第4話 魔術、確かな成長
一旦待ってほしい。決して堂々と変態を横行しているわけではない。
二度目の生でまだ7歳だからと思春期になってからなんでも許される小さい時にもっとやっておくべきだったと反省した事を実行しているわけではない!!
・・ヴァンパイアを親に持つと、どうやら女性以外が生まれる事はほぼないそうだ。
「あ、イヴ様!こんばんは!本日は遅いですね?」
「う、うん・・・少しお母様と話していたんだ・・・!」
自分の裸を見るのにはもう抵抗なんかないけど、俺が心まで女だと思って油断している人の身体を見るのは罪悪感が尋常なものではない・・・!!
必死に目を逸らすが、どうかしましたかと俺の視界に映り込んでくるメイドさん。
人間でまだ20歳程度の年齢のため、精神年齢はほぼ同い年(物覚え後から換算)の男の俺にとってはもろ、その・・・対象になりうる存在だから!!とにかくいけないのだ、色々と。
だからいつもは人のいない時間帯を狙って水浴びを済ませてしまうのだが。
(パパっと済ませて早く上がろう・・・!)
「よければ、お背中流しましょうか?」
「ブッ!!、け、結構ですっっ!!」
そうですかと少し寂しそうな顔をしてヘルカさんは館に戻っていった。
「ふぅ・・・危ない危ない。いや、別にこの身体じゃなにもできないしするつもりもないけど・・・」
この身体。俺が前世、とうとう生涯謁見する事のできなかったものだ。
改めるが、この世界に来てからもう7年という月日が経った。
7年という月日だけみるととても長い時間を既に過ごしてもうこの世界に染まっているように思うかもしれないが、物覚えの影響で実質の記憶は3年分だし、この3年間で外出した経験はほぼ無い。
箱入り娘って奴だ。
だから館の本や資料での文字や絵以外でこの世界の事をなにも知らないのだ。
一つ実際にこの目で見た物とすれば、この世界にも月があり、それは3つあるということ。
ただそれだけだ。
しかし本や資料からは色々学んでいる。
聖戦、種族、差別、魔術。
その他諸々をこの3年間、ひたすら頭に詰め込んできた。
魔術には属性が存在し、大きく火・土・風・水の四属性に分けられる。
これらは四大属性と呼ばれ、この世界の住人はこの言葉を聞くと火・土・風・水の四つを思い浮かべるだろう。さらに、属性を混合させ、その割合、強度によって魔術は新たな属性を獲得する。
例えば火と土を1対2で混ぜると焼け石ができたり土の性質を鉄にしたり出来るような。
属性を全て扱うのは至難の業だが、不可能というほどでもないらしい。
しかし、戦場では全ての属性を低水準に扱えるよりも、より絞ってパラメータを突出させた方が戦力として扱われやすい。全属性を扱うとなるとどうしても苦手なものも出てくるし、得意な属性をより伸ばした方が効率的というものだ。
ちなみに俺の得意属性は土<<風=火<水のような感じだ。
魔術はヴァンパイアの得意分野で、苦手な属性が少ないのが特徴だそうだ。
だけど、俺は土属性に関してのセンスがほぼ皆無でまともに扱う事すらできない。
具体的な体験でいうと1分ほどかかる長い詠唱の後、風魔術で補助をして漸く砂埃を起こせる程度。
土属性は四大属性の中で唯一の物理系だから、これが苦手(どころかほぼ無理)なのは正直かなり痛いと思う。
土の分野を補える属性が中々無いのだ。
そこで俺は、氷を伸ばすことにした。
ゲームやアニメとかではかなり初歩というか、基礎的な属性だったんだけど、いざやってみると尋常じゃなく難しい。特に水が凝固するまで冷却するのが難しいのだ。
最近練習しているのが、水と火を混ぜ水蒸気にし、それを風で低温化を進めそのまま凝固させた後に氷の粒を固めて形にする方法だ。
文字で見てもわかる難易度であろう。
複数属性の同時展開の難易度はかなり高く、この方法で氷を生成するにはほぼ同時に火・風・水の三属性を展開する事になるからその難易度も跳ね上がっていくのだ。
「ウォーターボール」
滝の下で水の玉を浮かべる。魔力で物質を生成する事もできるのだが、その場に対応する物質が豊富にある
ならそれを使えば楽だし魔力の温存にもなる。ここは魔術の練習にうってつけなのだ。深夜だし、今なら
思う存分特訓できるぞ・・・!
「ヒートフレア」
ゴポゴポと水が沸騰しだす。が、これではただの蒸発だ。氷にするにはもっと一気に・・・!
「ウォーターボール」「ファイアボール」
極少の水の玉と火の玉。今の俺の技術で出来うる限り小さくした。
これを一気にぶつけてみよう。
ボシュッ!!
爆発が起きる。極小にしたのは水蒸気爆発による事故を防ぐためだ、特に事故は起きていない。全て想定内の範囲の爆発だ。
しかしこれで、水球を霧のような状態までもっていくことが出来た。
もっと水魔術を上達していけばいずれはこの工程を飛ばして直接霧を生成することもできるようになるだろう。
そしてこの霧を冷却する。
「キャリング・ウィンド」
上空から冷たい風を保存しつつ霧に浴びせ、急速に冷却を進めると周囲の気温が急速に低下していき、やがて霧が再び水の粒に集まると同時に固体になっていく。
バシャバシャッ
「いよっし!!」
まだ実用には遠いものの、霙ほどの大きさの氷の塊が出来た。
持ってみるとちゃんと冷たい。
魔力で形成された虚構の物質だから、時間が経てば消えてしまうけど。
飲み物に入れるにはにはちょうどいいかも大きさだ。
「さて、風邪ひく前に寝るか―」
まだ夏だけど、さすがに素っ裸で長時間外にいるのは身体によくないだろう。
◇
「あら、イヴ、まだ寝てなかったの?おやすみなさい。」
「お母さま!これから水浴びですか?・・・はい、おやすみなさい!」
少し紙を濡らしたままスタタと小走りで駆けていく娘。
「心地のいい夜ね。真夏にしてはやけに涼しいわ。・・・ん?これ・・・氷・・・?」
周囲を見渡すが、近くに人気は無い。
それはそうだ、こんな夜更けに水浴びをするのは普段私以外にいない。
ヴァンパイアは睡眠時間が短いのだ。
「まだ、新しい・・・まさか、イヴが?」