第4話
すこしだけ無理やりっぽい表現がありますので、そういうのがお嫌いな方はご遠慮くださいませ。
とりあえず、笑顔を顔に張り付けたまま、陛下を見る。陛下は、ため息をつくようにセグジュ先生に話しかけた。
「ナファフィステアは、いつもこうなのか?」
「いつもは普通におしゃべりをなさいます。お姫様、一体どうされたのです」
陛下とセグジュ先生が私を見る。
「別にどうもしないわ。知らない人に、何か話せって言われてどうすればいいか知らないだけよ。普通、どうすればいいの、セグジュ先生?」
セグジュ先生は、ため息まじりにこう言った。
「陛下がおっしゃったのは、お姫様とおしゃべりをしようという意味なのだよ。だから、話はなんでもよいのだ」
「おしゃべりを?それならそうと言ってくれればいいのに」
「まだ、勉強が足りぬようだな」
陛下はセグジュ先生に向かってそう言った。先生が低く評価されているようだ。まあ、仕方ないのだろう、この状況では。
「貴婦人としての嗜みを学ばせるには、別のものを付けよう」
「貴婦人にならなくていいです。別に必要ないんでしょう?」
マナーの教師がつくなんて、とんでもない。セグジュ先生の勉強なら楽しいけど、なんだか、そういう勉強じゃなさそうなので、断った。すぐ、セグジュ先生がギョッとした顔で私を見た。
「貴婦人でなければ、余の妃にはなれぬ」
私は妃にならない方がいいと思う。ので、その王様の言葉には何も言わずにいた。沈黙は重苦しい。
「余の妃にはなりたくないというのか?」
部屋の中に王様の言葉が響く。そんなに力入れて言わなくても。
「陛下はお父さんに近いくらいの年齢だし、気が進まないです」
つい本音が口から出てしまっていた。
「何だと?余が年寄だというか」
陛下の様子が不穏なものになっている気がする。確かに、我ながらうっかり口が滑ってしまった。
「子供ゆえ猶予を与えたが、間違っていたようだ。今夜はお前を召すことにしよう。セグジュ、教育しておけ」
陛下は不機嫌を露わに、部屋を出て行った。陛下が去った後、部屋では疲れた様子でセグジュ先生が、どっかりと椅子に腰かけた。
今夜と言われて、戦々恐々として待っていたが、結局、訪れはなく、脅し言葉だったようだ。安心して、元の生活を続けた。あの脅し言葉の後、セグジュ先生は、夜、陛下が部屋に入ったら、何をされても陛下のすることに従い逆らってはいけないとしつこく念を押された。具体的な説明は一切なかった。陛下の言った、教育しておけってのは、絶対に逆らわないように躾けておけってことだったようだ。
数日後の夜、すっかり寝入ったところに陛下がやってきた。シリルに揺り起こされ、無理やりに暗い部屋の中をぼんやりと眺めている間にシリルが外に出た。ベッドに裸の大きな男が入ってきて、やっと、これはやばい、と目が覚めた。
「へ、へ、陛下?」
ベッド横の小さなテーブルに置かれた蝋燭の明かりが、自分にかぶさってくる男を照らす。でかくて、分厚い肉食系な体をしている。無駄な抵抗はしない。かなうはずもないし。7人も妃のいる王様なら、無難にこなしてくれるはずだ。もともと、ここが後宮という場所である以上、我慢しようかなとは思っていた。
が、抵抗する気はなかったが、泣きわめくことになった。なぜなら、とっても痛かったのである。何といっても、サイズの問題だろう。156cmという私の身長は、ここの世界ではとても小さい。女性は平均的に180cmくらいあるようで、男性は2mに近い身長なのだ。体の厚みも違うので、日本人とは比較にならない。そんな人種が違うのだから、サイズも合うわけがないのだ。痛い思いから解放された時には、眠ることしか考えられなかった。
翌朝、目が覚めると、陛下はすでに部屋にはいなかった。いつ出て行ったのか。できれば二度と来てもらいたくないものだ。あちこち、身体がきしむ。体の奥も、少々鈍い痛みがあり、ベッドから出たものの、クッションを抱き、ソファーでだらんと寝転がって過ごした。
ソファーで半分くらいは寝て過ごし、夕方には、なんとか回復した。あちこちが筋肉痛にはなっているが。運動をした方がいいかもしれないと思いながら、ソファーに寝そべりクッキーを片手に本を読むという行儀悪い姿勢でいるところへ、今夜も陛下がやってきた。なぜに、前もって連絡してこないのか。急に起き上がることもできず、口の中のクッキーをとりあえず食べてしまおうとむしゃむしゃしているうちに、シリルは部屋を出ていき、陛下と2人きりになる。
「行儀が悪い。マナー教師を付ける」
「ここは私の部屋だから、行儀が悪くてもいいのではないですか?」
先に来ると連絡してもらえれば、それなりに準備しておいたのに。普通は、夜に陛下が訪れる場合は前もって連絡があるとシリルは言っていた。なのに、昨日も今日も、突然のお越しだ。
「婦女子はいかなる時もマナーを気にするべきだ」
そう言いながら、服を脱いでいる。今夜も痛い思いするのは嫌だなぁと思いながらそれを見る。
「陛下、今夜は、余所に行きませんか?」
脱ぐのを途中でやめ、私の方を見る。口元が笑っているように見えるのに、その顔は、怖い。冷笑というやつか。
「何処へ?」
「まだとっても痛いんです。お願いですから、他の妃のところへ行っていただけませんか?」
ゆっくりソファーで身を起こし、そのまま正座した状態で、陛下に言ってみた。
「黙って余に従っていればよい」
やはり無駄だったか。仕方がないと思いながらも、また痛いのかと思うと、ついぼそぼそと言葉にしてしまった。
「黙って従ったら痛いことが待っているだけじゃない」
陛下から目を逸らして、ソファーでできるだけ縮こまっていると、抱えあげられベッドに運ばれてしまった。
「今日はそれほど痛くないはずだ」
「いいえ。絶対、痛いと思います」
「試してみなければわかるまい。大丈夫だ、今日は」
そうして今夜も痛い思いをすることになってしまった。だから、初めてとかいうんじゃなくて、まだ中が痛いんだっつうの。今日はまた熱心に長引かされるもんだから、余計に疲れてしまった。
「大丈夫か?」
「痛い、痛い、痛い、痛いっ」
ベッドの上で、陛下から顔をそむけて、強く言い返す。それなのに陛下が私に触ろうとするので、その手をはねのける。
「痛いって言ってるのにっ。触らないでくださいっ」
怒り満載で、言い放つ。態度が悪いと言われようとも、痛いものは痛い!たとえ、あんまり痛いわけではないとしても、腹が立っているので痛い!を強調しておく。
「そのうち慣れる」
陛下の方に身体を向けられる。その顔には、表情がない。それが、余計に腹立たしい。こっちは子供で(本当は違うけど)痛い思いをしているっていうのに、少しは労わろうと思わないのか。ブスっとした顔のまま、口を閉ざした。今口を開いたら、文句しか出てこない。そうしたら、また、逆らうだの何だのと言われるに違いないのだから。陛下は、私の頬を掴んで顔を合わせようとしているが、私は視線を合せないよう目を閉じた。
「そんなに痛かったのか?」
なでるように頬に置いた親指をゆっくり動かしながら問いかけてくる陛下の言葉を無視し、黙って目を閉じていると、そのまま眠りに落ちていった。




