第22話 準決勝
「ぐぁぁっ!!」
剣を持つ手の感覚が無い。
無呼吸運動のし過ぎだ。酸素が身体に回り切っていない。
「はぁっ・・・がっ!」
試験担当官、アドー。魔術と剣術の両方に長けた魔剣士。
しかし、彼は僕に対し全力を出していない。理由は簡単、出す必要が無いからだ。
「君がもし、ほんの少しでも魔力を扱えていたなら、きっとこの国を支える戦士になっていただろうに。・・・惜しいな。」
この男、先の数試合で完全に僕の長所短所すべての分析を済ませているらしい。
無属性魔術。アドーが幾度も重ね掛けしている「堅牢」の効果は、物理的な攻撃からの高い耐性を得ること。その上アドーは僕に合わせて自分が全て隠れる程の大盾と重い鎧を装備している。
何度攻撃しても、盾には少しの傷しか付いていないようだ。
一見非常に強力な魔術だが、致命的な弱点がある。
無属性魔術は四大属性とは違い、自然からの姿を借りない。
自然からの姿を借りるというのは何も見た目だけの問題ではなく、その性質、構成から何もかもを魔力を変質させることによって変えるのだ。つまり、四大属性は自然の姿を借りた時、それは単なる魔力ではなく自然の力そのものに変化しているということ。言い換えれば無属性魔術は単なる魔力の構成の違いによる副産物で様々な効果を得ているというわけだ。
それが何の弱点になるのかというと、同じく無属性魔術「解呪」によって簡単に打ち消せてしまうのだ。解呪は四大属性の魔術に行使する場合、その魔術の性質は勿論のこと、温度や密度、物質の構成まで全てを理解しないと解呪できない。途方もない知識、技術が必要なのだ。
無属性魔術は単なる魔力の構成であるため、言ってしまえば適当にその構成を真似るだけで解呪できてしまうのだ。
(だけど、僕にとってはこれ以上ない魔術だ・・・!)
解呪が前提となる無属性魔術。僕にはその解呪が出来ない。
こんな初歩的な魔術に・・・っ!
「これまでの数戦、君はどの試合も試合開始の合図とともに攻撃を仕掛けていたな。それは決して自信と油断の表れではなく、そうするしかなかったのだろう?相手が魔力が使えないという自分の圧倒的な弱点に気づいてしまう前に。」
そうアドーが煽ると、観客席から凄惨なブーイングが起こった。
「卑怯だぞ!」「有り得ない」「お前なんかが冒険者になれると思うな」
罵声が聞こえてくる。沢山の。
・・・もう、慣れたもんだ。
僕が家を出たのも、その罵声から逃げる為だったのかも、知れない。
どこへ逃げてもこの身体のせいで逃げ切れないのなら・・・この身体で立ち向かってやるさ。
「・・・アドー担当官。僕を知っているんだろう?」
「なんだ、手でも抜いてほしいのか?・・・それとも、敬語でもご所望で?」
イデオンを試すようにいうアドー。
「フッ・・・いえ、僕は志願者、貴方は担当官。立場が上なのは紛れもなくそちらです。」
イデオンがアドーに頭を下げ礼をすると、アドーは珍しいものを見たように微笑んで構え直す。
「口を慎んだらどうだ・・・試験中だぞ!!」
イデオンが手に持った剣を捨てる。
「・・・?」
「この剣、特別製なんだ。少しばかり普通の金属と比べて柔らかくて重い。」
「へぇ・・・そりゃ、高そうだ。」
地面が砂で出来ているせいでその重量の想像が出来ない。
その場で軽くイデオンがステップを刻むとその場から姿が消えたかと思うとアドーの目の前で再び現れた。
「なっ・・・!?移動魔術だと!?どうしていきなり・・・!?あの剣に魔力を保管していたのか!?」
盾を構えてイデオンからの打撃への耐性を極限まで高める。
「担当官、筋力トレーニングを怠っていませんか!?」
イデオンがとった行動は、まさかの盾をアドーから無理やり奪い取るという戦法だった。
「んなっ・・・!?こんの、バカ力め・・・っ!ぐあっ!」
盾をアドーから剝ぎ取ると今度はアドーを背後から抱え込み、空高くへ跳んだ。
「うおっ、これは・・・雪?ははっ、さてはイヴの仕業だな・・・!なんという規模で・・・!担当官、見てください!これ、雪ですよ!」
返事が無いのでアドーの顔を見ると、既に白目をひん剥いて事切れていた。
速度と気圧の変化に精神が耐えきれなかったようだ。
「・・・ありがとうございました!」
空から会場に着地というよりも着弾というほうが正しい様な速度で戻る二人。
辺りには砂が爆散し、暫くしてようやく観客席から二人の様子が見えた。
「こ、これは・・・!」
「な、なんと・・・アドー担当官の圧倒的優勢から一転、突然のイデオンの大勝利ぃぃーーー!!尚、相手は既に棄権をしているため、決勝戦は繰り下げ、現在の試合が決勝戦となります!なので今大会の優勝者は志願者イデオンで決定しましたぁぁ!!!」
「何?なんだ、もう終わりか。」
決勝戦が無くなり少し残念そうなイデオン。衣服は砂まみれで汚れていた。
「皆様、この勇猛果敢な若者に盛大な拍手を〜っ!!」
「・・・強くなりましたね、王子。」
アドー・ヴィクトラン。
別国の王の家臣の一人。




