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第5話

 朝起きると、嫌がらせが始まったことを知った。私が住んでいるのは、他の美女とは、少し離れたところにある、コテージの様なこじんまりとした建物だ。部屋は大小合わせても4つしかない。後宮には、部屋数が数十個もありそうな大きめの建物が3つと、小さなコテージみたいなのが数個ある。美女は、大きめの建物2つの何処かの部屋に住んでいる。残りの大きめの建物には、子供を持つ妃が住むのが通常らしい。コテージには、妃候補が入るものらしい。今朝は、コテージの周りに、鼠やら小動物の死骸がいくつか散らばっていたらしい。また、時間をおいて、差出人不明の贈り物が届けられ、またしても、腐った何かの死骸もどきだった。だいたい、臭いでわかるだろうから、そんな差出人不明のものを、後宮内に配達するなよとは思った。

 その日の午後、昼食を口にしたとたん、すぐさま吐き出した。苦かったからだ。すぐに水で何度も口をすすいだが、口が痺れたようになった。その皿は中身をそのままに厨房に戻させた。料理長に、こちらでは今後は犬を飼おうと思っているのでそれ用に食事の量を少しだけ増やして欲しい、姫様が今日はストレスで胃を壊しているので用心のため夕飯はいらない、という伝言とともに。後宮内の妃や妃候補の食事に不具合があれば、厨房全員の首が飛びかねない。伝言で料理長が厨房内でチェックを厳しくしてくれることを期待する。シリルには、黙っておくよう念を押してから、数匹の仔犬を手に入れてくるよう頼んだ。ついでに、医者を呼び、胃を押さえて、ストレスによる胃の炎症ではないかと言ってみる。こういう病気は、胃カメラがないこの国では言ったもん勝ち。医者の同意を得て、今夜は夕食を控え静かに過ごすことにする。もちろん、その旨は王様の側近に、数日間は、王様の訪問は必ず止めてもらうよう伝えた。体調が悪くなり、万が一、うつる病気だったらいけないから、とか言って。

 その晩から、王様の訪れはなくなり、仔犬3匹と楽しい日々を送るようになった。訪れがなくなった2日後には、嫌がらせは収まった。とはいえ、以前は顔を合わせることも無かった美女の妃達が、庭園などでわざわざ近くを通り、嫌みな言葉を投げかけて来るようになった。お供についている数人の女官と、不器量な子供のくせにと嘲笑って行くのだ。気分がよろしくないことだが、暫くは、我慢しないといけないのだろう。まあ、仔犬達はかわいい、毒味のために飼うことにしたけれども、美女達の気分が悪い出来事も、彼等に癒してもらうことにしよう。

「ジロ、タロ、チャロ~、ご飯だよ~」

 夕飯の準備が出来た部屋に仔犬達を呼ぶ。まだ短い足で、一生懸命走ってくる。可愛すぎる。私の食事から少しずつ取りわけた皿を、仔犬達の前におく。すぐにガツガツと食べ始める。仔犬達が食べ終わるのを待って、私も食べ始める。今日もおいし~い。仔犬達は、食事を終えて、しばらく兄弟で追いかけっこをしていたが、私もデザートを食べ終わり、ちょっとウトウトしはじめた仔犬の一匹を抱き上げ、寝室へ移動する。他の二匹も歩く足元に着いてくる。仔犬達用のベットに仔犬達を入れてやる。もうすぐ、みんな寝てしまいそうだ。自分もシリルに手伝ってもらい、寝る支度をした。


 夜、また陛下がやってきた。一週間ぶりである。その姿を見て、がっかりした。

「せっかく来てやったというのに、その態度は何だ」

 がっかりしたのが、離れていてもわかったのだろう。大股で歩み寄ってくる。確かに、全く隠す気にもならないので、とりあえず態度はそのままに言葉を返した。

「お疲れ様でございます、陛下」

 言葉とともに、溜め息が出るのは、いたしかたない。

「ナファフィステア、嬉しくないのか?一週間ぶりに来てやったのだぞ」

「あぁ、一週間でしたね」

 平穏だった日々が遠ざかる。美女な妃達から、より一層の嫌がらせが始まるのかと思うと、目の前の男の顔を、笑顔で見返すことはできそうにない。目も口も閉じることにした。


「余は心配していたというのに、その顔は何だ」

 今夜も疲れまくったベットで、陛下が私の髪を梳きながら言う。

「お見苦しくて、申し訳ございません」

 仏頂面で、答える。目を閉じたままだ。

「今日は痛くはなかったであろう?機嫌を直せ。宝石を与えよう。ルビーがよいか、それともサファイアか?」

 他の美女な妃達は、宝石で機嫌を直すらしい。まぁ、どうせなら何か貰っておくべきだろう。

「宝石は欲しくありません」

「では、何が欲しい?」

 せっかくの申し出なのだから、何にしようかと、慎重に考えた。

「街に出てみたいです。シリルと一緒に、街のカフェで、スイーツを」

「ならぬ」

 言い終わる前に、否定されてしまった。ま、そうだろうな。あまり期待していなかったので、王様に背を向けるように寝返りをうち、そのまま眠ることにする。

「街に出るのは危険なのだ。聞きわけろ。ナファフィステア?」

 王様はまだ何か言っていたが、無視して眠る。疲れているから、多少の雑音があっても眠れるのだった。


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