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バディ・ボディ・バディ  作者: マノイ


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17/21

第17話 好きの反対は無関心。無関心の方が良いところ見えるってどういうことよ

「(全く情けないわね。たかが擦り傷だけであんなに大騒ぎして)」

「うるせぇな。痛いんだからしょうがねーだろ」

「(それでも男なの?)」

「はいはい。女は痛いのに慣れてて羨ましいこった」

「(またそうやってセクハラする!)」

「何でそれがセクハラになるんだ?」

「(…………)」


 病院からの帰り道、演技っぽさが全く無く心底不思議そうにしている一哲の様子に、加恋は自爆を予感して何も言えなくなっていた。


 ちなみに背中の怪我は広範囲に広がる擦り傷と打撲のみ。脳の検査などまだ全部の検査結果が出た訳では無いが、今のところは重大な損傷は見られないとのことだった。


「まぁ良い。そんなことより今日はこのまま俺の姿のままで過ごすからな」

「(どうしてそうなるのよ!)」

「脳内で叫ぶな、煩いな」

「(叫びもするわよ! 病院終わったんだから私に返しなさいよ!)」

「返すも何もお前の身体じゃないんだが……昨日言ったこと忘れたのか?」

「(昨日?)」

「究極の選択」

「(!?)」


 それは避けては通れぬ史上最悪の二択。


 風呂やトイレを見られるか、それとも見るのか。


 昨日はどちらもやらないことで乗り切れたが、今日もそうなるとは限らない。特にトイレはいつ催すか分からないのだから。


「お前が見て欲しいならそれでも良いが、普通は見る方がマシなんじゃないのか?」

「(…………)」


 それは間違いなくそうだろう。トイレ掃除で男子トイレに女性が入ることは普通にあるが、その逆が少ないことからも明らかだ。もちろん余程の特殊性癖がある場合は別だが。


「合体の条件は気をつけれていればどうにかなりそうだが、昨日先生はこれから何度も合体するって言っていた。それが事実なら、合体した時にどうするかちゃんと決めておいとく方が良いだろ」

「(あんたらしくないわね。そんな真面目に考えるなんて)」

「別にお前相手に良い格好する必要もねーし、面倒なことはさっさと終わらせたいから」


 つまりそれは異性が絡まず勉強したくないなどの拘りも関係ないごく普通の状況においては、真っ当な対応が出来る人物ということではないだろうか。


「(…………)」


 そのことに加恋は気付きかけたが、大嫌いな相手のことを認めることが出来ず気付かないフリをしていた。


「(分かった、それで良いわ)」

「あいよ、んじゃ飯買って帰るか」

「(え?)」

「え? じゃねーよ、寮が変わったから自分で飯用意しなきゃならねーだろ。備え付けの冷蔵庫あったけど中身空だったし」


 男子寮、女子寮にはそれぞれ食堂がついているため、そこでご飯を食べれば良い。しかし恋人寮は普通の一軒家であるため自炊が必須なのだ。今日は学園を出て街の病院に向かったので帰りに購入できるが、明日からはどうするかも考えなければならない。


「俺はコンビニで買うがお前はどうする? 自分で作るのか?」

「(……要らない)」

「良いのか?」

「(要らないって言ってるでしょ!)」

「なんでキレてんだよ。なら俺の分だけ買うが、後で文句を言うなよな」


 後ろに隠れていてもお腹は減る。しかも昨晩は何も食べず、今日は実力テストがあり、色々と衝撃的なことがあって精神的に疲れている。お腹がかなり減っているはずだ。


 それでも加恋は反射的に断ってしまった。


「(これじゃあ幼い子供じゃない……馬鹿みたい)」


 それは一哲との差を意識してしまったから。男子と女子で辛さに差があるとはいえ、大嫌いな相手との生活を乗り越えるために冷静に考えている一哲と、まだ現状を受け入れられず冷静になりきれない加恋。真面目に勉学に励む自分と比べ、青春がどうとかはしゃぐ一哲のことを幼稚だと思っていたが、果たして幼稚なのはどちらなのか。


「(ごめんなさい。やっぱり私も買うわ)」


 ここで折れることは簡単ではない。若さゆえの羞恥心が意固地にさせてしまう。


 だが加恋は己の過ちを認め、謝った。それが出来る人間だった。


「…………どれにするんだ?」


 普段の一哲ならば加恋を揶揄っただろう。さっきは要らないと言ったのにどういう風の吹き回しだと。あるいは一昨日までの加恋を激しく嫌悪していた一哲でも同じだっただろう。攻撃チャンスがあるならば徹底的に貶める勢いだったのだから。


 だが一哲は加恋の態度の変化に何も言わなかった。

 それは加恋と距離を置くと決めているから。好感も敵対も不要。ただ事務的に対応するだけ。そうやって心の平穏を保っている。


「(何よそれ……)」


 決してこれ以上憎まれたい訳では無い。もちろん好かれたい訳でも無い。淡泊な対応こそが最もありがたい。


 それなのに加恋は不思議と僅かに不満を抱いていた。

 その理由が何なのか。それはまだ誰にも分からない。


「(お金は後で渡すわ。買うのは……)」


 加恋の指示のもと、一哲は買い物かごに大量の商品を放り込む。これが合体状態における初の共同作業である。


--------


「んぐんぐ、で、選択教科と部活は何にするんだ?」

「(選択教科は分かるけど部活?)」


 夕飯の弁当を食べながら一哲は脳内の加恋に問いかける。


 本来であれば実力テストの後に説明があり考える時間があった話だが、テスト中に合体してしまい二人にはその時間が与えられなかった。とはいえどちらも入学前から分かっていた話であり、入学時点である程度方針を立てているはずだった。


「まさか勉強のことばかり考えていて部活について知らないなんてことないよな」

「(…………)」

「マジかよ。煽りとか抜きに異常だろ」

「(う、煩いわね。帰宅部で良いって思ってたのよ)」

「帰宅部なんてねーよ。どこかの部活には必ず入らなきゃダメってルールだ」

「(げ……で、でも帰宅部同然の部もあるでしょ)」

「お前なぁ……はぁ、別に良いか。それより大事なのはバディが同じ部活に入らなきゃダメってことだ」

「(え!? そんなの困る!)」

「ああ、マジで困る。部活でもお前と一緒なんて嫌すぎる」

「(それはこっちの台詞よ!)」


 部活動ですらバディとの時間を強制させられる。それは少しやりすぎではないかと思わなくも無いが、実はそうでもない。


「だから普通はかけもちするんだよ」

「(かけもち?)」

「メインの部活とは別にサブの部活に入る。基本的にはサブの方に参加して、メインの方は月に二度の部活の日だけ参加するって形が普通らしい」


 相性が最悪な二人がバディを組まされやすいこの学園において、スポーツが得意な人と文科系が得意な人がバディを組むことが非常に多い。それなのにセットで特定の部活にしか入れず、得意でやりたい活動が出来ないというのはあまりにも酷すぎるため、サブという名のメイン活動が認められているのだ。


「(なんだ、それじゃあ問題ないじゃない)」

「だと良いがな」

「(何よそれ)」

「何でもない」


 一哲は意味深なことを言ったが確信があるわけでもないので黙った。


「(この学園のやり方から察するに、バディと同じ部活に入ることに意味が無いはずがない。絶対にいつか何かを仕掛けてくるはず)」


 ゆえにその時のことを考えてメイン部活の選択をすべきなのだが、何が起きるか分からない状態では検討すら出来ない。


「(どうせ先生とか先輩に聞いても秘密にされるだろうし、分からないなら考えるの面倒だ)」


 加恋に伝えた所で良いアイデアが生まれるとも思えない。だから一哲は何も言わなかった。


「俺は食い終わったからお前が食えよ」


 話の途中だけれど、入れ替わった。


「(制服のまま食べるのか?)」

「当然でしょ!」

「(そのくらい慣れないと……いや、なんでもない)」


 着替えたら下着姿を一哲に見られてしまう。一哲の着替えを加恋が見てしまったように。そのくらい慣れないと不便だと一哲が指摘しようと思ったが、男が言っても下心があると思われて拒否されるだけだと思い言うのを止めた。


「いただきます」


 加恋は手を合わせて丁寧に挨拶してから弁当攻略に取り掛かる。その姿になんとなく育ちの良さを感じた一哲であった。


「(それで選択授業と部活はどうする)」

「んぐんぐ。あんたはどうしたいのよ」

「(俺はどうでも良い。部活はサブで好きなのに入れるし、授業だってこだわりは無い)」

「…………そう」


 授業に拘りが無い。

 将来の事を真面目に考えているのかと、つい声を荒げてしまいそうになるがぐっと堪えた。先ほどから一哲は納得がいかないことがあっても指摘しなかった。それなのに自分だけぎゃーぎゃー騒いでいたらみっともなく思えたから。


「なら私の方で選んでおくけど、後で文句は言わないでよね」

「(ああ)」


 これで急ぎ相談することが終わったのか、一哲は何も言わずに裏で静かにしていた。


「はぁ……こんな生活ありえない」


 弁当の温かさは加恋の心を温めてはくれなかった。

 空腹感を満たすべく沢山食べているのに、口から何度も溜息が出てしまう。


 着替えたい。

 お風呂に入りたい。

 勉強したい。


 やりたいことが制限され、ストレスが溜まって行く。


 合体していなかったとしても、同じ屋根の下に(一哲)がいると考えただけで落ち着かないだろう。


 慣れるしかない。

 一哲が言おうとしたことを加恋は分かっていた。分かっていたけれど納得できるものではない。


 では諦めるのか。

 全てを投げ出して学園を辞めてしまうのか。


 そんなことが出来る筈がない。

 だから納得できずとも、やるしかない。


 まずはその一歩を踏み出そう。


「これ食べ終わったら風呂に入りなさいよ」

「(は?)」

「どうせ昨日も入って無いんでしょ。汚いわよ」

「(…………分かった)」

「(やっぱり揶揄っては来ないのね)」


 そんなに俺の体が見たいのか?


 琴遥相手には間違いなくそう言っただろう。


 揶揄いにも嫌がらせにもなる便利なこの一言を一哲は口にしない。やはりそれは加恋との関係を淡泊にしたいとの意思によるものだろう。


「(昨日は胸を揉んで来たくせに)」


 そして今もやろうと思えばセクハラ三昧。合体しなくとも、強制同棲など男にとって都合が良いものでしかないはずだ。


 だが一哲はやらない。昨日の行為はあくまでも加恋を追い出すためのものであり、加恋そのものを求めた訳ではない。


 それで良い。

 相手は自分が大嫌いな男子なのだから。


 そのはずなのに、相手にされていない感じが妙に苛立つ。

 そう感じ始めたのはいつからだっただろうか。


 一哲が階段から落下する自分を身を挺して助けたと知った時からか。

 琴遥の悲しみに憤った姿を目撃した時からか。

 静の説得に見事に成功してみせた時からか。


「(認めなきゃダメなのよね……あいつが案外まともだってこと)」


 一哲に対する好感度は間違いなく上昇している。

 セクハラ三昧の酷い台詞ばかり放っていても、それを帳消しにするくらいは良いところが見えてしまっていた。


 もちろんそれが恋に昇華しているなんてことは全く無い。嫌悪感は全く消えておらず、今すぐにでも消えて欲しいとすら思っている。


 だがそれでも、一哲が波風を立てない関係を続けようとしているのであれば、それを信じられるかもしれない。


「(ここで生活していけるかどうかは、私次第)」


 波乱万丈だった学園生活のはじまり。

 それがようやく落ち着き始めて来たのかもしれない。

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