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バディ・ボディ・バディ  作者: マノイ


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第27話 恵まれているから幸せとは限らない

「元気そうで良かったよ」

「そうね。あんなに楽しそうに授業を受けていて……この学園への入学を許可して良かったわ」

「あ、あはは」


 学園の食堂にて、苦笑する加恋の前に二人の大人の男女が座っている。

 二人ともとても穏やかで優し気な雰囲気であり、男性の方は髪に少しだけ白いものが混じっている。


「お父さんもお母さんも心配性なんだから」


 二人は加恋の父と母である。

 四月の授業が全て終了し、バディバトルを観戦しに来た両親と合流したのだ。


「(親もお前みたいに煩そうな人かと思ったら全然違うんだな)」

「(煩いわね。黙ってなさい。というか見るな、聞くな)」

「(それが出来ればやってるわ)」


 バトル後に不幸にも合体してしまったため、裏には一哲がいる。加恋の両親と会うにあたり身体の支配権を加恋に渡したのだが、目や耳などから入ってくる情報をシャットアウトできないため会話の内容が筒抜けになってしまう。

 かといって、男と合体しているだとか、ましては同棲しているだなど知られたら何を言われるか分からない。加恋は合体のことを絶対に秘密にするよう協力して欲しいと一哲にお願いしていた。


「心配するに決まってるだろう。大事な一人娘が寮で一人暮らしするなんて言うんだから」

「そうよ。早くても大学生になるまではうちにいると思ってたのよ。心配だし寂しくてたまらないわ」

「……ごめんなさい」


 心配させていたことは分かっていた。しかし改めて面と向かってそう言われると、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。


「それにしても、さっきの授業は驚いたな。高校であんなゲームっぽい授業をやるだなんて。おっと、別に悪いって言ってる訳じゃないからね。難しそうな問題をあんな風に出し合うだなんて、とても楽しそうで羨ましい」

「しかも皆、とても良い顔してたわ。混ざりたくなってきちゃったもの」

「そ、そんなに良かったの?」


 加恋としては普通に授業をして欲しいと常々思っているのだが、バディバトルについての両親の評価はとても高かった。


「良かったよ。それに、やっぱり安心したかな。さっきも言ったけど加恋が楽しそうだったし、何よりクラスの仲が良さそうなのが素敵だね」

「え……そ、そう見えるの?」

「違うのかい?高校生でクラス全員があんなに活発に協力してゲームするなんて、あまりないことだと思うけど」

「あ~……それ多分罰ゲームのせいかな?」

「罰ゲーム?」


 相性が悪いペアを組まされているため、教室内はむしろギスギス感が強い。入学当初と比べて大分和らぎはしたが、今でもそれは残っている。しかしバディバトルでは罰ゲームを回避するために協力して必死になっていたため、それが積極的に授業に参加しているように見えてしまうのだろう。


「(なるほどな。だから学園はバディバトルを公開したのか。子供が積極的に授業に参加して難しい問題に挑もうとしている姿を見せれば親としては安心だろうからな。そうすればゴールデンウィークに帰省して子供が色々と文句を言ってもあまり不安に感じないだろう。あるいはそうすることで学園の印象悪化を防ぐ目的もあったのかもな)」


 バディに対する不満をたっぷり抱えた子供が長期休暇の間に文句ばかり言っていたら親は不安でしかない。しかも一人暮らしをさせているのだから、普段の様子が見えない分だけその不安は激増する。

 しかしやる気溢れる姿勢で授業に望んでいる姿を見てしまえば、そうはいっても内心では楽しんでいる、と思ってしまうだろう。子供の言葉と態度が違うなんてことは良くあることなのだから。


 学園は家族を安心させるために、家族にバディバトルを公開すると言っていた。それは、学園の印象を悪化させないための策でもあったのだと一哲は気付いた。


「あははは、それは面白い罰ゲームだね」

「そうね。加恋のバディには加恋をたっぷりと負かせて欲しいわ」

「お母さん酷い!」


 罰ゲームについて加恋が説明したら両親はお腹を抱えて笑っていた。母親など娘の敗北を願ってしまう始末。


「だって加恋ったら、いっつも勉強勉強で楽しそうじゃないんだもの」

「そうだな。その罰ゲームで楽しいことを見つけてくれたら父さんも母さんも嬉しい」

「……べ、別に私は勉強だけで良いし」


 気まずそうに顔を逸らした加恋の姿を見て、楽しそうだった両親が小さく溜息を吐いて肩を竦める。


「本当は今日、加恋が暗い顔をしていたら強引にでも転校させようかと考えていたんだ」

「え!?」

「楽しくも無くて、辛いだけの毎日を送っている娘を放っておけるわけがないだろ」

「辛いなんて思って事ないよ?」

「加恋が勉強している姿を見て、その言葉を信じられる人はいないんじゃないかなぁ」

「…………」


 中学までの勉強に打ち込み続けている加恋は、両親から良く思われていなかった。むしろ心配させていた。


「加恋、父さんは勉強するなって言ってる訳じゃないんだよ。夢があるから勉強するとか、良い大学に行きたいから勉強するとか、なんなら頭が良いって自慢したいから勉強する、でも構わない」


 それがどれだけ低俗と言われる理由であろうが、勉強をするポジティブなモチベーションがあるのであれば、そしてそれが自分のため(・・・・・)であるならば全く気にならない。


「でも他人のために苦しい想いをして無理矢理勉強するのは止めなさい。加恋には自分のために生きて欲しい。もっと青春(・・)を謳歌して、学業以外の勉強もやってほしいんだ」

「そうよ。だからこの学園への入学を認めたの。ここならば加恋を成長させてくれると思ったから」

「(ん?両親はこいつが勉強するのを良く思ってないのか。じゃあなんでこいつはあんなに勉強にしがみついてるんだ?)」


 勉のように父親の期待に応えたいから勉強するというのであれば分かるが、加恋はどうやらそうではなさそうだ。しかも将来の夢のような自分のためという理由でもない。その理由が一哲は全く分からなかった。


 しかしその答えはすぐに明らかになった。一哲と合体しているということを忘れているのか、両親に諭されていた加恋が感情的になってしまったから。


「だってそれじゃあお父さんとお母さんがあいつらに馬鹿にされちゃう!」


 それこそが加恋が勉強を頑張る理由だった。

 両親を守るために必死になって勉強をしていたのだ。


「加恋、お父さんとお母さんのことは気にするなって何度も言ってるだろ」

「そうよ。私達はあなたが笑って生きていてくれることの方が大事なの」

「お父さんとお母さんが悪く言われてたら笑えないよ……」


 加恋が勉強すれば両親は悲しむ。

 加恋が勉強しなければ加恋が悲しむ。


 せめて加恋が勉強大好き人間であればそうはならなかったのだろうが、しなければならない、と強迫観念に駆られての勉強が楽しい訳が無い。

 ゆえに加恋はどうしても『楽しい』人生を送れない。


「相変わらず強情だね。でもそれも時間の問題かな?」

「え?」

「そうね。さっきはあんなに楽しそうに授業を受けてたもの。この学園なら加恋を良い方向に変えてくれそうよ」

「あ、いや、あれは、その……」


 両親に心配をかけさせたくないために、楽しんでいる姿を見せたかった。必死にトップを狙うのではなく、頑張らない姿勢で臨もうとしていたのはそれが理由だった。

 結局ここで内面が変わってないことを暴露してしまったが、それでも見せたことに意味はあった。両親が加恋の変化を感じ取り、安心してくれたのだから。


「それとも学園じゃなくてバディのおかげかしら」

「は!?」

「むっ……そうだ、彼のことも紹介してくれないか。是非、お話が、したいな」

「ちょっと二人とも何言ってるの!?」

「うふふ。凄い仲が良さそうだったものね。面白そうな子だったし、加恋ったら毎日振り回されてそう。想像するだけで楽しそうね」

「くっ、それだけが唯一の不安だったんだが、まさかこんなにも早く篭絡されてしまうとは」

「お父さん!お母さん!」


 まるで加恋と一哲がかなり仲が良いかのような反応をする両親。しかもニュアンス的には男女の仲を疑っているかのようにすら感じられる。


「なんで私があんな奴なんかと!絶対にありえないから!」

「あらまぁ、加恋が男の子のことでこんなに感情的になるだなんて」

「やっぱりオハナシが必要だ!」

「だ~か~ら~!本当に何でもないんだって!ありえないんだって!そもそもこの学園はバディと恋…………な、仲良くなることはこれまで百パーセントないの!」

「そうなの? つまらないわ」

「だとしてもオハナシは必要だな」

「もう!お父さん!」


 両親から揶揄われて真っ赤になって反論する加恋。その様子は照れ隠しのように見えるけれど、本気で怒っているだけ。

 重い空気になりそうだったところを両親がわざと解したのか、あるいは本気なのか。


 どちらにしろ加恋の両親との再会は悪い物にはならなかった。


--------


「それじゃあ、明日待ってるからな」

「一緒に帰れると思ったのに、残念だわ」

「ごめんなさいお母さん。でもどうしても部活で今日中にやらなければならないことがあるの」

「仕方ないさ母さん。それより加恋が部活を頑張っていることを喜ぼう」

「そうね。加恋が勉強以外でそんな風に言ってくれるなんて嬉しいことよね」

「あ、あはは……」


 否、部活なんて関係ない。

 一哲と合体してしまっているが故、分離するまで一緒に帰れないだけのこと。


 両親に嘘を吐いていることを申し訳なく思いながら、加恋は両親が校門の向こうへ帰る姿を見送った。


「(…………)」


 一哲は何も言わない。

 全部とは言わないが、ある程度加恋の事情を察したのであれば気になることがありそうなものだが。


 加恋のことに興味が無いのか。それとも聞かれたくないと察して黙っているのか。

 どちらにしろ何も反応が無いのは気持ちが悪いため、加恋が心の中で一哲に何かを問おうとした。


「(あんたは……)」


 しかしその瞬間。


「失礼」

「え?」


 背後から声がかけられ、加恋は振り返る。

 そこには紳士服を着た老人の姿があった。


 その姿を目にした瞬間、脳内の一哲が叫ぶ。


「(逃げろ!)」


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