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第7話

 それから約半年、相変わらず私はさほど変化のない生活を送っていた。変わったことといえば、外出を許されたことだ。今朝は、街へ出るというので気分が浮かれまくっている。後宮にいた妃も五人は、王様の部下に下賜されたり、妃同志のイザコザで実家へ返されることになり、二人残っているだけである。半年前、そろそろ王妃をという機運が高まり、後宮の妃達の嫌がらせや毒殺騒ぎが起こった。その後3ヶ月というものは、後宮で起こるゴシップに沸き返っていた。その騒ぎが落ち着いたせいなのか、もうすぐ私も後宮から解放されるかもしれないからか、街へ出掛けたいという希望が認められたのである。

 街へは、流石に、シリルと二人というわけにはいかず、警備のため騎士が四人もついてこられた。まあ、仕方ない。まず、街では、陛下に貰った2着のドレスと1つの宝石を売りに行った。なかなかいいお値段になったので、かなりいい気分だ。ウィンドウショッピングを楽しみ、遅めのランチをとり、その後は人気のスイーツ店を周る。ケーキ、クッキー、飴を買い、腕に抱えて後宮の部屋へ戻った。


「ジロ、チャロ~、ケーキ食べるよぉ」

 街へ出た翌日、床に直に座り込み、ソファーを背凭れにしてお茶とケーキをのせた盆を床におき、ケーキを食べる。ジロとチャロは、それを眺めながらジッと待っている。涎を垂らして。もう一匹いたタロは、毒味のせいで亡くなった。チャロも危ない状態になったが、なんとか持ち直してくれた。ただ、チャロはその時の毒のせいで、もう先は長くないらしい。ケーキの残りをフォークに刺して、ジロとチャロに交互に差し出す。待ての体制で座っているのだが、フォークに向かって首が伸びていく様は可愛らしい。こんなふうに犬達と遊ぶことを、シリルは最初こそ叱っていたが、他にさしたる楽しみがない私を可哀想に思ったのだろう。見逃してくれている。流石に、犬達と遊んでて、花瓶やらテーブルが欠けてしまったときには叱られたが。そうやって寛いでいるときに、陛下がやってきた。ずいぶん久しぶりだ。

「ご機嫌よう、陛下」

 今日は、心から笑顔で陛下を迎えた。街へ出掛けられたことと、貰ったものがいいお金になったため、幸せのお裾分けである。とはいえ、立ち上がりもせずに、ジロとチャロの首輪を持って抑えたままだが。陛下は、驚いた顔だ、無理もない。自分が振った元カノが笑顔全開ってのはね。とはいっても、過去に付き合ったことがないから、想像なんだけど。

「久しぶりだ。元気だったか」

「健やかに過ごさせていただいております。これも陛下のお蔭と感謝いたしております」

 笑みを浮かべた私の言葉に、やや戸惑った様子で私から目を逸らした。王様が目を逸らすって、この時やっと、陛下の態度が随分以前と違うということに気が付く。金髪がキラキラと太陽の光に反射している。薄いブルーの目をしていて、目鼻立ちは左右対称で整っており、ハンサムだ。彫も深いが、顔に皺もあるので、渋めな感じ。こんな顔だったかと、まじまじと見つめる。昼間、この部屋に来たことはなかった。40前だと思っていたが、案外、若いのかもしれない。

 陛下の視線の先を辿ると、ソファーに置かれたお菓子が入った紙袋だった。何を考えているのか、とりあえず、陛下を見る。何をしに来たのか。後宮を出る話なら、嬉しいのだが。ちょっと期待してみる。今日はいいことが連続したから。

「庭園を散歩しないか?」

 散歩しながら話をしようということか、相変わらず面倒な人だ。シリルは席を外していて、二人っきりなんだから、今ここで、さらっと言えばいいのに。

「いいお天気ですから、散歩には最適ですね」

 そう答えながら立ち上がり、陛下をジロジロ見ている犬達の首輪にリードを繋ぐ。そして、リードを持ったまま部屋の外へ歩いていく。だが、陛下は動かない。

「行きましょう?」

 振り返って、陛下へそう促すと、やっと私の後をついてきた。私をエスコート(男性の腕に手をかけて寄り添って歩くやつのこと。前にマナー教育を受けたときに習ったけど、一度もその機会はなかった)するつもりだったのだろうと、気付いたのは、目的の庭園に着いてからだった。犬も一緒だと思ってなかったんだろう。

「お前が20歳を過ぎているとセグジュから聞いた。遠い国の生まれで、皆小さい種族なのだと」

 セグジュ先生、一体、何を陛下に話したんだ?陛下、遠い目をしているが、後宮問題とそれに伴う貴族の勢力争いに疲れて、頭のネジが飛んだのかもしれない、と思った。


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