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バディ・ボディ・バディ  作者: マノイ


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28/28

第28話 少しくらいは認めてやっても良いかな

「(逃げろ!)」


 突然の脳内での指示に加恋は咄嗟に反応した。一哲の声色があまりにも切迫していたため、理由を問い質す余裕はないと直感的に理解したのだ。


「私ですか? ごめんなさい、今急いでますので……」


 適当な言い訳を口にして、老紳士から逃げるようにその場を離れようとする。


「つれないですなぁ、一哲様」

「!?」


 しかし老紳士の言葉に足を止めてしまった。

 二人は合体しているが、今の見た目は加恋そのものだ。それなのにどうして彼女に一哲だと声をかけたのか。


「(ど、どういうこと!? この人、私達が合体しているって知ってるの!?)」


 混乱した加恋が脳内で一哲に問いかける。

 一哲としてはどうしても逃げて欲しかったのかもしれないが、加恋を責めることは無かった。


「(俺が前に出る)」

「(え、ちょっ!)」


 加恋の承諾も聞かず、一哲は強く自分の存在を意識して加恋と入れ替わった。


「ほう、面白い芸当ですな。合体とは実に奇妙なものだ」

「じい、どうして俺が合体していることを知っている」

「(じい? 今こいつ、じいって言った? もしかしてボンボンなの?)」


 突然のことに動揺する加恋だが、今は一哲に身体を譲っているため見ていることしか出来ない。つい先ほどまでと立場が逆になっている。


「一哲様が通われる学園です。当然調査は致しました」

「そんなことは分かっている。だがいくら調べても俺が合体しているかどうかは分からないはず」


 この学園で合体という現象が起きていることそのものは、卒業生への聞き取りなどの調査で分かるかもしれないが、その現象が一哲に降りかかっていることは学園側が公にしない限りは分からない。


 学園は生徒のプライバシー保護を理由にそれを隠しているため、もし老紳士がそれを知っているとなれば、その場を見ていたとしか考えられない。


「合体する瞬間を見られていたか……」


 トイレに向かう途中の合体場面。それを目の前の老紳士は何処かから目撃していたのだ。


「ふぉっふぉっふぉっ」

「相変わらず、俺が困っていると嬉しそうにしやがって」

「そのようなことはございません。学園生活を堪能してらっしゃるようで何よりと思っただけのこと」

「そうだな。存分に堪能させてもらっているよ」

「…………」


 一哲がにやりと笑うと、好々爺のような雰囲気だった老紳士が僅かに険しい表情に変化した。


「(普通はじいって呼ぶような相手とは仲が良いんじゃないの? お互いに敵扱いしているみたいな感じなんだけどどういうことなの?)」


 お互いに手こそ出さないが、視線と言葉でバチバチにやりあっているように加恋には見えた。


「俺が苦労している様子を見るためだけにここに来るとは、愚かだな」

「いえ、旦那様の指示によるものです」

「ありえない。親父なら『放置しろ』と言う。ここに来たのはじいの独断専行だ」

「ですが確かにわたくしは指示を」

「ありえない。その程度で俺が動揺すると思ったか?」

「…………」


 一哲がきっぱりと断言し、表情にも言葉にも全くブレはない。

 老紳士の言葉など全く響いていない様子であり、老紳士は苦虫を噛み潰したような表情になる。


「残念だったな。じいが言う通り、俺はここの生活を堪能させてもらってる。そりゃあ嫌なこともあるが、昔より遥かにマシだ。何なら毎日観察して確認してみるか?」

「…………」


 普通ならば親しい人が楽しく生活できているのであれば喜ぶはず。しかし老紳士は何故かそのことを喜ばない。


「跡継ぎが苦労し、親に反発し、このまま巌流島家の未来が潰えることを期待していたのだろう。俺の人格が歪めば歪むほどじいは喜んでいたな。だが俺は今、人生を楽しんでいる。そして親父が望むものとは違う未来を進んでやる」

「…………そのようなことが出来ると本当にお思いで?」

「出来ずに親父の操り人形になったとしても、巌流島家は続くだろうな」

「くっ」


 どうやら老紳士は巌流島家に対して思うところがある人物らしい。しかし老紳士の思惑は上手くはいってないようだ。


「ああ、そうだ。先ほど愚かだと言ったが訂正しよう。哀れだな」

「なんですって?」

「俺は確かに操り人形かもしれんがそれを自覚している。じいと違ってな」

「わたくしが旦那様に操られていると? それは当然でございます。旦那様に雇われているのですから」

「くくっ……まさか本当に気付いていなかったとはな」

「どういうことでしょう」


 一哲はこれまで学園で一度も見せたことが無い邪悪な笑みを浮かべていた。


「(これがこいつの本性なの? 激怒した時ですら、こんなに聞くに堪えない声じゃなかったのに)」


 合体しているため加恋にはそれが見えていないが、なんとなくおぞましい雰囲気を感じ取っていた。


「(でも……怒ってた時の方が自然だった気がする)」


 それは慣れない態度に対する強引な理由付けなのか、本当に違いを察していたのか。その答えが判明する時間など与えられず、会話は進んでしまう。


「もしじいがいなければ、俺はとっくに潰れていただろう」

「…………」

「親父はそれだけ強大(・・)な存在だ。子供の俺では目の前に立つことすら難しかった。だから親父は俺が潰れないようにじいを寄こした。巌流島家に恨みを持つじいが俺を密かに虐げることで、分かりやすく立ち向かいやすい俺の敵となった。戦える相手を用意して俺がギリギリで潰れないように仕組んだ」

「わたくしの行いが、一哲様の成長を促し巌流島家の存続のための糧となったと仰るのですか?」

「ああ。そしてそのおかげで俺は折れず、この学園を発見して人生を楽しめている。長い間、相当にムカつかせてくれたが、今では感謝しているよ。じいが居なければ俺は人として終わっていただろうからな」

「…………」


 一哲の言葉に反論できず、無表情になる老紳士。

 何も反応していないのに、その体から怒りのオーラが立ち昇っているのを加恋は幻視した。


「…………違う」


 老紳士はどうにか言葉を絞り出した。

 一哲の言葉がどうしても受け入れられず、どうにか反論しようと試みる。


「…………私は、私の意思で!」

「結果は変わらない」

「っ!」


 だがその抵抗は最後まで口にすることすら許されなかった。


「むしろそっちの方が情けなくないか。自分の意思で巌流島家が得となることをしてしまったのだからな。親父の操り人形に気付かなかったというのも情けない話だが、多少はマシ……いや、どっちもクソだな」

「むぐぐぐぐ」


 反論が間違っているのではなく、それが正しければまた愚かであると逃げ道を塞ぐ悪辣なるやり方だった。

 そして一哲は老紳士にトドメを刺しに行く。


「ああ、そうか、そういうことだったのか。ようやく分かったぜ、親父がどうしてお前をここに寄こしたのか」

「な、何を仰いますか。今日は有給を頂き私が独断で……!」

「放置しろとの指示を無視した。親父がそんな奴を許すとは思えんが」

「…………」

「俺が寮生活を始め、目の前から居なくなったことでじいは不安になり調査する。それが親父の指示への反抗となり、格好の処分の理由とされる。じいはもう不要になったから消されるんだよ」

「そ……そんな馬鹿な……それじゃあ私は今まで一体何を……」


 都合よく使われ、用済みになったら捨てられる。

 恨みを持つ相手にダメージを与えるどころか、役に立ってしまった。


 今までの自分の人生が何だったのかと、老紳士は崩れ落ちそうになる。


「今までありがとう、じい。てめぇのおかげで俺は親父と戦えそうだ。じゃあな」


 これ以上話すことは無いと、一哲はその場から離れた。


「ぬおおおおおおおお!」


 悲痛な叫びを背にして。


--------


「(一つだけ聞いて良い?)」

「なんだ? 俺のストライクゾーンは幅広いぞ」


 恋人寮に戻ったら、加恋が脳内で話しかけて来た。

 既に一哲はいつもの雰囲気に戻っている。


「(そんなこと聞きたくないわよ。そうじゃなくて、どうして最初に『逃げろ』って言ったの? そんなことしなくても平気だったじゃない)」


 てっきり老紳士が一哲にとって危険な相手なのかと思いきや完封勝利していた。慌てて『逃げろ』だなんて指示する必要性を感じられなかった。


「大した理由じゃない。単に親父のことを思い出したくなかっただけだ」

「(それだけ?)」

「それだけだ。まぁいつかはじいに引導を渡さなきゃとは思ってたが、それが早まっただけって感じかな」

「(ふ~ん)」


 納得したのか、本心では無いと疑っているのか。

 加恋はそれ以上何も聞くことは無かった。


 だがそのことを一哲は不思議に思う。


「そんだけで良いのか?」

「(どういうこと?)」

「聞きたいことなんて山ほどあるだろ」

「(まぁね。でも他人の家庭の事情に首を突っ込むほど野暮じゃないわ)」

「そっか」


 普通はそうなのだが、それでも我慢できずに色々と聞いてみたくなるのではないだろうか。一哲が抱えてそうなものはそういうレベルのものだった。


 だがそれでも加恋は自重する。


「お前、案外良い奴だったんだな」

「(はぁ!? 何言ってるの!?)」

「素直な感想を伝えただけだ」

「(意味わかんない!)」


 もしも加恋が表にいたら、顔を真っ赤にして動揺していただろう。

 あるいは今の一哲の優し気な笑顔を見ていたら、照れる以外の感情すら浮かんでいたかもしれない。


 残念ながら合体中なのでそうはならなかったが。


 とはいえ、動揺が小さく抑えられたからこそ、伝えるべきことを伝える余裕が残っていた。


「(全く、謝りにくい雰囲気にしないでよ)」

「謝る? 何をだ?」

「(…………あんたの事情、私より遥かに重そうじゃない。それなのに沢山酷いこと言った気がするから)」


 一哲の事情はまだ詳しくは分からない。


 父親が何者なのか。

 どうして勉強から距離を置くのか。


 だがそれは自分が抱えている物よりも遥かに重くて暗いものではと感じ取ってしまった。それなのに感情的に相手を否定しようとしたのは酷いことだったかもしれないと感じたのである。


「あのなぁ。辛い苦しいを他人と比べてどうすんだよ」

「(え?)」

「それなら極端な話、世界のどこかで飢餓に苦しんでいる子供と比べたら自分の悩みなんてちっぽけだから悩むのは失礼だ、なんてことになるぞ」

「(それは……)」

「苦悩なんて、自分自身の問題だ。傍から見て俺の事情の方が重いからって、お前の気が楽になるわけじゃないだろ。俺は別に自分の境遇を誰かと比べたいだなんて思わねぇ。だから謝る必要なんかねーよ」

「(…………凄いね)」


 そのことに気付いていたとしても、人は誰かと比べてしまう生き物だ。

 本気で個人の問題だと割り切り、相手の悩みの質を下に見るようなことはしない。


 そのような人としての在り方が加恋には眩しく思えた。


「そうか?」

「(うん、少しだけ格好良いって思った)」

「ふっ、惚れんなよ」

「(大幅に格好悪いって思った)」

「それじゃあマイナスじゃねーか!」


 大げさにツッコミを入れる一哲。

 加恋が重い空気にならないように冗談を言ってくれたことに気付き、それに全力で乗ったのだ。


「全く、にしても…………」

「(にしても?)」

「…………」

「(どうしたの?)」

「…………」


 いきなり硬直し、何も言わなくなってしまった一哲の様子を加恋は訝しんだ。


「くっ…………」

「(?)」

「くくっ…………」

「(ホントにどうしたのよ)」

「あははははは!」

「(壊れちゃった)」


 一体、今の話の流れのどこに爆笑する要素があったのか。加恋は一哲の脳内を本気で心配し始めていた。


「いや、悪い悪い。さっきの自分の言葉がおかしくてな」

「(おかしい?)」

「傍からの評価より自分の気持ちが大事って奴さ。くくっ、こんなの親父と真逆の発想じゃねーか」

「(そ、そうなんだ)」

「あ~おもしれぇ。さいっこうに面白れぇ。いや、それともこれすらも意図されたことなのか?」

「(…………)」

「だがそれならそれで、好きにやらせてもらう。これがあんたの狙い通りってんなら、全力で踊ってやるさ。はははは!」

「(…………)」


 触れにくい家族の事情の話であるため、加恋は何も言うことが出来なかった。


「よぉ~し、こうしちゃいられん!」

「(ちょっと何処に行くのよ!)」


 しかし突然また外に出ようとしたので、慌てて話しかけた。


「何ってナンパに決まってるだろ!」

「(はぁ!?)」

「全力で学園生活を楽しんでやるのさ!がはは!」

「(ちょっと、そんな恥ずかしいの止めてよ!)」

「恥ずかしくなんかない。恋は青春、高校生の特権だ。なんなら加恋(・・)もやってみるか?」

「(やるわけないで……え、今あんた……)」

「というわけで出発!俺と加恋、どっちが先に成功するか勝負だ!」

「(止めろって言ってるでしょ!身体の制御を返して貰うわ!)」

「ふふ~ん、出来るものならやってみな」

「(絶対に一哲(・・)の思い通りにはさせないから!)」


 お互いの事情を少しだけ知ったことにより、二人の距離もまた少しだけ近づいた。


 合体は強制的にバディの事を深く知る機会となりえるもの。

 これまで合体バディペアが結ばれてきたのはそれが理由の一端だった。


 一哲と加恋もまたその道を進もうとしているのだが、そう遠くない未来に二人はそのことに気付くに違いない。

こちらの作品も打ち切りEndです。

ですがこっちは実は先の話をあまり考えて無かったりしますので、終わり易かったかも。

考えてあるのは授業の内容くらいかな。

ここからイチャつきそうな気配がありますが、でも終わりです(笑


合体というキーワードで読まれるかなぁと思ったけれど、そうでも無かったですね。

序盤のギスギス感以前の問題でした、無念。


それでは別作品でまたお会いいたしましょう。


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