第15話 これで何の実力をテストしようっていうのよ!
「これから実力テストを始めます」
午後になり、ついにテストの時間がやってきた。
「先生。どうやってテストするのですか? 相談すると煩くなるし、他のペアの答えも聞こえてしまうと思うのですが」
そう質問したのは委員長風女子の真祐。クラスメイト達はその質問を聞いてはっとした表情を浮かべる。
皆テストで良い点を取ることばかり考えていて、どうやってテストをするかまで考えていなかったようだ。
「それは説明するよりも実際に体験してもらった方が早いでしょう。まずは女性の列の机を男子側に寄せてくっつけてください」
高校では基本的に机は前後左右離してソロで置かれている。小学校のように隣同士の机をくっつけて授業を受けるということは無いのだが、その時のようにくっつけろと窓理教師は指示した。
「まさか小学生みたいなことをする人は居ないですよね」
嫌な相手とは机をくっつけたくない。それが問題になったことがどの学校でもあったのではないだろうか。高校生にもなってそんな幼いことをするような奴がいるのかと煽られれば、とてつもなく嫌でも我慢せざるを得ず、全員が机をくっつけた。
「ではそのまま動かないでくださいね。動いたら怪我しますから絶対にそのままでいてくださいね」
かなり真剣な声色でそう言われ、生徒達は何が起きるのかと不安げだ。
これなら動くことは無いだろうと安心した窓理教師は、ポケットからリモコンのようなものを取り出して操作した。
「うわ!」
「何々!?」
「床から何か出て来る!」
大きな機械音が鳴り出したと思ったら、床から壁がせりあがって来た。壁は椅子に座っている全員の頭上を越える程度の高さまで上昇し、それぞれのペアが区切られた。
「特殊な防音機能がある壁ですので、余程の大声でなければ周囲に会話が漏れ聞こえることはありません」
そんな馬鹿なと生徒達は疑問顔だ。
何故なら横は壁で区切られているが、上は仕切られていないからだ。
「試しに何かお話しして構いませんよ」
いきなりそう言われても何を話すべきだろうか。
そう躊躇するペアが多い中、一哲は即座に叫んだ。
「琴遥ちゃん!俺と付き合おうぜ!」
「馬鹿!何変なこと言ってるのよ!」
「返事が無いってことはオッケーってことだよな!」
「止めなさいって!恥ずかしいでしょ!」
「ぐおおおお!背中がああああ!」
たとえ相性が悪い相手でなくとも、自分のペアがいきなりこんなことを言い出したら恥ずかしくて怒りたくもなるものだ。背中を叩かれたのは自業自得である。
「たった今、巌流島君と桜ヶ平さんがいつも通りのことをやっていましたが、どうやら聞こえた方はいないようですね」
「ええ!?今のが聞こえてないの!?」
「うう……背中……」
加恋は思い出す。
この学園は最先端の技術がふんだんに導入されていることを。そしてそれはAIに限った話では無かったのだ。
「ちなみにもうご理解されているとは思いますが、私の声は届きますし、私からは皆さんの姿が見えています。カメラで録画もされていますので、周囲から見えないからといって不正はしないように」
壁の隅をよく見ると、小さなレンズが設置されている。それが監視カメラなのだろう。
「ではテスト用紙を配りますね。あ、しまった。先に配るんだった。面倒ですが今回は立ち上がって壁の上から後ろに回してください」
全員にテスト用紙が届くと、ようやくテストの開始である。
「制限時間は一時間半。名前を書くのを忘れずに。それでは始めてください」
開始の合図と共に加恋がテスト用紙を表にする。
「やっぱり問題と解答欄が一緒なのね。一枚しか配られなかったし、そんなことだろうと思ったわ」
テスト問題は一枚の大きな紙に全問書かれ、解答欄もその中に用意されている。
この形式の何が問題かと言うと、分担が出来ないこと。
たとえば問題用紙と解答用紙が分かれていて、問題が複数枚に渡って用意されている場合、分担して解くことが可能となる。しかし一枚だと二人並んで読むか交互に読み、一度にどちらか片方が解答することしか出来ない。
肩を並べて一緒に問題を読み一緒に解く。
嫌いなバディ相手にそれが出来るペアは多くは無い。
だがそれなら優秀な人がさっさと解いてしまえば良い。
加恋の場合、自分が一気に解いて、一哲に得意なところの見直しなどをしてもらえば良い。
そう思っていたのだが。
「何よこの問題!」
加恋の顔が青褪め、しばらくは出番が無いから寝ようと思っていた一哲が興味を抱き横から覗いてきた。
「くっ、ははは! なんだこりゃ! こんなのがこの学園のテストなのかよ!」
「ふざけてる……こんなの何の意味があるのよ!」
「さぁな。でもそんなこと言ってて良いのか? 時間が過ぎてくぞ」
「うっ……で、でも、なぞなぞなんて解いても意味無いわよ!」
「かもな。なら諦めるか?」
「…………」
テスト問題は国語数学理科社会英語の五教科からランダムに出題され、それに加えなぞなぞらしき問題が多く用意されていた。揶揄われているのかと不安になるが、窓理教師が何も言おうとしてこないということはこれが正しい問題なのだろう。
学園側の意図が読めず困惑する加恋。
しかし意図がどうであれ、どんな問題であれ、加恋は良い成績を取らなければならない。文句なら高得点を取ってから言えば良いだけの話。
「苦手……なのよ……」
「は?」
「だから!なぞなぞとかとんちとか、そういうの苦手なの!分からないの!」
「へ?マジで?」
成績優秀なのだから、頭が柔らかいに違いない。
だからなぞなぞだろうがパズルだろうが簡単に解いてしまうのだろうなと一哲は考えていたが、それは大きな間違いだった。
「こんなの簡単だろ?」
「じゃああんたが解いてみなさいよ!」
「いいぜ」
問題と解答用紙を奪い取った一哲が、なぞなぞ問題をさらさらと解き始めた。解答では答えの理由も説明しなければならず、一哲が書いたその理由はどれも納得できるものだった。
「はい終了」
「う、嘘……」
「んじゃ寝てるから後よろしく~」
少しは協力してやる。
その『少し』分の労働は終わったと言わんばかりに一哲は寝てしまった。
「くっ……」
たかがなぞなぞを解かれただけ。学校で学んだ内容とは全く関係ない問題。
だから悔しがる必要は無いはずなのに、加恋は何故か無性に腹立たしかった。
もちろんそれで止まっている場合ではない。
せっかく大嫌いなバディが仕事をしてくれたのだ。ここで自分が残りの問題を解けなければ足手纏いということになってしまう。外ならぬ自分が成績を欲しているのに、その自分が原因で成績を落としてしまうなどあってはならないこと。
「ふぅ」
加恋は気合を入れて、なぞなぞ以外の問題にとりかかった。
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「ねぇ」
「…………」
「ねぇ、起きてってば」
「…………んあ?」
加恋がテスト問題と奮闘している間、一哲は本当に寝てしまっていた。
問題を解き終えた加恋は、その一哲の肩を軽く揺さぶり起こす。
「見直しをして欲しいのよ」
「なんでそこまでやらなきゃならねーんだよ」
「得意な科目のところだけで良いから」
「俺はもう十分仕事しただろ」
「それはそうだけど……」
大嫌いな相手にお願いする。
多少和解したとはいえ、心理的な抵抗は非常に大きいはずだ。
時間があるのなら自分で見直せば良いだけなのに、どうして無理して一哲を頼ろうとするのか。
「寝る」
「ちょっと!」
理由が気にはなったが別に良いやと再び寝ようとする一哲。
加恋は反射的に声を荒げてしまったが、これ以上は流石に甘えすぎかと思い直し手を引っ込めようとした。
だがその反射的な行動がまずかった。
一哲はまた背中を叩かれるのかと思い、大きく右手を振り加恋の手を力強く払ったのだ。その手は見事に加恋の肌、手の甲に直撃した。
「(!?)」
「(!?)」
二人の視界が一瞬ブレた。
そう思った瞬間、突然椅子が消失して床に尻餅をついてしまう。
「ひっはひ~」
口から漏れたのは言葉にならない言葉。
それが意味することを二人はもう知っている。
「(合体した!?)」
「(何でだ!?)」
密着しながら階段を激しく転げ落ちるような強い接触があったわけでもないのに、何故か合体してしまった。また主導権争いが始まるのかと思いきや、身体は加恋の物で落ち着いた。
「(楽させてもらうぜ)」
背中が痛い一哲は、こうすることで痛みから解放される。
もし不慮の事故でまたこうなってしまった場合、傷が治るまでは表に出ないと決めていたのだった。
「どうしてこんなことに……」
立ち上がった加恋は自分の席に座り、頭を抱えてしまう。
また羞恥地獄がやってくる。実力テストどころではない。
「見直し、しないと」
それなのにテストのことを優先するあたり、やはり成績に対する異常な執着心があるようだ。
「(見直しするのも良いけど、俺が居なくなった理由も考えておけよな)」
「…………」
「(お前も一生このままなんて嫌だろ。安心しろって、帰るまではずっとこのままでいさせてやるからさ)」
「分かってるわよ……」
冬星保健医はホームルームに向かう一哲達に絶対に守らなければならないあることだけを急ぎ伝えた。
それは二人が合体しているところを多くの人に認知されたら元に戻れない可能性がある、ということ。
つまり一哲がいなくなった理由を馬鹿正直に合体したからなんて説明したら、その時点で二人の人生が終わってしまうのだ。
「そんなの絶対嫌!」
「(俺だって嫌だからがんばれよ)」
「どうして私ばかりこんな目に!」
加恋の悲痛な叫びは、誰にも届かない。
合体して実力テストをうまいかんじに解かせようと思いましたが、まだ早いかなと思って自重しました。




