表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/17

閑話 冷蔵庫の中身

鍋の買い出しに行く前の二人の会話です。

「……ミズマリさん、これはないですよ」


 台所に向かい、冷蔵庫を開けたホナカが溜息を吐いた。

 冷蔵庫の中身はありとあらゆるものだったが、私にとっては見慣れたものだった。どこがおかしいのだろうか。

 私は首を斜めに傾けてから、全体的におかしいのかもしれない、と気づく。気づいたが、そんなはずはない。……多分。


「ちょっとドン引きなんですけど……」

「具体的には?」


 ちょっとドン引き、という若者がよく言う矛盾した日本語はあえて無視して、私は尋ねた。


「えぇ……具体的には、って言われても……全部としか答えようがないんですけど……」


 ホナカはそう前置きしてから冷蔵庫の中身を取り出していく。


「なんで茄子とじゃがいもが冷蔵庫に入ってるんですか。いつのやつですか、これ。ジャガイモに芽が生えまくって、最早別の植物になりかけてるんですけど」

「えっと……」

「あ、やっぱ言わないでください、怖いので」


 ホナカは私が今まで見た中でも特大の顰め面をしつつ、茄子とじゃがいもをごみ箱に放り込んだ。

 哀れ、茄子とじゃがいも。一応手を合わせておこう。


「……何やってるんですか」

「冥福を祈っている」

「誰のせいだと思ってるんですか」


 私はそっとホナカから目をそらす。痛いところをついてくる後輩である。


「……ミズマリさん、なんでアイスの箱が冷蔵庫に入っているんですか」

「ん。それ、何日か前に買ったやつ」


 どうやら間違えて冷蔵庫に入れていたようだ。


「どうするんですか、これ。完全に溶けてますけど……」


 私はホナカと顔を見合わせてから、再び目をそらす。臭い物には蓋を。処理ができない芋はごみ箱へ。溶けたアイスは……


「……捨てますよ。細菌繁殖してたら怖いし、多分味は落ちてるし」


 溶けたアイスはごみ箱へ。

 哀れ、アイス。一応手を合わせて……


「いちいち冥福を祈らなくていいですからね」


 本当に、鋭い後輩である。が、私は聞こえない振りをして、手を合わせた。何故か、ホナカが溜息を吐いていたが、気にしない。気にしたら負けである。


「ミズマリさん、お酒飲むんですか?」


 ホナカの目線の先には、金と青のパッケージの、大量のビール缶があった。

 私は納得の声を漏らす。私は酒が飲めないが、私の師匠であるツクモが飲むのだ。大きな蛇、とか言うやつらしい。ツクモにビールを何本か渡せば、夕食をご馳走してくれる故、買い置きしているのだ。

 余談だが、ツクモはとあるブランドの、とあるプレミアムビール以外は受け取ってくれない。本当に、面倒くさい師匠である。


「私はゲコゲコガエルだから、お酒飲めないけど、私の師匠が大きな蛇で……」

「ミズマリさん、ストップ」

「……何?」

「いや、それはあたしのセリフです。なんですか、ゲコゲコガエルと大きな蛇って」


 もしかして、ホナカは知らないのか。私以上の無知がいたのか。

 そう思いつつ、私は鼻高々にホナカに説明する。最も、私もツクモから聞いたのだが、それはこの際置いておこう。


「酒が飲めない人のことをゲコゲコガエル、たくさん飲む人のことを大きな蛇って言うの。知らないの?」

「初めて聞きました。下戸と上戸なら聞いたことありますけど」

「ゲコ?」


 ゲコゲコガエルの略称だろうか、と私は首を傾げる。


「……ミズマリさん。因みにそれ、誰から聞いたんですか?」

「私の師匠。ツクモ」

「……へぇー……」


 何故だろう。ホナカが少し呆れたような顔をしてこちらを見ていた。


来週はいつも通り投稿できるかもしれないです。ですが、過度な期待はしないでください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ