表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

第19話

 事件のあと、目が覚めると、知らないベッドの上だった。今までよりも豪華なベッドのようで、シーツの感触もサラサラでもしかしてシルクなのか気持ちがいい。周りを見回しても、高級そうな鏡台、箪笥、部屋のあちこちに置かれた燭台も華美な装飾付き。夢遊病でやってくるにしては、いいところを選んでるな、私。と、朝から寝ぼけたことを考えていると、ノックの音とともに女性が入ってきた。

「お目覚めでございますか?今日からナファフィステア妃の部屋付きとしてお世話させていただきます、リリアと申します」

 20歳前の娘で、王宮の部屋付きメイドの制服を着ている。ここは、王宮の客室、のようだ。

「おはよう。リリア」

 ぼんやりと、返事を返す。昨日、ヤンジーが名乗った名前と同じ。前から私の部屋に付く予定だったのだろうか。いやいや、私の部屋付き?ここは、王宮内に準備された私の部屋のようだ。まあ、後宮には新たに人が入るのだから、古い人は出た方がいいと思う。誰もいなくなったところで、また、揃えればいい。

 ぼーっとしていると、テーブルに朝食の準備が整えられていき、美味しそうなスープの香りが、食欲をそそる。ベッドから降りると、リリアが私の傍にやってきて、着替えをさせてくれる。本当は、着替えより前に、そこの朝食を食べたかったなと思いながら。


 朝食を食べて満足していると、手早く片付けて、食器などをワゴンに乗せ、ドアの外へ合図する。すると、別の女性が入ってきて、食器の乗ったワゴンを持って行った。女官はシリルしか接することがなかったけれど、レベルが違う。リリアは、上級女官だと思わせる程、上品な仕草で速やかに作業をこなしていく。さすが王宮の女官、厳選されたエリートなのだ、素晴らしい。再びノックされたドアから、お茶セットが乗ったワゴンが入ってくる。そのお茶をセットし、渡される。お茶を飲んでいる間に、本日の予定、を説明された。

「本日のご予定は、午前11時にナファフィステア妃専属事務官よりの挨拶、午後1時に白ユリの間にて昼食、午後3時に宝飾屋と打ち合わせ、午後4時にダンスのレッスン、午後5時半に庭園の散歩、午後7時に青ユリの間にて王様と晩餐となっております」

 なんだか急におかしなことに、なっている。専属事務官って一体、何。打ち合わせ?レッスン?

 いろいろなことが頭をかけめぐったけれど「はい」と素直に返事をするにとどめた。


 午前11時には、ナファフィステア妃専属事務官の代表2人がやってきた。専属部署というのがあって、現在では十数人が働いているらしい。舞踏会や面談をする場合は、対面した日時や会話内容など全てを記録し把握する部門、衣装や身に着ける宝飾品など外見全てを管理する部門、王様の意向に沿うよう行動や予定を組み様々な手配を行う部門など、いろいろなことを管理しているらしい。私専属の秘書部門。代表のユーロウスは秘書、副代表のソンゲルは第二秘書。妃っていうのは、いろいろ大変なようだ。今日は初日ということで、秘書だけでなく第二秘書も一緒に、本日の予定をクリアしていった。


 今までグータラな生活だったのに、急に仕事(妃業)をはじめたので疲れた。この世界にくるまで、ちょっとの間だったが、大学を出て職場で早く仕事に慣れるよう一生懸命だった頃のことを思い出した。たった半年間だったし、仕事内容は、新人向けのお茶汲みや簡単な事務作業ばかりだったけど。妃の仕事は、なかなか楽しいかもしれない。今まで妃候補の住まいにいた上に、他に妃がいたから、妃の仕事を免除されてたのだろう。午後5時半に、ジロとチャロを連れて30分ほど庭園を散歩しているときにのんびりと考えていた。その後、30分程の睡眠休憩のあと、本日の予定のラストである“王様との晩餐”のために服を着替えた。


 ユーロウスに連れられて青ユリの間と呼ばれる部屋に案内される。そこはちょっと小さ目の食事の間だ。ユリの名が付いているのは食事用の部屋なのかもしれない。昼食は白ユリの間だったから。

 少し待つと、王様が入ってくる。席を立ち、礼をして王を迎える。食事をするのが、王と私の2人だけとはいえ、周りにはユーロウスをはじめとして配膳をする人から警備の人から、何人もの人の目が集中する。こんな中での食事が仕事というのも、サラリーマンは飲み会も仕事の内っていう、あれみたいだ。

「ナファフィステア、今日は忙しかったであろう?」

 陛下が問うてくるけれど、ここで下手なことは言えない。前の私の部屋なら何でも言えただろうが、この会話もメモに残されると思うと、口が重くなる。

「ユーロウスと部屋付きのリリアがおりますので、問題なく過ごすことができました」

「それは、よかった」

 無難に答えている私の様子を陛下も観察しているようだ。他の人も観察してるのに、勘弁して欲しい。後でみんなに、ここでの観察記を書いてもらいたいものだ。どんな観察記になるのやら。

「後宮は閉じることにした。そなたの荷もすべて、部屋に運ばれている」

 閉じる、のか。だから、私は王宮にいるのだ。後宮のあのコテージでは2年も暮らしたのだから、愛着があり、もう入ることはないのかと思うと残念だった。あそこには、タロの墓もある。後宮を出たのだから、私があそこに入ることは、もうないのだろう。

 エリディアナ妃や女官達のことは聞かない。王の決めたことに、どうこう言う必要はない。詳細を聞いても、気分いいものではないだろう、誰にとっても。

 それにしても、私が言葉を選びすぎて、口数が少なくなっているせいか、話は弾まない。別に、弾まないからと言って、私は困りはしない。舞踏会でもそうだが、王宮のお仕事タイムは、口数の少ない大人しいお澄まし姫君の路線で過ごすつもりだからだ。下手なことを言わない方が安全なのだ。デザートを終え席を立ち、王から退出の許可を得て、部屋を出る。ユーロウスに部屋まで送られて、本日の予定が全て終了した。


 リリアに手伝ってもらい、風呂に入ってさっぱりしてベッドに飛び込む。「おやすみなさいませ」と言ってリリアは部屋から出て行った。後宮でのベッドよりはるかにフカフカしたマットや枕。まだ、9時半だというのに、瞼が閉じていく。今日はやっぱり疲れたのかもしれない。気持ちよーく睡眠に入って行こうとするところを、またしても揺すられる。昨日と言い今日と言い、寝る前に変なお化けがでるようだ。負けるものか、無視ムシ無視ムシ。

「起きろ!お子様か、お前は。昨日も今日も早くから寝つきおって」

 耳元で怒鳴る王様の声に、今日はさすがに眠りの世界から呼び戻されてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆押していただけると朝野が喜びます→
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ