第2話 不幸中の最幸
暗転。すると直ぐに明転。
時が経った感覚はない。だが、何か違和感を覚えた。
見慣れぬ天井はない。落ち着いて聞いてと言う医者もいない。というか誰もいない。天井どころか空も見えない。
真っ白な空間だった。得体のしれない不安から逃れようと、自分の手を見ようとすると手が動かなかった。視点も動いているのかいないのか、判断する材料がないためになにもわからなかった。
すると、
「おめでとうございます。貴方は五百年に一度の不運な死に方をしました。」
うおっ!?なんだいきなり?不運だって?
・・・俺、やっぱり死んだのか。ということはこれが所謂天国ってやつか?
「いいえ~ここは天国ではありません、審判の間、その中の別室、VIPルームのようなものです~。良ければ他の方の様子をご覧になりますか~?」
ここまで落ち着いている俺に驚くが・・・心臓がないからだろうか?なんて。
「頼む」
声出るんだ・・・。
「どうぞ~」
何もなかった空間に穴が開き、外の様子を映した。
とんでもない長さで並んだ人々の列の最前に置かれた玉に何か話した後、右と左に設置された門をくぐっていく。ほとんどの人が右の門の方へ滞りなく進んでいくのに対し、時折左の門に進む人は何やら暴れ出したり、止まってたじろいでいるのが見える。おそらくは右が天国、左が地獄に続いているんだろう。
なんだかグロテスクなこの世(あの世か?)の真理を知ってしまったような気がして、少し気が引けた。
「・・・もういいや、ありがとう」
「はい~」
シュンと閉じ、再び何も見えなくなった。
「あー、質問いい?」
少し間が空いた後に返された。
「どうぞ~」
「よし・・・えー、俺は死んだってことで間違いないの?生き返ることはできない?」
「できません~。現世の貴方の肉体は既に朽ち果てていますので~貴方だけ実体がないのもその為です~。」
朽ち果てている?どういうことだ?
「これは次に貴方が質問される予定の、・不運な死に方について に干渉しますが、大丈夫ですか~?」
・・・お前、思考読んでるのか。
「思考、というより、貴方には今脳は存在しないため、代わりに情報処理システムをこちらで用意していますので、我々には音で聞こえていますよ~」
なんだそれっ。恥ずかしくなってきたぞ。
・・・教えてくれ。
「はい~貴方の死をこれから説明致します~」
死って、洗剤飲んだからじゃないの?思ってたけど地球規模で見たら事故で洗剤飲んで死ぬ不運なんてまだまだだろう?
もっと大変な人ぐらい沢山いるんじゃないのか?
「まず貴方は最強炭酸ミントジュースを近くに置いてあった最強消毒エンドデュースと取り違え、人体としては危険な程の刺激を感じながらも最強炭酸、およびミントのせいだと勘違いしたまま数口飲み込み、体調の悪化を訴えフラフラと項垂れた先に飛び込み防止壁は無く列車が到着、緊急停止間に合わず衝突し、四肢を断裂、胴と頭を切り離されます。ここで既に死亡は決定していたのですが、そこに先日からの悪天候からの落雷。これは貴方の飛び散った四肢、頭、胴体に見事命中し、一瞬で灰と化しました。」
・・・なんだよ、そのこの世の不幸全部重なったみたいな!!もうこれ洗剤飲んでなくても家まで生きて帰れてないだろ!!
「はい~貴方の運勢は、例えば神社のお御籤を引いていたら、当たり前に存在しないはずのレベルの凶を生み出してしまう程でした~、極絶大凶、とかですかね~?」
なんだそれ!?モ〇ハンかよ!!
「簡単に言えば有り得ないってことですよ。読んで字のごとく、この世にあってはならない事が起きたのです。」
クッソ、なんか笑えてきたぜ。VIPってのは?
「特典の一部です~。特典の内容ですが、貴方の次の生におけるアドバンテージを自分で選択していただくことができます~。因みに、次の生は地球ですが、物理法則が異なっている全く別の世界です~。」
・・・よし、よし・・・!!これ、やっぱり・・・!!
「はい、貴方の予想、期待されている異世界です~・・・そうできるかは貴方次第ですが~」
よっしゃあああああああ!!俺の人生における唯一、しかし絶対に叶うはずのなかった夢!!なんか不穏な事言っているような気がしたけど、気にしなーい気にしなーい!
異世界転生が達成できるなんて!!ああ、夢みたいだ、嫌夢じゃないよな?これ?・・・
「早く!!早く転生させてくれ!!」
「安心してください~、先に特典を決めていただきます~、願いを聞きましょう、さあ。」
おお・・・!!これは・・・いわゆるギフトってやつか?
どこまで、何個叶えてもらえんだ?これ?
「・・・」
なんかもう答えてくれなそうだ。
考えろ・・・次の一生を気楽に有意義に刺激的に、思い描いた一生を生き抜くために!!
えっと・・・
「めっちゃ強くてめっちゃモテたい!!!」
・・・男の欲望丸出しだって?良いだろ!!今世が無理なら来世に期待ってやつが全部叶えられるチャンスだってのに!
「願いを承認しました~。これより願いに沿った身体の構築、のち転生を行います。激痛を伴うため、一時的に精神を遮断します~」
おお!!ついに・・・!!これで目が覚めたらいつもの天井だったら・・・いや、それでもいいだろ。そのぐらいのスタンスで行かないと、うん。
「それでは、よき異世界ライフを~」