと思っていたはずなのに。子供だった彼女を、すっかり従順な、媚を売る普通の“女”にしてしまった。あの生意気だった姿を、見ることもない。己のせいでと、後ろめたい思いもあって、3週間程で彼女からは離れた。それからは、意識的に彼女を避けてきたのだろう。あれから、もう、半年。


「久しいな、セグジュ。あれは、勉強できるようになったか?」

 白い髭を揺らしながら70を越える老人が、ゆっくり目の前にくる。

「勉強はお好きで、飲み込みの早い方でしたから。お姫様は、大変面白い方でございました。あの様な方と出会わせて下さいまして、誠にありがとうございました」

 しみじみと礼を述べる老人の言葉には、本当の感情が込められていた。以前会った時には、余を責めるかのようだったが。

「そうか、ご苦労だった。下がってよいぞ」

「陛下、お姫様は、今後どのように過ごされるのでしょうか」

 黒の姫はセグジュの生徒だ、情が湧いたのだろう。余を責めたいのか。

「あれは、このまま静かに後宮の端に暮らすことになるだろう」

「それはようございました。少しでもお姫様を可哀想だと思し召しなら、彼女には近付かずそっとしておいてやってほしいのです」

 やはり、責めているようだ。どういう意味なのか、近寄らずに手厚い保護をしろということか。

「あれには、十分なドレスや宝飾品を与え不自由はさせぬ。そなたが気に病むことはない」

 セグジュを安心させようとそう言うと、彼は眉を顰めてこちらを見ている。余の言葉は不満らしい。

「陛下、あなたは彼女のことを何もご存知ないようだ」

 ため息交じりに首を振りながらそう言うと、部屋を出ていこうとする。何も知らないとは、どういうことだ。確かに、男女の仲とは違う、先生と生徒という関係での彼女を知っているのだろうが。余とて、セグジュには見せぬ彼女を知っているのだから。

「待て。どういうことだ?」

 セグジュを慌てて引き止める。何故、引き止めたのか。そのまま、行かせなかったのは、セグジュの思わせ振りな言葉のせいだ。彼女への負い目のために。

「彼女を解放してさしあげて下さい。あの方は、子供ではありません。遠い国からきた、とうに20歳を超えた大人の女性です」

 あの少女が、20歳を超えた大人の女性?何を言っているのか。なおも、セグジュは言葉を続ける。

「彼女の種族はみな小さな体格であるのでしょう。子供と見られることをよく知っていて、自分が住む後宮では子供でいる方がよいと思い、誤解させたままでおられたようですな」

 子供だと誤解させていた、その方が彼女には都合が良かったということだ。後宮で、余の相手をしたくなかったから、か。まさか。だが、あの小さい身体で、あの彫の浅い顔で、つるりとした肌が、大人だということが、信じられない。セグジュが誤っているのではないのか。

「あの方が、陛下をどう思ってらしたか、ご存知ですかな?」

 余をどう思っていたか?余のことを好いていたのではないのか、他の妃と同じように。いや、他の妃も、余を好いているわけではない。ドレスや宝飾品や他者から羨まれる地位を授けるものが好きなのだ。少女も、そうだと思っていた。違うのか?何が?頭が混乱する。

「陛下に対する気持ちを、お聞きしたわけではありません。これは、私の憶測ですが」

 セグジュは、言いにくそうに言葉を躊躇った。

「逆らうことを許さず己の命令をきくことのみ押し付ける最低な男。子供であっても」

 セグジュの言葉は、自分を凍りつかせた。子供に無体なことを働く男だと、思われていたというのか。だが、彼女にしたことは、そういうことだ。しかし、彼女は笑っていたはずだ、泣いていたのは最初の2日だけ。そのあとは、余の様子を伺うような目で、いつも笑顔を浮かべていたのだ。

「あれは、笑っていた。贈った宝石も喜んでいた。そんな嫌そうな素振りは一つもなかった」

「以前、陛下が、彼女が変わったと仰られたとき、不思議に思っておりました。いつお会いしても、最初の頃のまま、自由な発言で、とても従順とは程遠い態度だったのです」

「あれは、嘘だったというのか。余を、騙していたのか!」

「騙した、のかもしれませぬ。陛下があの方を手放すように。笑顔を浮かべて従順な態度を、どう思いながら続けていらしたのか…」


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