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第13話 (サイドB)

ここから再び陛下視点の話が続きます

 舞踏会場から黒の姫の退場後、しばらくして、王も退場した。だいぶ夜も更けていたが、彼女につけていた騎士に舞踏会場での警備状況を報告させる。

「ゾイエグルド家のセシリアンナ嬢は、はっきりと後宮へ入ると告げていました。他の女性も幾人かは、それを匂わすような態度でした」

 カウンゼルは腹立たしそうな口調で言う。一妃の警備など、不満であっただろうに、そんなことも忘れて、令嬢達の態度に怒っている。ボルグもそれは同じようだ。

「姫君は別段気になさっておいでではありませんでした。それどころか、彼女達のことを覚えられないと困っておいでです」

「セシリアンナ嬢にも、次に会ったとき覚えていないだろうという意味のことをおっしゃってらっしゃいました」

 セシリアンナといえば、今年社交デビューした中で、いや近年で最も美しく可憐な令嬢と言われている。後宮に事件が起こるまでは、王妃候補として後宮入りが噂されていた。余も今夜初めて紹介されたが、特に美しい娘だった。

 あの美しい娘を、覚えられない?知能的に問題でもあるのかと、とっさに思ったが、セグジュの教育に関しても特に記憶に問題があるわけではなかったはずだ。そういえば、過去の観察報告書では、彼女が何人かの妃を間違えているという記載はあった。もしかして、間違えていたのではなく、覚えてなかったのか。カウンゼルは、自分たち2人のことは覚えていると言われたらしい。そして、金髪の端正な顔立ちの人は、似ていて覚えにくいと彼女が言ったことも。

「王様みたいに特別目立つ服を着ていればわかる、と?」

 もしかして、煌びやかな服を着ていなければ、彼女は、余のことがわからないのか?あれだけ近くにいたのに、覚えていないなどということがありえるだろうか。だが、確かに最初の頃、余を見ても誰かわかっていないようではあった。彼女の部屋で会うときには、部屋に入る前に女官が“陛下がいらっしゃいました”というのだから間違えようもない。薄暗い明かりの中で過ごしたのがほとんどで、先日、庭園への散歩が明るい光の元で会った唯一の機会だったのだ。顔も覚えられていない、ただの“陛下”とだけの認識。おそらく、王の名も知らないに違いない。興味もないのだろうから。

「あれが舞踏会へ出席することは、多くはない。次は騎士だけでなく、貴族の顔を覚えている事務官をつけることにしよう。ご苦労だった。下がってよい」


 寝室で、今日の彼女の報告書に目を通す。朝から風呂で磨かれ、顔や体中をクリームでほぐされてから、お昼寝。その後、仕立て屋一行にドレスを着せられ手直しされている間、身動きできなくて不満だったらしい。だが、あのドレスを着た彼女は綺麗でよく似合っていた。そういえば、以前に贈ったドレスはどんなだったか。覚えてもいない。その頃、彼女をどれほどぞんざいに扱っていたのかわかろうというものだ。贈ったドレスや宝石を身に着けないことの意味を考えることもなく。彼女が着飾ったのを見たのは、今日が初めてだった。首にも耳にも手にも何の宝飾品も付けていなかった。滑らかな象牙色の首筋から胸元。彼女は“真珠”と呼ばれる白い宝石を望んでいたが、ないと知ると他の宝石を身に着けるのを嫌がったという。“真珠”とは一体どんな宝石なのだろう。調査させて手に入れようと頭にメモをする。

 舞踏会場では、彼女に声をかけた貴族が詳細に記述されている。この報告書から彼女専用の事務管理部署を作ることを思いつく。彼女が覚える必要はない、彼女専用の事務官がすべて覚えていればいいのだから。新たな部署の設置について考えをめぐらせた。


 翌日、早速、彼女の専門部署を立ち上げるよう宰相に伝える。

「ナファフィステア妃のためだけの、部署でございますか?それでは、他の妃たちに示しがつきません。今おられる方々だけでなく、今後、後宮に入られる方もおられるわけですし」

「そうです。それに、将来、王妃が立たれるときに、そのような部署があると、王妃の部署と対立してしまいませんか」

 宰相と、宰相補佐が口々に反対する。

「今朝から、令嬢を後宮に上げたいと申し出てくる者が後を絶ちません。昨日の舞踏会は大成功でございました」

「陛下のお目に留まった女性はいらっしゃいましたでしょうか。すぐにでも後宮へ上がらせてはいかがでしょうか」

 昨夜の舞踏会では、彼女を特別扱いして牽制する予定だったのだが、その思惑が理解されていなかったらしい。宰相たちにさえも。

「余は、誰も後宮に入れるつもりはないと、以前、言わなかったか」

 2人に向かって、眉をしかめてみせる。

「もちろん覚えております。あの事件の最中でございました。ですが、今は状況が変わってきております。世間も後宮が華やぐことを歓迎いたしましょう。今年は際立って美しい娘がいるようですし、早くに後宮入りさせた方がよいのではありませんか?」

 他の男に手折られるより先に後宮入りさせるべきというのか。『子供に無理強いする男』という言葉が頭をよぎる。際立って美しいと言われるセシリアンナ嬢が子供というわけではないが、一回りも年下の娘ということに変わりはない。

「お世継ぎをもうけられるよう、後宮の女性を増やし、また、華やかな状態にいたしましょう」

 華やかな?また、後宮に入ってくる女は、ことごとく彼女をあざ笑うのだ。醜い争いを起こし、互いに牽制しあい、陰湿な悪戯を繰り返すのだ。あんな表面だけ美しく見えるだけの醜い世界を、もう一度作ってなるものか。一度きりで沢山だ。

「世継ぎは、弟のジェイナスがいるから問題ない。後宮へは誰も上げるな。あのような騒動はこりごりだ」

 現在10歳になる弟のジェイナスは、側妃の子供なので異母弟にあたる。王妃の子ではなく側妃の実家の身分がさほど高くないので、王位を継ぐには、多少の問題を引き起こすだろうが、他に王の子はいないのだから世継ぎとなるのに不足はない。前王の父が病で亡くなったとき、王位を受け継ぐと同時に、後宮は総入れ替えとなった。弟を産んだ側妃は、弟と共に後宮に残ることができるのだが、側妃は弟を連れて真っ先に後宮を出た。後宮の醜さを、よく知っていたからかもしれない。

 彼女の専門部署については、一応、数人の事務官を手配することにした。


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