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10.カフェ

更新が遅くなってすみません!久方振りの本編です!

 どうしてこんなことになったのだろうか。私は一人、頭を抱えた。


「ミズマリさん、ほんっとありがとうございます!好きです!惚れちゃいそう!」


 惚れられても迷惑だ。私は抱き着こうとするホナカを押しのける。本当に、どうしてこんなことになったのだろうか。


「いやー、それにしても、ミズマリさんが私を家に置いてくれるなんて思いませんでしたよー。まぁ、頼んだのは私ですけど、駄目で元々って感じだったので。しかも!それだけじゃなくて、私の師匠として色々教えてくれるなんて!ホナカちゃん、嬉しい限りです!ありがとうございます!これからは、ミズマリ師匠と呼ばせていただきます!」


 私は嬉しくない。私は、小躍りしながら敬礼するという小器用な真似をして見せたホナカを放っておいて、本日何度目になるか分からない溜息を吐いた。

 本当に、どうしてこうなった。



  ❀❀❀



 昨夜、ホナカが作った美味しい鍋を食べ、普段はあまり飲まない酒を飲んでいい気分になった。そこまでは覚えている。裏を返せば、そこから先の記憶がない。細かく言うならば、缶のプルタブを起こし、一口目を喉に流し込んだ所からだ。私の記憶ではそれしか飲んでいないのだが、先程、台所を覗いたとき、シンクに空き缶が四つほどあった。

 きっと気のせいだ、きっと。そう、きっとホナカが飲んだのだ。いや、ホナカが飲んだなら未成年の飲酒となる。そうなれば、私の身が危険かもしれない。いや、けれど別に私はホナカの保護者でも何でもないし……


 いや、そんなことよりも。私は昨夜、アルコールが入ってから何をして、何を喋った?


「むーん……マンゴーフラペチーノか、ストロベリーフラペチーノのカスタムか……師匠はどっちがいいと思います?」


 私は、一体何をどうしたらホナカに師匠と呼ばれるようになったのだ?


 そう、朝早く、ホナカに叩き起こされた私は土下座で感謝をされたのだ。曰く、「居候させてくれるなんてミズマリさんに足を向けて寝られない」、曰く、「ミズマリさんはあたしの師匠になると約束をしてくれた。巫に関するあれやこれやを叩きこんで、トップレベルの樹氷にしてくれると言ってくれたミズマリさんには感謝しかない」。

 つまり、あれだろう。私は昨夜、酔った勢いでホナカと師弟関係を結んだのだろう。二日酔いか、はたまた大きな悩みの種ができたせいか、非常に頭が痛い。


「うぅ……決めました!あたし、マンゴーフラペチーノにします!師匠は……って、師匠?聞こえてます?生きてます?」


 ホナカが私の顔前でぱたぱたと手を振った。私はそれをぺし、と叩き落とす。


「聞こえてるし、生きてる。それで、何の話だっけ?鍋?」

「違います!なに飲むか、って話です!」


 私は、ホナカの買い物に付き合っていた。否、付き合わされていた。


今朝、ホナカに「これからの居候生活、よろしくお願いします!」と言われた時には、布団に潜り込んで二度寝したい心地だった。が、正直今はそれ以上に布団に籠って丸まっていたい心境である。


 ホナカは、拐かされたため、荷物らしい荷物がなかった。強いて言うなら、その身とスキー板、靴、身に着けていたスキーウェアと服くらいである。スキー板やらスキーウェアやらは誘拐犯に用立ててもらったらしい。要するに、着の身着のまま。

このままでは、着替えどころか寝間着もないと言われれば、渋々でもお財布を開かざるを得ない。というか、私はホナカに現金を幾らか渡しておけば勝手に必要なものを買ってくるだろうと思い、そうするつもりだったが、のっぴきならない事情があった。


 私の財布に現金がなかった。銀行でおろしてくればいいだろうと思うかもしれない。というか、私は思ったが、それをホナカに言うより前に私は買い物に連れ出されていたのだ。

 そして今は、私が疲れたと言ったことで、カフェで小休憩をすることになった。私としては家に帰りたかったのだが。


「師匠、早く決めちゃってください」


 ホナカがカフェの店員を呼びつつ言う。私が慌ててメニュー表を開くと、私には馴染みのない片仮名が整列していた。

 ホナカが店員にマンゴーフラペチーノと言うのを尻目に確認しつつ、私は片仮名の羅列、ではなく添付写真に目を通す。赤やら緑やら白やら、私ではこんな綺麗な写真は到底撮影できないだろう、と思うような飲み物の写真がセンス良く散らばっており、メニュー表に彩を与えていた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 カフェの店員に尋ねられ、私はその写真たちの中でもひと際目を引くそれを指さす。


「えっと、この、ゆず……ゆず、しとらす?あんど、……る?るずべりー?」

「こちらの、ゆずシトラスアンドラズベリーティーでよろしいでしょうか?」


 助け舟を出してくれた店員、もといお姉さんに心の内で感謝しつつ、私は首を縦にぶんぶん振る。


「こちら、ホットのみのご提供となっておりますが、よろしかったでしょうか?」


 全くよろしくない。私は縦向き首振りを横向き首振りにする。

 私は猫舌である。熱々やホットドリンクと言った単語とはとことん相性が良くない。余談だが、温泉は温めより熱めが好みである。


「それでしたら、こちらのゆずアンドシトラスティーをカスタムでアイスに変更することで似たようなものをご提供することが可能ですが、いかがなさいますか?」

「そ、それでお願いします!」


 私は、代案を提示してくれたお姉さんにこれ幸いと乗っかり、縦向き首振りを再開する。

 ところで、ゆずとシトラスさえあってれば同じ飲み物ではないのか、と考えてしまうのは私だけだろうか。いや、そんなことを考える輩はそもそもこのようなカフェに来ないか。


「あ、それからあたし、抹茶ロールケーキ一つ」

「え」

「あれ、駄目でしたか?」


 例にもよって、今日のお財布係は私である。明日も明後日も、何なら一か月後くらいまでは、恐らく私である。

 因みに、ホナカが頼んだケーキは一つ五百円。この娘は、遠慮と言う字を知らないのかもしれない。今度教えてあげることにする。

 まぁそれでも、昨日は鍋を作ってくれたのだ、文句は言えない。それに、樹氷の巫は稼げる職なのだ、五百円のケーキにケチをつけるつもりはない。


「いいよ」


 私が答えると、ホナカが小さくやった、と言った。その喜びようが何だか柴犬やらコーギーのようで、少しばかり、見ていて面白い。


「それから、抹茶とバターあんのサンドを一つ」


 ホナカに奢るだけ、と言うのも何だか悔しかったため、私も目に付いたパンを頼むことにした。何故抹茶なのかと言うと、私が身に覚えがない片仮名の羅列の中で、唯一漢字で書いてあったからだ。別段、抹茶が好きなわけではない。



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