第13話 巣立ち
1章完結です!
「この家から出ていきなさい。」
15年。
前世から合わせれば精神年齢はもう30を超えているのか。おっさんだ。
だけど、大人になっても心はそこまで変わらないのか、それとも1度子供からやり直しているせいで精神的に成長していないのか。この世界に転生する前から心内が変化している実感はない。
ただ、とてもとても時の流れが早く感じる。
前世じゃ一日一日が長くて長くて仕様がなかったのにな。
「...はい。」
意図は理解している。
この世界での成人は15。貴族だろうが平民だろうが、成人になったら家を出て旅に出るのが一般的だ。
母の表情はとても穏やかで、それでいて威厳を感じた。
この15年間、ずっと旅に出て色々なものを見たり、誰かと出会うのを夢見てきた。
その筈なのに、ずっと自分から旅に出る事を言い出せずに今に至る。
嬉しい筈なのにどうしてか、どうしても。
今までの生活を思い出して涙が出てしまった。
今日旅に出す事を決めた訳では無いのだろう。
ヤクとの稽古は、俺が外の世界で生きていけるだけの力を蓄えるためで、毎日毎日、俺は試験を受けていたんだ。
それに今日合格したって訳だ。
一瞬、手を抜いておけば良かったという邪な気持ちが脳裏に浮かぶが弾き出すように、押し殺すように頬をパンと両の手で叩いた。
「ありがとうございましたっ!!」
深く礼をする。ヤクとの模擬戦で毎日行ってきた物。
「荷物は明日までに用意させておくわ。今日は挨拶に行ってきなさい。」
「はい!」
一礼し、部屋を出る。
「...お前が?怪我をしたら帰ってこい、お前に傷を負わせた者を呪った後、お前を馬鹿にしてやろう。...行ってこい。」
呪術師、デブラ父様。部屋も最奥だし、なんだか雰囲気が怖くてあまり話すことが無かったけど。俺を大切にしてくれている事だけは知っていた。
「ああ、もうそんな時期かぁ...!時の流れは早いね。2人とも家出をしたのが懐かしいや。こんなに大きくなって...うう、やっぱり寂しいなぁ...!頑張ってね。ずーっと応援してるよ!あ、すぐ帰ってきても良いからね!なんなら僕も一緒に...って、それじゃ意味ないか。」
岩の民、ドンカイン父様。
外見とのギャップだけなら世界一だ。
触れるだけで人を傷つけられるけど、触れずに人を守れる、優しい人だ。
「ゴホッ、そうですか...!おめでとうございます。私は特に何も出来ずに、父として不甲斐ない...我が娘ながら、私は貴女を尊敬しています。貴女ならきっと良い仲間に出会えるでしょう...行ってらっしゃぶほぉっ」
...土魔術師、エトバール父様。
病弱で大体ベッドで寝込んでいるからデブラ父様ぐらい姿を見る事が少なかったが、偶に話せたらその日はラッキーな気分だった。よく頭を撫でてくれる。やせ細った掌だけど、いつもとても温かい。
「ああ、知っている。旅に出ていくのだろう?今朝神からお告げがあった。娘の新たなる門出を祝福せよ、とな。多くは言うまい。神の御加護を。」
聖職者、ヨアヒム父様。
最年長で、一見堅苦しい考えをもっていそうな彼だが、実は誰よりもユーモアを持ち合わせている。
良く笑わせてもらったものだ。
「おー。そうかいそうかい、イヴがもう15歳ねぇ...ま、頑張りたまえよ、お前ならヨユーでやって行けるだろ?ったく、俺より水魔術の数多くなりやがって、俺の顔がたたねーっての。ほら、行った行った!へへ」
水魔術師、ブラス父様。
俺の水魔術の師であり、父というより友人と言った方がいい程関係の濃い方だ。
父の中で最も歳が近くて、俺が生まれた時彼は17歳だった。
精神年齢でいえば同期なのだ、そりゃ親近感も湧くか。
もう1人の父、アイマーは現在他国に訪れている為ずっと会っていない。
旅の最中、また会えるかも知れないな。
「挨拶は終わったようね。」
家中走り回っている間に、もう夜になってしまった。
「さて、」
カポーン
「どうしてこうなった...!」
感動的な別れ、それで終わりの筈だった...!
いつの間にか服を脱がされ、浴場に連れられ、親子で風呂に入ることになっていた。
「親子水入らず、って言うでしょっ?」
「いや、そうだけど...!」
未だに女性の身体には耐性がない。
流石に興奮なんかしないけど、恥ずかしくてしょうが無い。
「ていうか、母様お湯苦手なんじゃ...」
そっ、と足の指先から湯船に浸かっていくリヴィアナ。
「んっ...ぁっ、ぁあっ!!」
「ダァっ!!!」
行けない気がした。
超高齢の婆さんが風呂に入っているだけなのに、行けない気がした。なにが?...さあ。
「わぁ、ビックリしたわね。どうしたの?」
「...なんでもないです...!」
プイと顔を背けるイヴ。
その意図は決して怒っている訳ではなく、目のやり場が浴場の隅にしか無かっただけである。
「んもー、やぁね。今はバレンタイン家の当主じゃなくて、唯のお母さんよ?最後なんだから、仲良くしましょう?」
そう言って浴槽の隅に隠れるように小さく屈んでそっぽを見るイヴの身体を抱き寄せ耳元で囁くリヴィアナ。
「ひゃあっ!?わ、わかったから、やめろっ!!」
「あら、驚き方は中々可愛らしいじゃない。」
こ、この女、とんでもねぇ...!!
「最後にイヴちゃんの事、目一杯可愛がって上げようと思ってね♡女を叩き込んであげるわよ〜っ!」
「ぎぃやぁぁぁぁっ!!」
「よし...」
靴紐を結び、荷物がいっぱいに詰まった魔法鞄を抱えてドアの取っ手を押す。
「行ってきます!」
「「行ってらっしゃーい!!」」
数人のメイド、数人の父、1人の母に見送られ、俺は旅に出る。




