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6-3:【新勢力編】雲海の下、緑の胎動

6-3:【新勢力編】雲海の下、緑の胎動

アイテリス・タワーの最下層よりも、さらに下。

厚い雲海に遮られ、太陽の光すら届かぬはずの地表には、タワーの住人たちが教えられてきた「死の世界」とは正反対の光景が広がっていた。


そこには、巨大なシダ植物が鉄の廃墟を飲み込み、放射能や汚染を糧として進化した未知の生態系――**「緑の深淵グリーン・アビス」**が息づいていた。かつての人類が遺した都市のむくろは、今や巨大な樹木の根によって粉砕され、大地の栄養へと還りつつある。


その森の奥深く、カモフラージュされた旧時代の地下シェルターを改装した拠点に、彼らはいた。


「……第82層、エネルギー伝導効率に0.01パーセントの揺らぎを確認。これは……モールス信号です」


バイオ発光するモニターを見つめていた若い観測員が、驚きに声を上げた。

彼の背後から、一人の女が歩み寄る。全身を柔軟な植物繊維とナノマシンを掛け合わせた「バイオ装甲」で包んだ、地表の守護者――地表軍ガイア・レジスタンスの指揮官、サリナだ。


「モールス? 今時、タワーの貴族共が使うような古臭いコードじゃないわね。……解読できる?」


「はい。……『タスケニキテ』……『コアニイマ』。……信じられません。これを発信しているのは、タワーの中枢コアそのものです」


サリナの鋭い瞳が、モニターに映し出されたアイテリス・タワーのシルエットを射抜いた。

数日前、雲海を割って落ちてきた一筋の光――カイルとアイリスの決死の脱出劇。彼らは地表からその光景を、固唾を呑んで見守っていたのだ。


「あの時、落ちてきた二人……一人は連れ戻され、一人はスラムに捨てられたと聞いているわ。……でも、どうやら彼らはまだ諦めていないようね」


サリナは腰に帯びた、超振動を放つ「草刈鎌グラス・サイス」の柄を指で叩いた。

地表軍にとって、アイテリス・タワーは天にそびえる「吸血鬼」だった。タワーは絶えず地表から微量な熱量と地磁気を吸い上げ、その代わりに汚染された廃液を雲海へと垂れ流している。彼らにとって、タワーの崩壊は地表再生のための悲願だった。


「隊長。タワーは今、アイリス・ユニットの再調整のために、全防衛システムを内部コアに向けています。……外側アウトサイドの警戒が、歴史上最も薄くなっています」


「……チャンスね」


サリナは振り返り、待機していた百戦錬磨の兵士たちに号令をかけた。

彼らの傍らには、かつてタワーから墜落した「執行官」の残骸を修理・改造した、不気味な黒い自立兵器たちが控えている。


「いい? 私たちの目的は、タワーの破壊ではない。……タワーを『止める』こと。そして、あの頂上で叫んでいる少女を救い出し、この大地に連れ戻すことよ」


サリナは、シェードの隙間から見える、遥か高空の「光」を見つめた。

そこには、自分たちと同じように、あるいは自分たち以上に、この不条理な世界に抗おうとしている「点検員」がいる。


「カイルと言ったかしら。……あんたの執念、私たちも利用させてもらうわよ」


地表から、数条の「緑の炎」が上がった。

それは、大気中の汚染物質を推進剤に変えて飛翔する、レジスタンス独自のステルス突入艇。

彼らは雲海を垂直に駆け上がり、タワーの「胃」――すなわち、カイルが今まさに這いつくばっている第8居住区を目指して、音もなく加速した。


6-4:【終結】三つの力の合流点へ

スラグ・タウンの診療所。

ネジ爺によって、もはや「兵器」に近い形状へと改造された義足を、カイルは自身の神経と強引に同期させていた。

「……ぐ、あああぁぁっ!!」


激痛。脳が焼けるような熱さ。

だが、その苦痛こそが、彼が生きている証であり、アイリスへ繋がる唯一の糸だった。

そんな中、カイルが修理していた古いモニターに、一瞬だけアイリスの信号が映り込み、消えた。


「……アイリス。待ってろ。今、行く」


その時、診療所の天井が激しく震動し、巨大な蔦のようなワイヤーが突き刺さった。

「なっ、何だ!?」ネジ爺が叫ぶ。

煙の中から現れたのは、管理局の制服ではない、緑の迷彩を纏ったサリナたち地表軍だった。


「……あんたが、カイルね」

サリナは銃口を下ろし、カイルの異様な義足を見て、ニヤリと笑った。

「その足……悪くないわ。私たちと一緒に、あのご立派な塔の『喉元』まで駆け上がる気はない?」


カイルは、目の前の「未知の勢力」を警戒しながらも、彼らが放つ気配がゼノアたちとは決定的に違うことを感じ取っていた。彼らは、アイリスが夢見た「外の世界」の住人だ。


「……目的が同じなら、断る理由はねえ」


カイルは、火花を散らす右脚を一歩踏み出し、床の鉄板を凹ませた。


記憶を取り戻した叛逆者、カイル。

内側からシステムを掌握する少女、アイリス。

そして、地表からの解放者、ガイア・レジスタンス。


三つの運命が今、高度800メートルの「胃」の中で、アイテリス・タワーの心臓を止めるための巨大な一撃へと束ねられた。

次回予告:第7章「神々の黄昏ラグナロク

地上、中層、最上層。

三方向から始まるタワー攻略作戦。ゼノアはアイリスの意識を完全に抹消する「最終プログラム」を強行。

カイルはサリナと共に、管理局の猛攻を潜り抜け、垂直の壁を駆け上がる!

ついに明かされるタワーの真実と、アイリスの出生の秘密。

物語は、空と大地が激突する最終決戦へと突入する――。

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