閑話 ドキドキ魔法大浴場造り
「ありがとうございました!!」
稽古が終わった。
日々棒術の上達を感じられるが、その度にこの爺さんの底なしの強さに心が折れそうになる。
追いついたってあくまでメインは魔術を使うつもりなんだけど、どうしてもいざやってみるとムキになってしまう。前世じゃこんなこと知る機会が無かったけれど、俺は相当な負けず嫌いらしい。
そういえば、最近俺の要望で滝で水浴びから風呂を作る事にしたのだ。
ここ十数年ずっと水浴びで、生まれてから数年は前世とのギャップにワクワクして良くて、それから今までずっと水浴びが当たり前になってしまって風呂の事を忘れていた。
思い出した途端に冷たい水に耐えられなくなってしまったのだ。
あの暖かい湯に使って日々の疲れを癒す瞬間、やっぱり大事だと思う。
ちなみにこの世界に風呂が無いわけではなく、人間の家庭には普通に風呂があるらしい。
一度風呂に入るためだけに城下町の人達の家にお邪魔しようかと思ったのだが、一応俺は令嬢らしいので流石に諦めた。
ヴァンパイアは体温調節能力がとても高く、たとえ真冬に水浴びをしたとて風邪をひくことは無いので風呂はあっても無くても良いそうだ。
因みに男性側には既に風呂が常備されているらしい。理由は単純で、人間が多いからである。
わざわざ作る必要もないからと俺も入ろうとしたが、年頃の娘がそんな事はしてはいけないと母と父達に断固拒否されてしまった。
後から考えてみると我ながらとんでもない事を言っていたと反省中である・・・。
最初母に風呂を作りたいといった時には「えぇ・・・」と言われたので驚いたが、母はどうやら暖かい水という矛盾が苦手らしい。
まあ百何十年冷水を浴びて体を清めてきた母からすれば、そういう意見にもなるのだろう。
だから、俺は俺の魔術で俺のためだけに風呂を作ることにした。
「ほ、ほんとに入っても良いんですか・・・?リヴィアナの許可は貰っているんですよね・・・?」
今回は第四番目の父親である、土魔術師・エトバールにお世話になる。
母の夫たちにはとある共通点があるのだが、彼もまた例外ではなく。
「じゃ、取り敢えずこのままじゃ狭いから、もうちょっと拡げるね。土陣」
半径100m程に魔方陣を発現させ、滝壺の横から登れるように地形を変えて岩壁に沿った階段を作り出す。
「こんなもんかな」
階段の一番上から、壁に手を添えたと思うとそこからさらに魔方陣を拡張、洞穴を作った。
「うおおお!!流石エトバール父様!!魔方陣の展開の柔軟さが凄いです!」
「あ、そうかな・・・?えへへ。ありがとう・・・」
所謂天才、奇才、秀才しかいないのだ。
その中でエトバール父様は断トツの天才肌。
特に魔方陣に対する脳の柔軟さのパラメータが飛びぬけており、普通の人が2時間かけて描く規模の魔方陣を父は短略化した独自の魔術式で一瞬で発現させることができる。
そのお陰で普通平面を媒体に描くことで発現させる魔方陣を、エトバールは縦横無尽どこにでも即時に発現させることができるのだ。
聞いただけでもわかるだろう。やばさ。
だけどエトバールは生まれつき身体が弱く、しょっちゅう風邪を引いて寝込んでいる。
俺と他愛もない話をしながら父はスルスルと洞穴の中を土魔術で改築していき、10分もせずに大浴場の原型を作り上げてそそくさと出て行ってしまった。
工事をするから男性を入れると予め女性陣には伝えているから大丈夫なのに、どうにも落ち着かないらしい。そんな生真面目なところが父として尊敬もできるけどねっ。
「よーし!それじゃいっちょ頑張りますかな。」
お湯を作るのはそこまで難しくない。水と火の複合魔術で生んだ熱水を浴槽に張れば良いだけだからな。
しかし、それじゃ一回は良くてもすぐに冷めちまう。
毎回毎回この大きな浴槽に魔法で湯を張っていちゃ当初の目的である疲労回復に矛盾する。
それで今回行うのが、魔術の固定、自動化である。
簡単に言えば、消えない魔術を配置するってことだ。
その方法だが、魔術を道具にかける事で作成することが出来る。
「付加魔術」
壺に熱水球を掛ける。
じわぁっと光って、壺に特徴的な模様が刻まれた。
因みにエンチャントが掛けられた道具は巷では魔道具などと呼ばれており、非常に高値で売買されている。その値打ちはより高度な魔術であればそれに比例して値段が吊り上がっていく。
エンチャントは誰にでも行えるものではなく、才能のあるもので漸く低級魔術を掛けられる程度らしい。
つまりは高度な魔術を掛けられる者はとんでもない奴だって事だ。
まあ俺にそんな才能は無いので、簡単な魔術だ。
ま、風呂を作りたいだけだし。
発動条件としては二回ノックの後、魔力を壺に込めることにした。
込める量はあくまでも極少量で十分だ。
後はこの壺を浴槽の中に放り込んで、お湯が溜まるまで放置!
20分ほど経ってもう1度見に行くと、真っ白に霧がかった浴場、丁度いい感じに湯が張られていた。
そうそう。この湯気だよ!!
誰もいないけど、前世のマナーから先に身体は洗い流してきた。
わくわく・・・!
マナー違反だけど、やっぱり我慢できない!!
大浴場に飛び込みにいく。子供の頃に戻った気分だが、実際身体は人間なら思春期の子供だから許されるだろ!
とうっ。
バシャン!
「おおっ!あったk・・・どあ゛っ゛ぢい゛っ!!!」
熱いものに触れて身体が反応するのは脊髄反射らしいが、それすらも遅れる程に湯を楽しみにしていたらしい。
バンっと扉を開け、そのまま下の滝壺へと落下する。
バシャアンッ!!
「湯加減、忘れてた・・・」




