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バディ・ボディ・バディ  作者: マノイ


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第14話 身体測定とミニ勉強会の開始

「くそ、どうしてこうなった!」

「しょ、しょうがないよ。あれじゃあ……」


 体操服姿になった一哲と静が、体重測定の列に並んでいた。

 その隣に加恋や琴遥の姿はない。


 つまり彼女達は実力テスト用の勉強時間の確保よりも、一哲達に測られたくない気持ちの方を優先したのだ。


 ただし最初からそうだったわけではない。

 ギリギリ測らせても我慢できる項目は測らせて、少しでも時間短縮をしようと思っていたのだ。


 例えば身長。

 本来であればそれすらも測られたくはないが、どうにか我慢できる範囲内だと判断した。しかしいざ体育館に移動してみたら断念せざるを得なかった。


「そりゃあ身長測る道具なんて沢山あるわけないよね」


 ゆえに生徒同士で測る方にも列が出来てしまい、しかも先生が測定する方がスムーズに進むということもあり、大した時間短縮にならなかったのだ。


 体重や胸囲のように最も測られたくないものばかり測定機器が多く用意されていて、当然そっちは列など出来る筈もなくガラガラ。


 結局普通に測定を受けるのが一番だと、加恋たちはさっさと男女を隔てるカーテンの向こうに行ってしまったのだった。


「せっかく測りながらミスを装って触ってやろうと思ったのに!」

「多分それバレてたんじゃないかなぁ……」


 当事者で無くとも、一哲のこれまでの奇行を見ればやりそうだと誰もが思う。たとえ身長を測る流れになったとしても、何らかの対策をされていたかもしれない。


「まだだ!まだ終わってないぞ静!」

「え?」

「お前の女子を揉みしだきたいという欲望、なんとしても叶えてやる!」

「変なこと叫ばないで!それは一哲君の欲望でしょ!」


 カーテンの向こうから激しい嫌悪の空気が伝わってきた。


「うう、先生が凄い眼でこっち見てる」


 男子が女子の方に来ないように見張る女性の体育教師が、まるで射殺すかのような視線を二人に向けて来た。


「僕はむしろ嫌だったのにどうして」


 女子に復讐したい。

 確かに静はそう思っていたが、琴遥にエロいことをする気など全く無かった。むしろ女子が怖いので測ることすらやりたくなかった。無理矢理一哲に連れて来られたが、測定しなくて良くなり安心していた。


「よし静、よく聞け」

「嫌だ。聞きたくない」

「覗きに行くぞ」

「聞きたくないって言ったのに……」


 肩を組み悪だくみをしようとする一哲。怪しい動きに体育教師の視線が更に鋭くなる。


「女子の半裸姿を目に焼き付けろ。最高の復讐になるだろ」

「それって僕の人生が終わっちゃうやつだよね」

「復讐なんてそんなもんだろ」

「いきなり真理っぽいこと言うのやめてくれない!?」


 もし静がそこまで追い詰められていたのであれば、とっくに行動を起こしてこの学園には来ていない。それなのに今更、しかも覗きだなんて微妙な復讐で人生転落するなど悲しすぎる。


「なぁに平気さ。覗きぐらいで終わったりなんかしないぞ」

「それは物語の中の話であって、実際は退学コースまっしぐらだよ」

「そんなことはない。何故なら……」

「何故なら?」


 一哲は敢えてもったいぶってから力強く宣言する。


「女の裸は男に覗かれるために存在するからだ!」

「何言ってるの!?」

「本当は女だってそれを望んでいるのさ。だから俺達が罰せられることなど無い。むしろ感謝されるべきだ。さぁ行くぞ、エデンの園へ。最高の復讐に付き合ってやるよ!」

「僕が首謀者みたいな言い方は止めて!あ、先生がこっちに来る。違うんです、僕は何も……」


 ついに女性体育教師が彼らの元へと来てしまった。


「お前ら煩いぞ」

「あ、はい」

「あ、はい」


 なんてことはない。話の内容ではなく、ただ単に騒ぎすぎて注意されたというだけのことだった。女性体育教師はそれ以上何かを言うことは無く、また見張りに戻った。


「もう、一哲君のおかげで怒られちゃったでしょ」

「だがこれで分かったぞ。誰かが騒ぐと警備が薄くなる。その隙を狙って……」

「まだそんなこと言ってる。ほら、僕達の番だよ」


 いつの間にか二人は列の最前まで到達し、測定の順番が回って来ていた。


「しゃーない。決行は測定後だな」

「だからやらないって。全く」


 静は気付いているのだろうか。


 教室内でぶつぶつ陰気臭く呟いているだけだった自分が、いつの間にか自然に会話出来ているということに。それどころか、何処となく楽しそうにしていることに。


「お、なんだ静。お前かっるいな。女子みたいだぞ」

「ちょっ、見ないでよ。気にしてるんだから」

「もっと飯食え飯。よし決めた、これから毎日一緒に飯食おうぜ」

「え?」

「たっぷり食ってたっぷり遊ぶ。それが成長するコツだぜ。お前の食生活を管理して改造してやる」


 改造という不穏な単語に、静が恐怖に震えることは無かった。

 その前の『毎日一緒にご飯を食べる』という言葉に衝撃を受けていたから。


 中学では女子にいじめられる毎日で、友達など出来るはずがない。

 給食の時は仕方なく班で食べさせてもらってはいたが、腫れもの扱いされて気まずいだけ。


 そんな自分と飯を食おうと誘ってくれた。

 まるで友達かのように扱ってくれる。


 名前を呼んでくれるようになった時から距離の近さ(友達扱い)は薄々感じていたのだが、ついにそれを実感したのである。


 感動で泣きそうになり、天井を見てそれを誤魔化す。

 そのことに必死だった静は気付いていない。


 『たっぷり食ってたっぷり遊ぶ』


 つまり一哲は一緒に食べるだけでなく、一緒に遊ぼうと言おうとしているのではないかということに。


「天井なんか見てどうしたんだ? まさか反射して女子の姿見えるとか!?」

「…………」


 せっかく感激していたのに、一瞬でこいつが友達で良いのかと不安になる静であった。


--------


「さぁ、勉強するわよ」


 結局一哲は何も出来ず、身体測定は普通に終わってしまった。

 四人は教室に戻り机を合わせ、勉強モードになっている。


「ほいほい。んで、何からやるんだ?」


 てっきりふてくされているかと思いきや、一哲の態度はいつも通り。

 メンタルお化けの一哲はこのくらいではへこたれないのであった。


「一哲君ってたくましいよね」

「何のことだ?」


 静のツッコミに一哲が首をかしげる。

 普通の姿なのだが、加恋達には新鮮に映ったようだ。


「いつの間にそんなに仲良くなったのよ」

「体育館でも騒いでたよね」

「さいっていな話でね」

「せっかく桜ヶ平さんが準備してたのに」

「音乃葉さん何言ってるの!?」


 だがそれは逆もまた然り。

 琴遥が加恋を自然に弄り仲良く会話している。加恋が勉強以外の会話をしている。


 あまりにも短期間での関係性の変化だが、若者にとっては案外このくらいが普通なのかもしれない。


「くだらない話してないで勉強よ! まずは音乃葉さんと支暗君で得意不得意の確認をしたらどうかしら」


 そもそもが、それを確認して実力テストでフォローし合うために、一哲が静に声をかけたのだ。


「う、うん。支暗君は……」

「…………」

「…………」

「…………」


 ここまで和気藹々と会話出来ていたのに、いきなり沈黙になってしまう。

 一哲の絡みすら軽くいなす琴遥だが、やはり支暗が苦手らしい。


 そんな時、頼りになるのはもちろん一哲。


「静が得意なのは保健体育だよな」

「なわけないでしょ!?」

「おっとそうだった。保健体育は苦手だから実技で教えてもらいたいんだよな」

「どうして一哲君は僕をエロキャラにしたがるの!?」

「男は漏れなくエロキャラだろうが!」

「これは酷い逆ギレ」


 きまずい空気が一瞬で霧散し、琴遥も笑顔になっていた。


「ぷっ、あはは。一哲君って凄いね」

「そうでもあるぜ」

「うん。だから少し黙ってて」

「酷い!」


 琴遥は今度こそ、支暗にしっかりと向き合った。


「お願い支暗君。私が苦手なのは分かってるけど、どうしても実力テストで良い点を取りたいの。私に出来ることなら何でもするから助けて」

「何でも!?」

「一哲君は黙ってって言ったよね」

「ひえっ」


 今までの琴遥からは考えられないほどの威圧を受けて、素でビビる一哲。


「馬鹿」


 加恋にジト目で見られたが、空気が読めなさすぎで自業自得なのは分かっているからか反論はしなかった。


「ぼ、ぼぼ、僕は……」


 一哲相手とは違い、静は琴遥の目を見ることも出来ない。

 まともに言葉を発することも出来ない。


 女子に対する怯えは簡単には克服できない。


 だが。


「が、がんばる。国語と、英語ならなんとか……」

「ほんと!?」

「あっ……そのっ……!」


 琴遥が予想していた通り、バディはお互いに得意不得意を補う関係になっていた。そのことに喜び反射的に身体を乗り出して喜んでしまった。だが女子に近づかれたことで静は怯えパニックになりかけていた。


「ご、ごめん。うう……」


 とてもやりにくい。

 誰とでも楽しく仲良くしたい琴遥にとって、距離を縮められない相手というのは扱いが分からず苦手なのだ。


 だが今はそんなことを言ってる場合ではない。苦手な相手ともコミュニケーションを取り、勉を倒さなければならないのだ。


「ああ……うう……」


 琴遥が困っている様子から、失敗したと落胆する静。


 そんな静に一哲が声をかける。


 これまでのようなふざけた様子では無く、らしくないほどに優しい声で。


「静、よくやったな」


 無理して仲良くなる必要なんてない。

 辛いのに自分から歩み寄ろうとしたことが尊く、今はこれだけで十分だ。


「…………ありがとう」


 耳を澄まさなければ聞こえない程にか細い声だったが、彼らを纏う空気がより一層和らいだのであった。

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