第19話 神は一物は与えた
「よし...ここで挽回する。」
イデオンがウォーミングアップを始めた。
「各自、準備運動をしながら聞いてください!今回体力測定試験を担当します、アカイアです!それでは早速手短に内容、注意事項をご説明させて頂きます!...まず内容についてですが、主に筋力、持久力を測定させていただくものとなります!内容は至って簡単、時間内にこの様々な大きさの鉄塊を出来るだけ多くあちらの目標地点まで運んで頂くだけです!注意事項としては、魔術及び魔法類の、魔力を使用しない事です!鉄球には魔力を感知する機能が付いていますので、バレちゃいますよー!それではー・・・スタート!」
「うおおおお!!」
・・・もう慣れて来たけど。
さて、どう運ぶか?
ゴルフボール程度の大きさの鉄球から、直径2m程はありそうな大玉まで多く用意されている。
この一番でかいやつなんか、一体何トンあるんだ・・・?
「よっ。」
俺がドン引きして鉄球を見ているとその鉄球が浮かんだ。
「・・・あ、これ使うか?」
浮かんだのではなく持ち上げられていたのだ。イデオンに。
「あ・・・いや、大丈夫です・・・」
「そうか、それじゃこれは貰うぞ。」
すると大きな鉄球を持ったまま目標地点まで走り出す。
足を踏み出す度にズンと音が鳴って、土の地面にまるで泥を踏んだみたいにくっきりと足跡が凹んでいた。
・・・魔力が無いって言っていたけど、あんな力があるなら確かに無くても余裕で冒険者としてやっていけそうだな・・・
さて、あの怪力ボンボンは置いといて、自分の事を優先しなければ。
周りを見ると、転がして大きめの鉄球を運んでいる者、小さめの鉄球を袋に詰めて走っている者などがいた。
担当官はできるだけ多くの数を運ぶと説明していたが、大小それぞれ用意されている事、この試験の目的などを考えると、時間内に運びきった総数、というよりも総重量に重きを置いたほうが良さそうだ。
この試験、間違いなく一位はイデオンだろうな・・・イデオンと同じ鉄球を仲間内の数人で運んでいた人たちが呆然と走り去っていくイデオンを見て運んでいた鉄球をコース外へと転がり落としてしまった。
実際賢い手段だろう。あれを何度も繰り返し、分配していくつもりだろうな。
つまり最も効率がいいのは、1度にできるだけ重く、かつ何度も往復できる方法だ。
幸い、俺は魔術の訓練だけでなく同じぐらい身体に物理的な鍛錬もしてきた。
リヴィアナの下でな。
「ほっ」
会場に用意されたバッグに重すぎない程度に鉄球を詰め、走り出す。
単純だが、結局これが魔力の使えない今最も効率的だろう。
「早っ!――」
なんだかまた同じ集団が後ろで鉄球を転がり落としたような音がしたが、気にしている余裕は無い。
「第3位、総得点64、志願者イヴーー!!」
ハァ・・・!これはいいトレーニングになるな・・・!!
重りを持ったまま全力疾走を何往復もするのは、尋常ではない消費カロリーだ。
膝に手を付きながら、片腕を上げて称賛を受ける。
「可愛いぞー!!」
・・・なにか観衆の中に変な声がちらほら聞こえる。
しかし・・・3位か、せめてイデオンの次ぐらいに並びたかったな!
「第2位、総得点67、志願者カシェー!!」
「うぃー」
第2位のカシェという名の男性は、俺と違って全く息切れを起こしていない。体型はかなり痩せ型で、ピアスや入れ墨など、体中装飾まみれだ。
「いい加減出ていけー!!」
俺のときの打って変わり、ブーイングだらけだった。しかしそのブーイングを受けカシェはニヤついている。
有名な人なんだろうか?
「そしてー、映えある第1位!、総得点脅威の238、志願者イデオーーンッ!!」
「うおおおおお!!」
2、238・・・?
俺の約4倍じゃないか。こいつ、魔術ありの俺より強いんじゃ・・・。
喜ぶ素振りを見せること無く、深く礼をするイデオン。しかしその顔は明らかに達成感に満ち満ちているようだった。
「イヴ、君は魔術だけでなく身体能力も長けているのか!凄い努力と才能だ!」
「いやそれお前が言うか・・・?」
体力測定試験が無事両者良い結果に終わり、お互いホッとしている。
イデオンは魔力測定試験で実質0点だったから、こっちでその結果もカバーできる程の結果を残せて俺としても良かった。
「さて、最後は技能試験だな。どうやら技能試験はトーナメント形式の対人戦か、自身の腕前を個人での発表の2つで選べるらしいぞ。俺は映える技を特に持っていないし、折角だから対人戦に行こうと思う。君はどうするんだ?」
うーん・・・個人発表のハードルは正直言ってかなり高いだろう。多くの者が対人戦を選ぶはずだ。しかし、対人戦を選べば間違いなくイデオンと当たることになる・・・こいつ、魔力がまったくもって外に漏れ出していないから正直敵には回したくなさすぎる。俺以外の奴らはこいつの魔力が感じられないのを人混みの中だからだと思っているかもしれないが、俺だけはそれを知っているのだ。
通常どんな生物も意識せずとも極少量の魔力が常に体外に漏れ続けている。戦闘時にはその相手の魔力を常に探りながら次の動きを予測しながら立ち回るのが定石なのだ。
しかし、イデオンにはそれが通用しないだけでなく、単純な化け物じみた身体能力からこいつとの戦闘には相当苦労するはずだ。正に初見殺し。それこそがイデオンの強みだろう。
「うーん・・・俺は個人にしようかな。お前が敵になるって考えると・・・ゾッとする」
「ふむ、残念だ。しかしそれはこちらにとっても同じことだ。正直僕も君に勝てるか分からない。実力を知っているからな。この方がお互いのためになるだろう。それじゃ、試験が終わったらまた落ち合おう!健闘を祈る!」
「おう、そっちも頑張って優勝しろよー!」
俺とイデオンは対人トーナメント、個人技披露に分かれて技能試験を受けることになった。




