第11話 師匠
「魔眼、簡単には手に入れられなさそうですね。」
俺の担当のメイドさんと話していた。
突然突き落とされてこのまま死ぬかと思ったこと、初めて生き物を殺して暫くグロッキーだった事。
ボスを倒したとき、正直罪悪感よりも達成感が勝っていた事。
「うーん。少しでも何か得られるかと思ったんだけど、特に何も感じないね。」
眼をぐいと指でこじ開けて魔力を流すが、特に何も起きる気配は無い。
リヴィアナが言うには魔眼は簡単に宿るものではないそうだから、気長にその時を待つとしよう。
今の課題は魔物狩りに慣れる事だな。メンタルは勿論のことだが、今のままではとても効率や安全性に乏しい。最後の一撃だってもしもリヴィアナがあの場にいなくて外していたら、あのゴブリンが水に対する高い耐性を持っていたとしたら俺は死んでいただろう。
ペシャンコである。
そう考えるとぞっとするが、まあ今回は勝てたことだし良しとしよう。
実戦じゃあのように賭けに出るしかない状況に陥る事はあるかもしれないが、それでも出来る限り命を賭けなければいけない場面を減らす事なら出来るはずだ。
「イヴ、玄関まで来てくれる?」
ドアの向こうから母の声。
「わかりました、すぐに行きます!」
また後で話そうと言って各々仕事に戻る。
「紹介するわ。こちら今日から棒術の師範になっていただく、ヤク・ヘントさんよ。」
「こんにちは!よろしくお願い・・・って!」
「どうかしたかしら?」
「ああ、よろしくの。お嬢さん。」
5年前の家出の時、花屋のお使いで花を届けに行ったあのお爺さんだ。
というか、あの事は母が兵基地に訓練の教育に出かけていたからバレていないはずである・・・。たまたまか?というか失礼にも程があるけど、こんな腰の曲がった老人が武術を教えられるのか・・・?
「私は用があるから、早速稽古をつけてもらいなさい。それじゃあね!」
そういうと母はヤクというそのお爺さんに挨拶をして、そのまま玄関から外に出かけて行った。
「さて、まずは何から始めようか?・・・実戦経験はあるかね?」
「え、っとつい3日程前に初めてです。でも殆ど魔術しか使っていなくて、槍を使う機会は殆どありませんでした。」
「ふむ。それで良い。じゃがこれを槍として扱いはせず、あくまで棒として扱う事にしよう。刃はおまけだと思うのじゃ。」
「どうしてですか?」
「魔術の特長は中、遠距離じゃが槍の特長もまた中距離。武器の最大の利点を活かすにはそれを活かすべきだ。棒術ならば接近、近にも対応しうるだけのポテンシャルを持っておるからの。じゃからわしが雇われたのだ。・・・来てみぃ。」
そこらへんに落ちていた木の棒を拾って構えるヤク。
来てみぃ、って、模擬戦ってことか?
「すみません、武具を用意させます!少々お待ちくださ・・・」
まだ棒を持ってきていなかったので一度もってこようと後ろを向いた瞬間、背後からの殺気に思わず伏せてしまった。
「・・・お主は実戦でそれを使うんじゃろう?その武器に慣れないでどうする?ほれ、かかってこい。」
今の一瞬で全て察した。
この爺さんも只者じゃない・・・。
「案ずるな、お嬢さんのか細い腕じゃ儂の喉元なんて届かんよ♪ふぉっふぉっ。」
なんだこの爺さん・・・。
くっっっそ腹立つっ!!!!
「おぬしの全身全霊で来い。叩き潰しちゃる。」
全身全霊・・・って、魔術込みって話か!?
「・・・わかりました、寿命にはまだ余裕があるんですよねっ!?」
・・・流石に言い過ぎかっ。母の用意したこの老人を信じる事にしよう。
死んでくれるなよ・・・?
「大水球」
前回の戦闘で学んだが、機動力を求める戦闘方法での水の貯蓄には小さめの水球、その場から移動する可能性の薄い戦闘では大きな水球で火力を求めるのが良い。
水球から水を増やすより、元々大きな水球を作った方が効率が良いのだ。
ただその代わり大きすぎると俺の魔力がまだ脆弱なせいで操作が出来なくなる。
「氷槍っ!!」
圧縮した水を凍らせ、硬度と威力を底上げさせた。
そして風魔術で射出させる。
ドシュゥッ!
相当な威力のこの槍、恐らく直撃すれば大岩でさえも破壊しうるかも知れない。
「ふむ」
ヤクは徐に棒を地面に水平に持ったかと思うと、氷の槍を避ける事無く正面から迎える。
辺りは爆散した氷で一瞬真っ白になる。
「ゲッ・・・し、死んだ・・・?」
「勝手に殺すでない」
背後から老人の声。すぐに後ろを振り返り杖槍を振るも、柄を握られて止められ、首元に棒を当てられてしまった。
「ほい♪儂の勝ち。」
「ハァッ、ハァッ・・・!い、今の!何が起きて・・・!?」
「?魔術の事か?それなら、ただ棒の側面で受け流しただけじゃよ。いい魔術じゃ、見ろ。木の棒がオシャカになってしもうたわ。」
俺の魔法を受け流した事によって途中からまるで刃かのように鋭くなった木の棒を俺の首に向けながら言う。
「あの・・・一回それ向けるのやめて貰っても・・・よろしいでしょうか・・・。」




