第8話 魔眼を
今日は俺の12回目の誕生日だ。
早いもので、もうこの世界に来てから12年が経ってしまった。
少しづつではあるものの、魔術についての勉強、研鑽は進んでいる。
5年前は難しかった氷魔法も、今では術式の省略に省略を重ね、簡単な詠唱をトリガーに即時に展開出来るほどになった。
今では俺のアイデンティティの1つである。
俺がまだ若いのもあって、常人よりは成長速度が早いようだ。よく稽古を付けてくれているブラス父様には驚かれるが、正直悪い気はしない。けど俺は転生して他の人より早く物事を始める方が良いことを知っているから、それぐらいは出来ないとダメだろう。
なんでも謙虚に、前世の育ての親の叔父から厳しく教えられてきた事だ。
先程まで家族全員で俺の誕生日パーティーを行ってくれていた。
もう12回目になるが、何度やっても幸せな気分にさせてくれる物だ。
「イヴ?少し、いいかしら。」
部屋の外からリヴィアナの声がした。
ドアを開け、中に入れると身体の後ろになにか大きな物を入れているのに気が付いた。
「これ。12歳の誕生日プレゼントよ。はいどうぞ。」
そういって母が渡してきたのは杖だった。特に目立った装飾はされていないものの、上の先に剣のような鋭い金属が付けられているのが違和感だった。
「え...!ありがとうございます!大事にします!...でも、この杖、魔術に使う物ですよね?その...お母様は俺が魔術を使うのは...?」
リヴィアナは自分が戦士系、所謂物理アタッカーの女剣士である為、本当は俺に剣士として活躍して欲しいと言っていたと昔父様に聞いた事があった。実際、俺が魔術の鍛錬をしている時はやけに素っ気なかったり、逆に剣術は嬉々としてとても熱心に教えてくれていたりしていたのだ。
「?勿論大賛成よ!けど、私は魔術の才が無いから、何もしてあげられる事がなくてね。だからこの杖、杖槍と言うのだけれど、先が刃になっているの。魔術と剣術、両方の才のある貴女にうってつけの武器だと思ってね!」
魔術用の杖の役割、近接用の槍の役割を同時に担える武器という事か...!
なるほど、そう考えるととても合理的な武器だ。下手に片手で杖、片手に剣を持つよりもずっと良いだろう。
まあそもそも魔術を使用するのに杖が必要不可欠という訳では無いから、最悪剣だけ持っていても良いかと思って普段から練習してはいたが。
というかリヴィアナ、別に魔術が嫌いな訳じゃないのか。ずっと勘違いして勝手に嫌いなのかと思ってしまっていた。
先入観で物事を決めるのは辞めないとな...。
「という訳で、剣術に加えてこの武器を使いこなせるように稽古も付けましょう!」
「あ、はい...」
ふふと笑った後にこほんと神妙な顔を取り戻しいう。
「良い?イヴ。以前から話していたけれど、貴方が12歳になったら教えると言っていた事があるわよね。」
空気が少しピりついたのを感じる。母の視線はとても真剣だった。
「は、はい。俺がいくら聞いても教えて頂けなかった、魔眼についてでしょうか。」
「・・・説明するより実際に体験してもらった方が早いわね」
そういうと母は片目を閉じ、右目に魔力を込める。右目に特徴的な魔方陣のような光が現れるのに気が付いた。これが魔眼・・・!効果はなんだろうか。ここから魔法を打ったりとかできるんだろうか!?
「どう?」
どう?って、どういうことだ?まだなんにも現れていな・・・
ん?
何かが変だ。感覚が違う。違和感の正体を探そうと部屋を見回すが特に異変は見当たらない。
「これは・・・」
「なにがなんだかわからないでしょう?得体の知れない感覚。教えてあげるわ。貴女は今、私に魅了されているの。」
・・・は?
いやいや、いくら美人だからって流石に血のつながった母に欲情なんてするはずが・・・
ふっと母に目をやると、そこから妙に母から目を逸らしたくない自分に勘付いていた。
「・・・っ」
母の瞬きと共にその感情が失せた事を実感する。
「ふふ、元に戻ったでしょう?これが魔眼の力。私の眼は魅了、相手の心を掴み、精神の自由を奪う能力があるわ。」
「私の眼、ということは、俺の魔眼は違うんですか?」
「流石イヴ!察しが良いわね。魔眼の力は一人ひとり違う物を持つの。一説には最も強く願っていた事を実現させたいと心から強く願った時に開眼すると言われているわ。とは言ってもその場で考えた事って訳じゃなく深層心理で望んでいる欲求が宿らされるから、欲しい能力が必ず手に入るという訳ではないわ。」
「願いを叶えるための力を手に入れられるだなんて、我が種族はとても強欲ですね。」
「・・・ふふっ、そうね。この力はヴァンパイアのものじゃないわ。貴女の言う通り遥か昔、7神に与えられた力と言われているの。私の力はその中の1神である色欲の神の力を利用しているというわけ。」
ま、リヴィアナ自体望んだものは逃さなさそうな性格だし、性には合っているのだろう。
俺にもその血が通っているからか、強欲という通常失礼に当たるであろう例えを不快であるという心配なく、むしろ誇らしげに口に出していた。
「しかし、その開眼というのは、実際どう行うのですか?」
「あぁ、それなんだけどね。」
「こうするのよっ!」
突き落とされ、光が遠ざかっていく。
イヴは元魔王軍親衛隊隊長の母親を甘く見ていた。
前回の聖戦で指揮を取りつつ最前線で活躍、退役後兵力増強を目的に特別顧問として働き、実際に有力な戦士達を生み出してきた名顧問なのである。彼女の訓練を受けるために遠方からやってくる傭兵もいる程だ。
甘いはずが無かった。