第12話 子供からの卒業
「喰らえ、氷竜巻!!」
「むっ」
ヤクを中心に氷の礫を纏わせた竜巻が発現する。
竜巻の中心部分の空気が徐々に凍結を始め、氷点下に達している事を証明する。
「からの〜っ、水砲ッ!!」
大きく貯めた水球ごと氷の竜巻に向け正面からぶつける。
速度こそやや水弾には劣るものの、単純な質量×速度からその破壊力は並の大砲どころでは無い。
ドゴオオン!!
水砲は竜巻を霧散させ、丁度後ろにあった人型の練習台を貫通、塀に人3人は余裕で通れそうな大穴を開けた。
「やったか...!?」
開ける視界に目標を探すも見当たらない。
こういう時は大体...
「やったか...?じゃないわい。わしら殺し合いをしとる訳で無いぞ。」
後頭部を弾力性のある鉄杖で小突かれる。
ヤクの戦闘スタイルに最適化された武器だ。
「あでっ。んもー、まぁた逃げられちまったよ。」
「ほっほっ。竜巻が閉じ切る前に杖を蹴って跳び越えたのじゃ。今頃木の棒を使っとったら死んでおったわ...ぬしこそ毎日の様に新たな魔法を生み出しおって。いずれわしの見たことの無い魔法を使い出さんか心配じゃわい。」
「蹴ってって...どうやって手に取ったって言うんだ、流石に慣性がおかしいだろ?」
「足に紐を付けておるからの♪」
まるで少女がスカートをたくし上げるかのような仕草で左足に括り付けた紐を見せるヤク。
90近い爺さんがキャピキャピしすぎだろ...
攻めて腕とかじゃなく、足と棒を結んでるのもヤクらしい...。
「ふむ・・・もう、良さそうじゃの。」
「ん?今なんか言った?」
「んーや?言っとらん。」
「・・・そっ!」
地面に倒れた身体を跳ね起き、お互いに模擬戦後の礼をする。
12歳の時にヤクが師範になってからというもの、殆ど毎日を森に出ての魔獣討伐か模擬戦に充ててきた。
母とヤクが言うには俺はその時点でもう基礎はほぼ完璧にできており、必要なのは経験値だったそう。
それから3年経ち、15歳となった今は中級魔獣の単独撃破程度ならば難なくこなせる様になった。
ここまで来ても未だに、土属性魔術の上達は一切見込みが無いけど・・・
「イヴ、リヴィアナ様から話があるそうじゃ、行ってこい。」
「え?話って、母様は昼まで魔王軍の師範に行っていたからヤク爺会ってないだろ?」
「えーから。」
話ってなんだ・・・?
薄ら不気味に思いつつ、母の書斎を訪れる。
「入っていいわ」
「失礼します。・・・ヤク師範から、母上が話があると聞いてきたのですが。」
「あら、もうそんな時期かしらね・・・貴女ももう大きくなったモノね。・・・色々と」
ジロッとイヴの身体を見つめるリヴィアナ。
第二次性徴を迎え、みるみる女性らしく、流石にリヴィアナに似て成長している。
白い髪は首元で切り揃えられ、白く透き通る肌、真紅の瞳と青い瞳が美しく混同した赤紫色の瞳。少し赤が勝っている所がリヴィアナというヴァンパイアの血の濃さを証明している。
身長は190近い自分より低い。大体160後半程度だろうか?
娘は女性として成熟しつつある。・・・一人称はもうあきらめたケド。
そして戦地での生存能力、いわば戦闘能力についてだけれど・・・
これに関しては正直、戦姫と言われた自分ですら目を見張る物がある。
ヴァンパイアは魔術を得意とする種族だ。そう聞くとまるで身体能力はそこまで高くないように思うだろうが実際はそうではなく、魔術も得意とする種族である。自分で言うのも難だが、自分がその最たる例だと自負している。
私は魔術が苦手だ。
そのせいで小さい頃は良く父母に叱られたり、兄弟に馬鹿にされることもあった。
だけど、魔法が使えないと私を下に見ていた彼らは既に死んだ。
他者が魔術と武術を並行して鍛錬する間、私は武術のみを鍛錬してきた。物理的にほぼ倍の時間を費やしてきたのだ。
努力ならば負けることは無かった。
倍どころか、数倍、数十倍自分に肩を並べていた彼らより努力していたつもりだった。
娘には才能を感じていた。否、才能ともまた違うような何かを昔から感じている。
その正体には今はまだ気付かないふりをしていよう。
兎に角、彼女には天賦の才がある。
これは単なる親バカとかそういうものでは無い。
...と思う。
魔術も得意、とは言ったが、彼女を見ているとやはりパラメータで言えば魔術の方が秀でているのを思い知らされる。
数年前までは正直、自分と同じように武の道に進んで欲しいと心のどこかで思っていた。
単純に、彼女は魔術が好きらしい。
好きには勝てない。
物覚えの前から彼女は魔力を身体から放出していた。
もう、潜在的な物なんだろう。
今となっては純粋に応援できる、諦めたとかそういうのでは無い。直向きに努力する娘を、ただ応援したいのだ。
「な、なんですか...話って?」
無意識に身体を覆うイヴ。
「イヴ、単刀直入に言うわ。この家を出ていきなさい。」




