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[全6話] 引きこもりのデュエリスト~神様の遊戯~  作者: 安ころもっち


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第五話


「ふは、ふははははっ!」


 高笑いをしながら勝利を確信したガブリエレ。


「よし。最後はそのまま自死するが良い!暴虐のエレファント、そして……、こいつと、こいつで大丈夫だろう。こんな茶番も終わりだ。さあ、ターンエンドだ」


 ガブリエレは防御力の高い「暴虐のエレファント」と、「癒しの水場」という属性変更カードを出して、暴虐のエレファントの周りを湿地帯に変えた。


 そして最後の一手として、「君臨する大滝」という水属性の召喚士をワンターンだけ守る支援カードを場に出した。そのカードは暴虐のエレファントを守る最強の盾となるだろう。


 和樹のターンは残り一度だけ。


 これにより、和樹の敗北が決定したのだ。


「いや、いやだよお(にぃ)、ねえ、神様、助けて?私、なんでもするから……」


 部屋の中では悲痛な声を上げ、アルテミオに縋りつく絵里の姿があった。


 すでに敗北を確信してしまった和樹だが、プロとしての自尊心だけでその手を山札に伸ばした。


 先ほどのガブリエレのターンエンドにより五枚のカードが墓場まで送られ、残り一枚だけ残った山札。最後の一枚を手繰り寄せた和樹だが、その表情は絶望に染まっていた。


 手にあったのは「墓場のお掃除マニア」だった。


 これで山札には五枚のカードが戻ることになるが、このターンでの攻撃はすべて大滝により無効化されてしまう。そして次のターン、和樹のターンは自丸ことは無い……。つまりは、和樹の敗北が確定した瞬間でもあった。


 部屋では絵里の悲痛の叫びが響いていた。


 和樹は震える手を堪えながら最後の一枚のカードを見つめている。


「俺は、死ぬのか……」


 覚悟を決めた和樹だが、その胸中には妹のことばかりが浮かんでしまう。


「死ねないのに……、俺はまだ、絵里を守らなきゃならないのに……」


 頬を伝う涙は熱を帯びていた。


 その瞬間、指先から温かい熱が流れ込んでくるのを感じた。


 それはまるで体温のような柔らかな熱が、脈打つ命の鼓動が……。


 部屋では画面に向かって絵里が叫んでいる。


「勝手に死なないでよ!バカお(にぃ)!」


 その言葉に連動するように、凍り付いていた和樹の心臓を再び動かした。


 目の前のカードは光を放ち、その絵柄が変化を遂げた。その絵柄を見た瞬間、和樹の目が大きく見開かれる。


 光が収まりようやく確認できたそこに(えが)かれていたのは、いつもの陰気な墓守の老人ではなかった。


 生意気そうで、けれどどこか愛らしい栗色の髪をした少女のイラスト。


 カードの名は「墓場のお掃除マニア -絵里-」となっていた。


「なんだ……、これは……」


 和樹は驚愕した。もちろんこんなカードは存在するはずもない。彼のデッキに入っているはずがないものだ。


 そのカードの下部に書かれた効果テキストを見たとき、彼の震えは止まった。


――― 墓場にある全てのカードを山札に戻し、シャッフルする。その後、カードを5枚ドローすることができる。


 それは絵里の願いがこもったカード。このゲームのルールを根底から覆す、神への反逆のカードであった。


「ははっ」


 和樹の口から、乾いた笑いが漏れた。


「俺は夢をみているのかな?それとも、恐怖でイカれて勝手な妄想にでも浸ってるのかな?」


 和樹は今の状況に迷いを見せたが、それでもそのカードを高く掲げた。


「俺のターン!墓場のお掃除マニア -絵里-を発動!」


 戦場に光が満ちた。


 その効果通り、和樹の墓場のすべてのカードが山札へ戻り、手札へと五枚が加わった。


 新たに加わった手札から、「炎の巨人 -バーニングギガント-」と「幻武者 -村正-」の二体を前衛に召喚する。いずれも攻撃力に長けた召喚士だ。最後に「迎撃の砦」を召喚し、不意の攻撃にも備えておいた。


 山札は充分にあるのだ。


 じっくりと腰を据え、召喚士を増やして総攻撃を仕掛ければよい。そう思いながらも幻狼で攻撃を繰り出して、ガブリエレの大滝を発動させた後、ターンエンドを宣言した。


 ガブリエレが展開していた盾、「君臨する大滝」の水流が、その光を放ちその効果を消失させた。それをあっけに取られた表情で見ていたガブリエレが、悲鳴のような抗議の声を上げた。


「な、何だそれは!そのようなカードは存在せんぞ!イカサマだ!こんな勝負、やってられるかっ!」


 その表情には怯えが見えている。


「イカサマ?違うな……、これは、俺と妹の愛の力だ!さあ、さっさとお前のターンを終わらせろ!」


 和樹は得意気に宣言しガブリエレを指差した。


「くっ、忌々しいガキめ!」


 悔しそうに顔を歪め四体の召喚士を召喚ししたガブリエレ。だが、中々ターンエンドを宣言できずに固まっている。


「な、なあ。金はいくらでもやろう。地位も与える。この勝負、相応の合意の上で無効としないか?それで互いの命は救われる。良いだろう?俺がお前を全面的にバックアップしてやる」


 震える声で相談を持ち掛けるガブリエレに、和樹がうなずくことはなかった。


「後悔、するなよ!イケッ!生意気なクソガキの召喚士などすべて蹴散らしてくれるっ!」


 ガブリエレの宣言により、新たに召喚されていた四体により攻撃が加えられた。


 幻狼が分身と共に倒され、さらには炎の巨人も撃破された。だが、幻武者への攻撃は、砦の防御力向上の効果により不完全に終わった。


「タ、ターンエンドだ……」


 息苦しそうに宣言を終えたガブリエレは、力なく膝をついていた。


「新たに召喚するのはこいつらだ。そして……、最後の攻撃を始めよう!」


 最初に前衛に出現したのは「炎を纏いし天馬 -紅雲-」と「陽炎の月熊 -黒墨-」、次には「大海の守護者 -セドナ-」を召喚し、その周りを「湿地帯の霧」により湿地帯へと変更する。


 そして、和樹の合図により召喚士たちが、一斉にガブリエレへと牙を剥く。


「嫌だ!俺はまだ死にたくはないっ!やめろー!やめてくれぇー!」


 その攻撃はガブリエレのすべてを蹂躙した。


 空には輝く勝利の文字が出現し和樹を称える歓声が聞こえる。


 それを聞きながら、和樹は次の展開がどうなるかを焦りを感じながら見守っていた。




 そして和樹の部屋では、画面に映し出された大逆転劇を目の当たりにし、アルテミオの表情が一変していた。


 終始余裕をみせていた優雅な微笑みは消え失せていた。自らのシナリオを狂わされ、癇癪を起す子供のような、激しい苛立ちを爆発させ叫ぶアルテミオ。


「ありえない……!神のシステムへの干渉だと?ただの人間ごときが、私の遊戯に介入するなどあってはならないのだ!」


 アルテミオは椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。


 その美しい顔は怒りで醜く歪んでいる。


 彼は、涙を流して画面を見つめる絵里へと歩み寄ると、その細い腕を乱暴に掴み上げた。


「痛っ……!」


「貴様だ……!貴様が余計な願いなどを込めるから!」


 アルテミオの指が、絵里の腕に食い込む。


「せっかくの舞台が台無しだ!あの男が絶望の中で死に、お前が一生消えない傷を負って泣き叫ぶ。その美しい悲劇が見たかったのに!」


 身を震わせながら怒りを爆発させるアルテミオ。


「はな、して……!」


 絵里が必死に抵抗するが、神を自称する男の力には敵わない。


 アルテミオは怒りのままにここまでの苦労を語って見せた。


「あの男をこの舞台に導くためにどれほど苦労をしたことか……、あの不良たちに君たちの情報を流し、面白いおもちゃがいると唆し、お前を餌に人生を狂わせていく一人の男を観察する遊戯、最高の娯楽になるはずだったのにっ!


 途中でどうでも良くなった不良たちを脅し、定期的にあの男に連絡をさせ、気を抜かないように配慮までしたその苦労も、すべてはこの舞台を整えるため……、なのに、なのにあんまりだ!」


 アルテミオの暴露に絵里の思考が停止する。


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