第6話 良い意味の家出
どうも、イヴ・バレンタインです。
本日やることはなんと!
家出します。
まあ、家出というよりはただ、一人で外出する、というだけだ。
普通に今日帰ってくるし、別に家族となにかあったわけでもない。
ただ家出ということは、勝手に出るのだ。家族に許可も取らず、断りも入れず。
どうしてかというと、母リヴィアナは俺をこのまま箱入り娘として大事に大事に甘やかして育てるつもりらしい。この7年間、一人どころか家族と一緒にですら外に出た記憶が無い。
このままでは俺でないイヴ・バレンタインだったなら恐らく、世間知らずのお嬢様になって、将来悪い男に騙されてしまうだろう。
俺は俺として、イヴ・バレンタインという器を育てるのだ!
・・・まあ、単純に憧れのファンタジー景色を見られない日常にしびれを切らしてしまっただけなんだけど。
むしろいままでよく我慢してきたと思う。褒められてもいいと思うのだ、もし俺以外に俺のような境遇の地球人がいるならば。
...ていうか、あの賞が賞として俺に与えられたなら、きっと他の賞もあるんだろう。
俺が最も不幸な死に方で死んで特典を与えられたのなら、最も幸福な死に方をした人とか、それこそ何人もの人を救った人だとか。
むしろこの世界で俺だけが転生人だと思う方が変ってものだ。
それによくあるファンタジーものじゃ、勇者は大体転生者ってのが定石だろう。
審判の部屋とか言うところで喋ってたあのいかにも神っぽい奴が俺の思う世界ですよ、みたいなこと言ってたしな。
どこまでの範囲でそれを言ってるのかはわからんが、ここまで思考を読んでいるなら、その可能性が高いと考えていいだろう。
...考えが脱線してしまったな。
俺の悪い癖だ。
今の時刻は昼の11刻。
なぜこの時間に決行するのかというと、
昨日から家の人間が殆どいないのだ。
これは魔王直々の要請で、魔族の傭兵や軍隊を訓練する為に2ヶ月に1度ほど3日間、父母全員が兵基地に招集させられているのだ。
今日もまた、出発する前に10分ぐらい永遠の別れのようなハグをされた。
この1年間、俺はどうにか外出するために俺がどうやったら外出できるかを探ってきたのだ。
もちろん最初は普通に外に出てみたいと言っていたけど、どうも無理だった。
「外は危ない」だの、「貴女のような可愛い子、直ぐに攫われてしまう」だの。
誰が魔王直属の親衛隊隊長がすぐ側にいる娘を狙えるんだよ...
それならと父達に頼んでもみたが、予想通り母がそれを許さない。
なんだよ...そんなんじゃ、反抗期が来ちゃうぜ??
まあ、家族という物を前世は知らなかった俺だ、チャンスを与えられたなら全力で大切にするつもりだから、悲しませたくはないけど。
でもだからってそれとこれとは別だ!
相手の気持ちを守るために自分の気持ちを殺しつづけるのは自分の心にも相手にも良くない。
「よし...誰も見てないな?それじゃ、行くか!」
メイド達には「どうしてもお願いだから!今度なんでも言うことを聞くから!」と言っておいたから大丈夫だろ。
普通、何でも言う事聞くなんて言っちゃいけないけどさ。
俺に出来ることなんてたかが知れてるし、それで外出を黙認してくれるなら安いもんだ!
俺の壮大な計画によるただの外出は、今始まった。
扉を閉め、人生初、家の敷地の外に出る。
この家は丘の高い場所にある。
ちなみに俺たちが普段水浴びをしている所はこの丘の下まで伸びる滝の滝壺である。
つまりこの丘の下にある城下町の人々は俺たちが水浴びをした後の水を使っているのだ。
この丘の土自体に魔術がかけられているそうで、ろ過能力が優れているらしいけど、それにしても初めて聞いた時にはちょっと引いた...
というかなんなら平民の人達は、この水を聖水とか言っているらしい。
俺たちが使った水だと知って。
...
ちょっとね。うん。
「うおっ、あれが...!?」
今回の俺の目的地である、城下町が見えてきた。
色々な物があるだろうな。
武具屋、教会、鍛冶屋によろず屋とか!?
ザ・異世界生活ってやつだ!
好奇心と逸る気持ちが抑えきれず、思いがけず小走りになってしまう。
「着いた〜!」
この七年間で学んだ魔界で多く使われているというロンムリア語で、【ミーヌの花街】と書かれた看板の後、その名前の通りに美しい花々が街を彩っている様子が目に見えた。
「...」
つーかさっきからメイド達に着けられている。気付いたのは少し前だけど恐らくは家を出た時からずっとだろ。
まあ心配なのはわかるし、気にせず楽しもう!
門をくぐると街は活気に溢れかえっていた。
「よってらっしゃい見てらっしゃい!ダラハキ特産のレッドカウ肉はいかがかな?!焼きたても勿論のこと、冷めても柔けーぜぇ!」
レッドカウ=赤い牛のことだよな?
牛型の魔獣かなんかか。
くぅー!食ってみたい。前世でのなんの肉に近いんだろうか。普通に考えれば牛肉だろうが、もしかしたら鶏肉の味だったりするのかも。
だが、俺は一文無しなのでショッピングはできない。
そーいやお小遣いとかくれればいいのに。
まあ外に出させるつもりも無いなら渡さなくてもいいか。
基本的に家はコンクリとアルミ、ガラスなど
ではなく、木や石を元に制作されている。
「あらお嬢ちゃん、見たことの無い顔ね。この街に来たのは初めて?親御さんは?」
一人で歩いていると50代ぐらいに見える女性が話しかけてきた。
「いないよ。今1人で遊びに来たんだ。俺ん家はあっち!」
丘の上に指を指す。
「あそこ?...って、リヴィアナ女卿の御屋敷!?ということはもしや貴女は...その御令嬢に御座いますか?!」
驚きつつも口調が畏まった言い方になるおばさん。
「リヴィアナ様の血を継いでいるということは、魔眼をお持ちなのですか!?」
魔眼?初めて聞いた。と伝えるととても驚き、同時に少しガッカリしたように見えた。
「そうですか...では、私めの店、どうぞご贔屓にとお伝え下さいませ...!」
耳元でコソコソっと囁くように言うおばさん。
「あー、わかったよ、はは...」
これ、もしやするとバレたら不味いやつ...?




