表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バディ・ボディ・バディ  作者: マノイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

第25話 卑怯じゃない、戦略だ

 その日の朝は、いつもと違い静かだった。


 勉強する者。

 目を閉じて瞑想する者。

 タブレットを使って静かにバディと作戦会議する者。


 バディバトルを前に、静かに闘志を燃やしていた。

 今日は授業が無く、午前中にバディバトルとホームルームしかない。家族との会話の時間を十分に設けるため、午後はフリーになっているのだ。食堂で家族と一緒にご飯を食べたり、学園内を案内することも可能である。


 つまり他の余計なことに気を取られず、全力でバディバトルのことだけを考えて良いということ。


 より良い成績を目指すのか。

 罰ゲームから逃れたいのか。

 参観に来ているかもしれない家族に良いところを見せたいのか。


 努力する理由は各々異なるが、やる気がない者はいなかった。


 いや、一名だけいるかもしれない。


「すやぁ」


 一哲だけは机に顔を突っ伏して寝ているのである。

 そんな一哲の様子が気になるのか、隣の加恋はチラチラと彼の方を見る。何かを言おうとしては逡巡し、それを何度も繰り返している。かなり不自然なのだが、クラスメイトは自分の準備に夢中になっていて気付かない。


 やがて意を決して加恋は一哲に声をかけた。


「な、にゃに寝てんのよ。べ、勉強しなさいよ」

「ちっ」


 噛み噛みの棒読み。

 一哲が小さく舌打ちしたが、それは何に対してのものだったのか。


「うっせ~な。俺が何しようと勝手だろ」

「え?あれ、打ち合わせと違……」

「別に勉強なんかしなくても、お前より良い成績取れるし」

「は!? 何言ってるの!?」


 とんでもないことを言おうとした加恋の言葉を遮り、加恋を煽る一哲。それが功を奏したのか、加恋は自然な感じで怒っていた。


「私が勉強してないあんたなんかに負けるわけないでしょ!」

「その俺に何度もバディバトルで敗北したのはどこの誰だったかな?」

「アレはあんたが卑怯なことばかりするから!」

「でもお前が選んだ問題を何度も解いてやったぜ」

「そ、それは、偶然……」

「や~い、ば~か、ば~か」

「このっ……!」


 今回は協力して戦わなければならないのに、何故か諍いを始めてしまう一哲ペア。だがそれも普段の一哲の態度なら自然なことかと思い、クラスメイトはスルーしていた。


 しかし今日の一哲はいつもよりも悪質だった。


「今日のだって、よくそんなに勉強する気になるよな。普段から授業聞いてれば何もやることないだろ。どいつもこいつも情けねぇやつ」

「「「「!?」」」」


 加恋だけではなく、クラスメイトを煽り出したのだ。


「一哲君、流石に……え? あ、うん」


 琴遥が一哲を窘めようとしたが、静に机をトントン叩かれ、タブレットを見るように促される。それを見た琴遥は何かに納得したかのように大人しくなり、抗議を取りやめた。どうやら静がチャットで琴遥に何かを伝えたようだ。


「(静だけ気付いたか。やるな)」


 内心で静の洞察力に感心しながら一哲は更にヒートアップする。


「普段から勉強ばかりしてる奴に限ってこういう時に負けるんだよな。超だせぇ」

「あんた言って良いことと悪いことがあるでしょ!」

「事実だろ。お前も誰かさん(・・・・)もな」

「うっ……あ!」


 顔を真っ赤にして怒っていた加恋だったが、何かを思い出したかのように納得顔になった。


「おはようございます。おや、どうかしましたか?」


 しかもその瞬間に窓理教師が教室に入って来たものだから誰もがそちらに気を取られ、加恋の変化に気付く人は居なかった。


「完全にあいつの思い通りじゃない……」


 一哲の位置からなら廊下が見えたので、タイミングを見計らって会話をしていたのだ。加恋の中で色々なことが腑に落ちたが、同時に酷く意気消沈してしまった。


 かなり練習したのに棒読みになってしまったこと。

 それをフォローするべく一哲が急遽予定を変更して加恋を怒らせ自然にしゃべらせたこと。


 自分のポンコツっぷりが、あまりにも情けなかったのだ。しかも一哲が有能だったらこそ猶更そのポンコツっぷりが際立ってしまった。


「(いけない、集中しないと。自分に出来ることをやるのよ)」


 小細工するのは一哲の役目であり、得点を稼ぐのは加恋の役目。

 こんなことで集中力を妨げるだなど、言語道断だった。


「(あいつの策に乗ることで楽しく(・・・)授業を受けているとアピールして、その上で頑張って成績を上げる。これならお父さんもお母さんも心配しないはず)」


 今回のバディバトルに対するスタンスを悩んでいた加恋だが、どうにか方針を定めたらしい。


「皆さん、気合が入ってますね。でもその前にいくつか連絡事項があるのでちゃんと聞いて下さいね。まずは……」


 朝のホームルームが進み、改めてバディバトルのルールが説明される。


「皆さんのご家族の方は別室にて皆さんの様子を見ています。この場には来ませんので集中して問題を解いてくださいね」


 このバディバトルは小テストの一種のような位置づけであり成績にも反映されるため、余計な雑音が入らないように配慮してあるのだろう。配慮するくらいなら普通に小テストにしろと思う生徒もいるが、それはそれ、これはこれ。このやり方で成果が出ているのだからと言われればそれまでだ。


 窓理教師の話は全て終わった。

 各人準備が終わり、教科書やノートの類はしまっている。今回はバディペアごとの仕切りは無く、フルオープンでの戦いだ。


「それでは始めてください」


 バトル開始と共にタブレットの専用アプリにて問題が公開される。まずは、教科、そして問題を選び対戦相手と共に指定する。問題は山ほど用意されていて、選ぶのに時間がかかるがここで悠長なことはしてられない。狙いの相手が先に選ばれてしまったり、攻撃する前に先に攻撃されてしまうかもしれないからだ。


 素早く、それでいて相手が間違えそうな問題を選択する。生徒達が真剣にタブレットを操作し頭を悩ませる。


 すると開始して間もなく、すぐに最初のバディバトルが始まった。


「おっ、来たか」


 バトルを仕掛けられたのは一哲だった。

 そして仕掛けて来た相手は……


「ようやくこの時が来た。実力テストの時の屈辱を忘れてないぞ! 今日はボコボコにしてやるから覚悟しろ!」


 加恋に匹敵するくらいのガリ勉野郎の勉だ。

 四月最初の実力テストの時に一哲ペアや琴遥ペアに敗北したことをまだ根に持っていたのだ。その後も一哲が勉に絡むことで勉がクラスに馴染めるようになっていたが、それは一哲に対する怒りを増大させることにも繋がっていた。


「科目は英語。問題内容は英訳。ふ~ん、俺が苦手な科目分かってるじゃん」


 表示された問題を前に一哲は焦ることなく不敵な笑みを崩さない。


「にしても、加恋(こいつ)といいお前といい、勉強バカはどうしてこうも単純なのかね」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

「人の話聞いてないで自分がやるべきことをやれよ」

「くっ……分かったわよ!」


 テスト中に煽る一哲が悪いのだが、それに反応している場合でないのも確かだ。釈然としないが加恋はタブレットに視線を落とす。


 そしてもう一人の煽られた勉はというと。


「はっ!君程度の浅はかな考えなど百も承知さ。どうせ朝のアレは僕を怒らせて焦って君に簡単な問題を仕掛けさせようって魂胆だったんだろ。残念だったね。僕が選んだ問題は君には絶対に解けない難問さ。僕程度の実力だと素早く問題の難易度を見極めることも可能なのさ」


 こちらも全く動じることなく、むしろ一哲の罠を見破ってやったのだと自信満々だ。


「そうか~バレちゃった~、いや~すごいな~困っちゃうな~」

「虚勢を張っても無駄さ。君はここで敗北する。そして今日は可能な限り君にバトルを挑んで徹底的に潰してやるから覚悟することだね」


 一哲の余裕は虚勢であると断言する勉。

 それだけ今の自分の優位が揺るがないと確信しているのだろう。


「う~ん、う~ん、難しいなぁ。これかなぁ、それともこれかなぁ」


 一哲は悩みながら答えを書いたり消したりを繰り返す。

 そうこうしているうちに、やがて他でもバディバトルが勃発する。


「行ってくるわ」

「おう、暴れて来い」


 加恋もまた誰かにバトルを仕掛けたらしく、タブレットを持ってその人物の近くへと移動した。回答も出題もタブレット上で行うため、自分の席に座り続ける必要は無い。むしろバトルしている感が出るので対戦相手の近くへ移動することが推奨されている。勉は一哲に近づくのも嫌なのか動いていないが。


「う~ん、う~ん……」

「勝ったわ。でも直ぐに申し込まれた」

「別に毎回報告しなくても良いぞ。ポイントはタブレットに表示されてるし」

「それもそうね」


 加恋が勝利し、次のバトルを開始する。

 だが一哲はまだ勉から仕掛けられた問題を前に悩んでいる。


「わからないな~」

「おい、いい加減にしろよ!」


 流石に時間がかかりすぎだと思ったのか、勉が怒って一哲の方へとやってきた。


「分からないならギブアップしろよ!」

「どうして?」

「は?お前馬鹿なのか?さっさと負けて他に挑んで取り返さないとポイント増えないだろうが。そんなことも分からないのか?」


 ポイントを伸ばすにはバトルを素早く繰り返して勝利を重ねることが重要だ。ゆえに分からない問題だった場合は素直に諦めて別のバトルで取り返そうとするのが自然な考えだろう。


 だが一哲は諦めようとしない。

 何故なのか。


「だってポイント失うの嫌じゃん」

「話を聞いていたのか!? 失ったポイントは別で取り返せば良いだろう!」

「でもお前がしつこく挑んでくるんだろ。だったら取り返せないし、それならこのままで良いかなって」

「な!?」


 にやにやと笑う一哲。

 その姿を見て、ようやく勉は一哲の狙いを理解した。


「まさか君はこのままバトル終了まで何もしないつもりなのか!?」

「いやいや、ちゃんと問題を解こうとするぞ。解けるかどうかは分からないけどな。ただ、諦めたくないだけさ」

「嘘だ!こいつめ!僕を封じるつもりだったのか!」

「なんのことかなー」


 加恋とは違い、意図的な棒読みで勉を揶揄う一哲。


 問題を解くまでの制限時間は無い。

 だったら解かなければ永遠にバトルは続いてしまう。


 このクラスで一番のライバルとなりそうな勉をずっと一つのバトルに閉じ込めて、その間に加恋にたっぷり点数を稼いでもらえば良い。そのために一哲は勉を煽り、攻撃を仕掛けさせたのだ。


「桜ヶ平さん、アレ良いの?」


 加恋とバトル中の琴遥が、ドン引きしていた。


「本人が良いって言ってるんだから良いんじゃないの? 私は実力でポイント稼げるし、足を引っ張らないならそれで良いのよ」

「そういう問題かなぁ~」

「それより問題解けたわ」

「え!?もう!?負けちゃった~」


 卑劣な一哲と自分は無関係だと言わんばかりにバトルに集中する加恋。だが何故か一哲が加恋をも煽り始める。


「この卑怯者!」


 勉の詰りに、一哲がとんでもないことを言い放ったのだ。


「おいおい、酷いこと言うなよ。俺はバディの言う通りにしてるだけだぜ」

「ちょっ! 私はそんなこと言ってない!」


 当然、加恋はスルーなど出来る筈がない。激怒しながら一哲に詰め寄った。


「俺は止めた方が良いって窘めたのに、どうしても勝ちたいからってさ」

「なんてこと言うのよ! そんなこと言う訳ないじゃない!」


 無実の罪で卑怯者扱いされるだなどあまりにも心外だと焦り怒る加恋。

 そんな加恋の様子を見てチャンスだと琴遥が攻める。


「でも桜ヶ平さんならありえるかも……」

「音乃葉さん!?」

「今だよ、支暗君!」

「う、うん!」

「しまった!」


 動揺したところで琴遥のバディ、静が攻撃を仕掛けて来たのだ。精神的に動揺している今だと、問題を正確に解けるかが怪しい。


 加恋を倒せるかもしれない。


 そう琴遥ペアは希望を抱いたのだが。


「ふふ、ごめんなさいね」

「え?」


 焦っていたように見えた加恋だが、普段の冷静な様子に戻っていた。


「まさか桜ヶ平さん騙したの!?」

「騙してなんかないわ。あいつが言うには、これも戦略なんだってさ。ふふふ」

「うわ~ひど~い!」

「はい解~けた」


 一哲に煽られてブチ切れたのは本気だった。

 でもその直後にバディを仕掛けられ、一哲から事前に言われたことを思い出したのだ。


『冷静さを失ったところでバトルを仕掛けて来る奴がいるから、そんな時こそ冷静になるように意識するべきだ』


 まさかその冷静さを失わせるのが味方だとは思わなかったが、加恋の演技がポンコツだということを考えると悪くない作戦だ。


 このバディバトルは攻撃を仕掛ける側がリスキーだ。いくら加恋がポイントを稼いでいるからといって、多くの問題を解いてしまいそうな彼女に仕掛けるのを躊躇されてしまうかもしれない。ゆえに仕掛けやすくするために精神の動揺というエサを用意したのだ。


「でも僕が選んだ問題、桜ヶ平さんが冷静でも間違えると思ったのに」

「そう思われそうなところを勉強して来たからね」

「露骨に苦手な所から少し外したのにそこも対処されてるなんて。きっと一哲君の仕業だね」

「あいつなんでこういうの分かるのかしら。ヤマを張るのが得意とかって言ってたけど……」


 バディバトルに向けて、加恋が攻められそうな場所を一哲が事前にピックアップし、そこを重点的に勉強しておくようにと指示をした。すると不思議なことに、その指示された場所ばかり攻撃されるのだ。もし勉強していなければかなり負けていたに違いない。


「くそ……このまま僕は何も出来ずに終わってしまうのか……パパが来てくれてるかもしれないのに……」


 せめて問題を間違えるならまだしも、問題に挑む機会すら与えられずに敗北するなど悔しくてたまらない。がっくりと項垂れる勉だが、一哲はこのまま終わるとは思っていなかった。


 バディバトルが残り十五分になろうかという頃。


「さぁ~て、そろそろかな」

「え?」


 これまで時間を潰すだけだった一哲に動きがあり、諦めていた勉が顔を上げる。


「俺もさ、ある程度成績が欲しい訳よ。ならこのまま何もしないってのはよろしくないのさ」

「…………」

「まぁこれまでの授業でそれなりの点数は稼いだから念のためってレベルなんだけどな。一応稼いでおこうかと思ってる」

「…………」


 一哲の言葉に勉は希望を抱くような反応をせず無言のまま。何故なら今更ここで問題を解こうとしても、敗北してそこからポイントを伸ばすなど無理だと思っているから。伸ばせたとしても僅かであり、成績が下がる可能性の方が高い。だから一哲の言葉は勉に希望を持たせてやっぱり止めたと煽るためのものだと思い込んでいるのだ。


 だがそうではなかった。

 一哲にはそうしなければならないもう一つの理由があったのだから。


「問題を解くのに制限時間が無いだなんて、変だと思わなかったか?」


 これまでのバディバトルもそうだった。解けなければ解けるまでずっと居残りさせられていた。でも今回に限ってはそれは変なのだ。


「今回は順位がある。しかも最下位には罰ゲームがある。そしてギャラリーもいる。でも制限時間が無ければ、最後の最後で有利なペアがこうして時間稼ぎをすることが出来てしまう。そんなのゲームとして興ざめだよな」


 接戦で良い勝負をしている。その状況での直接対決という熱い展開で、勝っている方が状況を動かさないために問題を解かずにバディバトルの終了時間を待つだなど、あまりにもつまらない話だ。


 だが罰ゲームを嫌がり少しでも良い成績を修めたい生徒達ならそのくらいのことは普通にやるだろう。そして学園はそれに対する対処をしているに違いない。


「恐らく最後に抜き打ちで回答に制限時間が設けられる。だからその前に動くとするぜ」


 一哲はここまで何度も書いては消し書いては消しを繰り返した解答欄に、ついに全ての解答を書ききった。そして『提出』のボタンを押したのだ。


「なんだって!?」


 勉が驚いているのは、一哲が本当に解答したからだけではない。


「せ……正解……だと!?」


 絶対に解けないと確信していた問題に見事に正解していたからだ。


「最初の方で向こうで加恋(あいつ)が言ってただろ。俺はヤマを張るのが得意なんだよ」

「ぐ……くそおおおお!」

「早く取り返さないとな。がんばれよ」


 その瞬間、全員のタブレットに通知が来た。


『これより一問につき三分以内に解答する制限時間が設けられます。解答できなかった場合は不正解と同様になります』


 そして解答に三分以上はかかりそうな複雑な数学の問題などは選べないようになっていた。


「おっと、もう来たか」

「よろしくね」

「真祐ちゃん抜け目ないね~」


 一哲が動くことを予想していたのか、それともずっと動向をチェックしていたのか。恋愛大好き真面目普通キャラの真祐が即座に仕掛けて来た。


 だがその素早さに一哲が全く焦らないことから、己の失敗を悟ったようだ。


「…………やらかしたわ。これも狙い通りだったのね」

「はい解答っと」

「くっ……」


 稼いでいる加恋を倒すのは簡単ではない。だがバディの一哲が解放されたのであれば、そこを狙ってポイントを奪うべきだと誰もが考えるだろう。


 もちろん一哲はそれを予想していた。そして勉の問題を見事に解いて見せたように、ヤマを張って準備していた。真祐は見事にそのヤマに該当する問題で攻めてしまったのだ。


「はい次の方~」


 だがそれでも一哲を狙い、どうにかヤマを外して倒す方が加恋を倒すよりも楽だ。クラスメイトはそう判断して次々と一哲を狙い始める。


「今はこんな順位なのか。ガリ勉君のとこ、かざりんが結構頑張ってるから最下位じゃないんだな。はい解答っと」

「ぎゃあああああ!」

「そういえば成績が小遣いに直結するから頑張るとかって言ってたっけ。解答解答っと」

「なんでええええ!?」

「お金かぁ。たっぷり稼いでデートで奢ってあげればワンチャンあるかなぁ。かいとー」

「余所見しながら解かれるなんて!」


 まさに入れ食い状態。

 ヤマ以外の所が全く来ないため、準備していた解答を埋めるだけの単純作業。


 残り十五分で荒稼ぎし、一哲加恋ペアの優勝は確実となっていた。


 無双する一哲の様子を見て、琴遥が加恋に問いかける。


「ね、ねぇ桜ヶ平さん。一哲君、いくらヤマが当たったって言っても正解しすぎじゃない?」

「そりゃそうよ。だってあいつ頭良いもの」

「え?」

「普段のあの調子で誤魔化されてるけど、相当なものよ。バディバトルで本気出されたら私もっと負けてるんじゃないかしら。最近ようやく分かって来たんだけどね」


 それは一哲が成績向上のために少しだけ本気を出したからこそ、バディである加恋にはバディバトルを通じて見えたのだ。


 一哲の本当の実力はもしかしたら自分よりも上かもしれない。


 認めたくはないその事実を、加恋は受け入れる受け入れないよりも前に気になることがあった。


「どうしてやれば出来るのにやろうとしないのかしら。いくら勉強が嫌いだからって、やっておいて損はないはずなのに」


 一哲のことを知れば知るほど、本当の姿が曖昧になるような気がする加恋であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ