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第4-3話:垂直の叛逆者(改訂版)


1. 奈落の淵の攻防

リフトが最下層――高度600メートルの「集積プラットフォーム」に到達したとき、そこには異様な静寂が満ちていた。

ここはタワーの居住区から切り離された、巨大な廃棄物処理施設。頭上からは、上層階から捨てられたガラクタがシュートを通って、奈落のような処理炉へと絶え間なく吸い込まれていく。


「……静かすぎるわ」

アイリスが小さく呟く。黒く染めた短い髪が、冷たい機械風に揺れた。

「ああ。ネズミ一匹いやしねえ。嫌な予感がするぜ」


カイルはアンカー・ガンのシリンダーを確認し、油に汚れた手でアイリスの背中を軽く押した。

二人が目指すのは、プラットフォームの端にある「緊急脱出用滑走レール」だ。かつてタワーの建設時に使われていた骨董品だが、今のカイルにはそれしか選択肢がなかった。


その時、プラットフォームを照らすナトリウム灯が一斉に消灯した。

代わりに、頭上の暗闇から、冷たく透き通った青い光が降りてくる。


「……ターゲット、捕捉」


機械的な合成音声ではない。それは、血の通った、だが感情を削ぎ落とした女の声だった。

上空からゆっくりと降下してきたのは、純白のセラミック製装甲に身を包んだ**「執行官エグゼキューター」**。タワーの秩序を維持するためだけに造られた、最高位の追跡者だ。


「アイリス・ユニット。あなたの『同調係数』が乱れています。再調整のため、帰還を命じます」


執行官の手には、長大な電磁ランスが握られていた。その先端から放たれる青い火花が、周囲の鉄錆を焼き焦がす。


「再調整……? 冗談じゃねえ」

カイルがアイリスの前に立ちはだかる。「こいつはアイリスだ。ユニットでも標本でもねえ。あんたらの『部品』に戻る気はさらさらないんだよ!」


「不合理な主張です。点検員カイル。あなたはタワーの資産を毀損しました。罰則は……『焼却』です」


執行官が地を蹴った。

その動きは人の限界を超えていた。白い閃光となって迫る電磁ランスに対し、カイルは咄嗟に床に転がっていた重厚な鉄板を盾にした。


ドォォォォォン!!


凄まじい衝撃波がプラットフォームを駆け抜ける。鉄板は紙のようにひしゃげ、カイルの体は後方のコンテナまで吹き飛ばされた。


2. 決死の脱出行

「カイル!!」

アイリスが叫ぶ。執行官は容赦なく次の突きを放とうとするが、アイリスは無意識に両手を突き出した。

その瞬間、彼女の身体から青い燐光が爆発的に溢れ出す。タワーのエネルギー循環システムを逆流させる「オーバーライド」だ。


「なっ……出力が異常上昇!? ユニット自身がシステムを拒絶しているというの!?」


執行官のセンサーが狂い、ランスが空を切る。その隙を見逃さず、カイルが瓦礫の中から飛び出した。

「アイリス、伏せろ!」

カイルはアンカー・ガンを、プラットフォームを支える巨大な吊り下げボルトへと叩き込んだ。


ガツゥゥゥゥン!!


アイリスの暴走エネルギーとカイルの一撃。

二つの力が重なり、老朽化したプラットフォームの一部が悲鳴を上げて崩落を始めた。


「アイリス、跳べ!!」

カイルはアイリスの腰を抱き寄せ、崩れ落ちる床と共に虚空へと身を投げ出した。

背後では、執行官が体勢を立て直そうとするが、暴走するエネルギーの余波に飲まれ、追跡を断念せざるを得なかった。


二人は小型のパラグライダー・ユニットを展開し、夜の雲海へと滑り込んでいく。

激闘の末、どうにか執行官の手を振り切ったのだ。


「……はぁ、はぁ……逃げ切ったか」

カイルの声は、極度の緊張と衝撃で震えていた。

アイリスもまた、先ほどのエネルギー解放の反動で、意識が遠のくほどの疲労感に襲われていた。


だが、二人はまだ知らなかった。

この勝利が、さらに過酷な運命の幕開けに過ぎないことを。


3. タワー管理室:監視者の冷眼

遥か上空、雲を突き抜けたアイテリス・タワーの最上部付近。

全面ホログラムに囲まれた「タワー管理室」では、一人の男が静かにモニターを見つめていた。


タワー総管理者、ゼノア。

彼は、完璧に整えられた銀髪を指でなぞりながら、執行官が送ってきた敗北の記録を再生した。


「……面白い。アイリス・ユニットが自らの意志でシステムを逆流させたか。あれはただの『電池』ではなかったというわけだ」


傍らに控えるオペレーターが、震える声で尋ねる。

「……直ちに、第2次奪還部隊を編成しますか? 執行官を増員すれば、次こそは確実に……」


「いや、急ぐ必要はない」

ゼノアは薄く笑みを浮かべた。

「彼女のエネルギー波形は急激に減衰している。あれほどの負荷をかけたのだ、数時間はまともに動けまい。カイルという点検員も、肋骨の数本は折れているはずだ」


ゼノアは立ち上がり、巨大な窓から眼下に広がる雲海を見下ろした。

そこには、逃げ惑う二人の微かな熱源反応が映し出されている。


「獲物は追い詰められてから、一番甘美な絶望を味わう。……今度は私が行こう。アイリス、お前が選んだその『自由』が、いかに脆く、残酷なものであるかを教えてやる」


ゼノアの冷酷な瞳が、暗闇の中で青く光った。

奪還作戦は、まだ始まったばかりだった。

AIが終わらせてきたので書き直し。よって改訂版となりました。

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