表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[全6話] 引きこもりのデュエリスト~神様の遊戯~  作者: 安ころもっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

第四話


 現実世界のモニターの前。絵里は、そんな兄の姿に目を離せなかった。


 彼女の脳裏には、アルテミオの言葉が響き続けている。兄が自分のために罵倒されながらも必死で稼いでいた事実。その兄が今、生死をかけた最後の戦いに臨んでいる。


「お願いお(にぃ)……、生きて戻ってきて!」


 絵里は、心の底から祈った。その祈りだけが、アルテミオの悪意から自分を守る唯一の盾だった。


 アルテミオは椅子に座り、優雅に脚を組み替えた。


「さあ、和樹君。君の得意な速攻型はガブリエレには通用しませんよ。彼に与えたデッキは、君の戦略のカウンターとして私が綿密に調整したものです」


 アルテミオは、冷たい笑みを浮かべた。絵里はその言葉に唇を噛み締めながら、画面を見ていた。


 そしてデュエルが始まった。


 ガブリエレは初手からフィールドに「不動の巨像 -ピエドラ-」を召喚した。その背後には「聖なる結界」のカードが展開される。巨像は防御力が高く、結界は指定の召喚士への敵の攻撃を半減させる防壁だ。


 和樹は覚悟を決めた。


 彼は手札の中から、自らの切り札である「業火の死神 -グレン-」を初手から前衛に召喚。これによりグレンの周りの陣地が火山地帯へと変わる。さらに、分身生成の要である「咆哮する幻狼」を横に展開した。


 手札から不要な「気まぐれ沙羅曼蛇」を残り少ないコストを消費し生贄にする。このカードの特殊効果により山札から3枚新たなカードを手札に加えた。


 そして、残りのコストを消費し、守りの要となる「業火の絶壁」を召喚して初手を終えた。


「次のターンで速攻決めてやる!」


 和樹はそう宣言したが、ガブリエレは動じなかった。


「無駄だ。貴様の焚火では、私の居癖を焼くことはできぬ!」


 ガブリエレは巨像を守りに専念させることで、その防御力を10%増加させた。追加で防御力の高い「王の巨神兵(ガーディアン)」を召喚。さらには「疾風の妖精」を召喚し、和樹が初手から揃えることのできた強運を吹き飛ばす。


 ガブリエレの妖精の道連れに、和樹の「業火の絶壁」は墓場へと消えた。


 和樹はその攻撃に焦りを感じた。あんなカード、ゲームの中ではなかったのにと。


 そんな中、連戦による疲労が彼の戦術眼を鈍らせる。


 無防備になってしまった和樹。コストが尽き、舌打ちをしながらターンエンドを宣言したガブリエレ。


「まだだ!このターンで決める!」


 和樹は幻狼を分身させ、さらには攻撃要員として「炎神 -イフリート-」を、少し頼りないが壁役として「熱波の武者 -助六-」を召喚。死神、幻狼、炎神による三体の特攻を仕掛けたが、巨神兵(ガーディアン)を墓場へ送ることしかできなかった。


 次のターン。


 ガブリエレがふたたび巨像を守備に専念させる。追加召喚した「癒しの妖精 -シルフィード-」により、先ほどの巨像のダメージは回復してしまった。そして、ガブリエレは全てのコストを消費し、切り札となる一手を繰り出した。


 彼が召喚したのは、「冥府の門番 -レギオン-」であった。


 ガブリエレがにやりと笑いながらターンエンドを宣言した瞬間、和樹の山札から5枚のカードが墓場へと送られた。


「なんだよ、それ……」


 震える手で必死に手札を落とさぬように堪えながら、和樹は絶望を感じていた。


 門番を倒すためには巨像を倒さなければならない。


 和樹の思考はもう限界だった。疲労、焦り、そして死の恐怖が、彼の冷静な判断力を奪っていく。


 アルテミオはモニターに映る和樹の苦悶の表情を見て、恍惚の表情を浮かべている。


「ああ、素晴らしい!見なさい絵里君。これがプロの限界ですよ。命を賭したデュエルでは、些細なミスが致命傷になる。彼はもう、そのカードの効果すら正確に思い出せていないのではないのですか?」


 絵里は、アルテミオの言葉に涙を滲ませた。


「やめて!お兄ちゃんをいじめないで!」


 和樹は、ガブリエレの座して待つスタイルに焦り、攻撃がおざなりになっている。その間にターンは進み、和樹の山札は墓場へと消えていった。


「このままでは……」


 和樹の脳裏に妹の姿がフラッシュバックする。


 冷たい言葉を浴びせる絵里の姿。だが、その脳裏には、大切な妹を守ろうとする強い決意があった。


「金を出さなければ、お前の妹、襲っちゃうかもな?」


 数年前、下卑た笑みを浮かべる不良たちから聞かされた脅迫の言葉。その言葉により、和樹はパソコンの前に座り込み、ただひたすらにゲームを続けた。提示された月10万という金額を稼ぐ道。彼にはこの道しか思いつけなかった。


 昼夜問わず戦い続け、Sランクマッチで結果を出す。すべては妹の安全のため。


「俺は罵倒されたままでも、嫌われたままでもいいんだ。妹さえ、絵里さえ無事に生きていてくれたら……」


 和樹は、自らの全てを犠牲にしていた。


 その強い思いが、疲弊しきった和樹の意識を、再び現実に引き戻した。


「まだ、終わってない!」


 和樹は、目の前のフィールドを再度見つめ直した。


 ガブリエレの戦術は鉄壁だが、回復と防御にリソースを集中しているため、山札を無くす(デッキアウト)での勝利しかないという弱点がある。


「回復される前に、一気にライフを削り切る!そのためには……」


 和樹は頬を叩き気合を入れなおす。


 手札にあった生贄用の「溶岩魔人」をささげ、山札から三枚手札へと引き寄せる。


「この局面でさらに山札を消費とは、試合を諦めたという事だな」


 ガブリエレの煽りに歯噛みしながらも、和樹は手札へとやってきた新たな三枚を確認する。


「きたっ!」


 思わず声をあげる和樹。


 コストを消費して召喚したのは、「墓場のお掃除マニア」という生贄用のカードだった。和樹のデッキには三枚入っているこのカード。残りは二枚だが、墓場に送られてしまっている可能性もあるためあまり期待はできない。


 そのカードを生贄に、墓場から5枚のカードが山札へと戻される。


 最後に幻狼により攻撃を加えターンエンドを宣言した和樹。


 そしてガブリエレのターンも終わり、またも五枚のカードが墓場へと送られる。


 和樹は呼吸を整えながらも本命のカードを狙う。


 そして……。


「やったっ!やってやった!」


 青白い顔を少しだけ高揚させながら歓喜する和樹。その手には、目当てであった「環境破壊」という支援カードがあった。


 ガブリエレとの戦いを見据え、保険として一枚だけ入れていた相手の陣地の属性を平原に戻すカードで、最後の見直しの場で入れ替えていたカードだった。


 和樹は迷わずコストを消費し、巨像の周りの属性を平原へと変える。


 それに驚きの声を上げたのはガブリエレだった。


「なんたる強運!だが、もう遅いのだよ!お前の負けは確定している!」


 ガブリエレの宣言どおり、和樹の山札は僅かだった。残り六枚となった山札に、起死回生のカードが残されているとは思わない。この攻撃で倒せなければ、和樹の負けがほぼ確定となる。


 それは和樹の死を意味する。


「彼も頑張ったようですが、あと一歩及ばなかったようですね。本当に素晴らしい展開だった。私も長年の計画が終わりを迎えることを、とても嬉しくもあり、残念でもありますね」


 和樹の部屋で嬉々としてそう語るアルテミオ。それを睨みつけた絵里は、その後、画面に向かって叫ぶ。


「お(にぃ)!頑張って!何かあるんでしょ?強いんでしょ?ねえ、帰ってきてよ!私に、今までの事、謝らせないつもり!勝手に死なないでよ!バカお()!」


 画面に縋りつくように叫び、涙を流す絵里。


 その背後で高笑いをするアルテミオの声は、絵里にはもはや聞こえていなかった。


 和樹の最後となりうる攻撃が始まった。


 三体による総攻撃は、ガブリエレの召喚士を次々になぎ倒し、属性による強化を失った巨像のライフを大きく削りとる。そして、追加召喚していた「炎の戦士 -アルテミス-」により、遂に巨像を打ち破っていた。


 これでガブリエレの要であった門番も消滅、墓場へと送られた。


 だがここまでだった。


 最後となるガブリエレのライフを削るための手段が(つい)えてしまった。コストが尽きた和樹には、手持ちの召喚士を召喚することもできない。


 和樹は震える声でターンエンドを宣言した。


ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ