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掌編小説

自分の呼び名

作者: 斎藤康介

 自分の呼び名が「俺」になったのは小学校6年生のころだった。マンガやアニメの影響か、周りの友達の影響か、それまで「僕」と言っていたが思春期のはじまりとともに恥ずかしく思え「俺」に変えた。

 一大決心だった。

 急に「俺」と言うことで周囲に格好つけていると見られるの嫌で、最初は10回に1回しか「俺」と呼べなかった。そのうち5回に1回と徐々に違和感がないよう周囲に慣らしていった。完全に「俺」と言うまでは半年かかった。

 だがやっとのことで取得した「俺」も年齢を重ねるに従い「私」に変わった。「私」と言いはじめた時は、遠い誰か別人のことのように感じたが、いまでは使い込んだ革製品のように馴染み自分の一部になっている。


 自分の呼び名が変わるたびに自分の内容(なかみ)が書き換わるように思える。「僕」から「俺」そして「私」と、自分は一人なのに呼ばれた私はそれぞれ別人なのだ。そして呼び名が増えても前の呼び名の自分はまだ自分の中にいる。何とも不思議な気分だった。



 頭をそっと何かが撫でた。

 意識を現実に浮上させ目を開けた。妻がソファーの隣りに座りこちらを見て笑っていた。


「こんなとこで寝ると風邪ひきますよ」


 いつの間にか眠っていたらしい。


「ああ、すまない。ところで……」と私は大きくなった妻のお腹に触れた。

「身体の方は大丈夫か?」


「はい。さっきもお腹を蹴ってました。この子も待ちきれないんでしょうね」


「せっかちなところは俺に似たのかもしれないな」


「本当ね」


 手に温かさが伝わってくる。


 明後日、自分の呼び名に「パパ」が加わる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は最初からずっと"私"でしたねぇ...。 しかし、友人と喋る時は時々"俺"や"僕"になります。 女の子にも、格好付けたい時があるんです(←何だこれ)。 素敵な作品を、ありがとうござ…
[良い点] 年と共に一人称が変遷する過程を分析的かつ丁寧に描写している点が良いです。 結末も温かみがあり、心地よい読後感です。 [気になる点] 「僕」「俺」を経て「私」という一人称に落ち着いたと説明…
[一言] 子どもの頃、「うち」から「私」に変えるのが何だか照れくさくて大変だったのを思い出しました。最後の文がよかったです!
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