かき氷の味
結城有紗は、外見だけ綺麗にしておけば何とかなると思っていた。今はそこそこ大きな企業で秘書をやっているが、自分の顔を見ても、周りの顔を見ても顔採用だと察した。
有紗は別に良い大学に行ったわけでも無いし、業務内容も先輩の支持に従っているだけ。それでも給料はいい。やはり、人間は顔。そう思う。
そんな折、珍しく彼氏が途絶えていた。なぜか周りの男は体調不良者が続出し、彼女作る状態でもない雰囲気だった。夏で熱中症みたいのになっているのかも知れないが。
仕方がないのでマッチングアプリを使い、男と会う事にした。ちょっと童貞っぽい大人しそうな男だったが、たまには珍味も良いだろう。
美味しく童貞くんも頂こうと思い、指定されたカフェへ向かった。スイーツが美味しいカフェらしく、さっそくメロン味のかき氷を頼む。今日は暑いので冷たいものが良いだろう。
そういえばかき氷のシロップってみんな同じ味。メロンでもイチゴでもブルーハワイでも原材料は同じ。ただ着色料と香料が違うだけ。人は視覚や香りの情報を組み合わせて味覚を決定しているらしい。確かに汚部屋で高級ステーキを食べても美味しくは無いだろう。
そんな事を考えつつ、メロン味(風)のかき氷を食べる。
女だって見た目と香りさえ誤魔化せば人生イージーかもしれない。そう思いながら、目の前にいる地味な男に上目遣いをする。今日はマスカラもつけて、目元もキラキラさせてきた。さて、効果はあるか。
しかし、男はスルー。普通にイチゴ味のかき氷をシャクシャクと咀嚼していた。
「あんた、谷崎潤一郎は読むかい?」
「え、谷崎? だ、誰?」
全く知らなかった。男によると著名な文豪らしい。夏目漱石や太宰治は知っていたけど……。
その後、男から色々と文豪の話題が出たが、一つもわからない。古事記やギリシャ神話、聖書の話も出てきたが、全く会話について行けなかった。
だんだんとと恥ずかしくなってきた。確かにスマートフォンやAIで調べればすぐに答えが出てくるが、勉強不足を自覚してしまった。
全部同じ味だというかき氷のシロップ。その味み楽しむが、女は見た目と香りだけでは、誤魔化せない何かもある気がしてきた。
「もっと勉強しろ。日本人は一日に数分しか勉強しないらしい」
「うぅ」
「賢さは美しさにも繋がるんだぞ。いつか、容姿が衰えた時、賢さが救ってくれるはずだぞ」
男にそう言われて、何も反論できない。確かに今のまま老いたら、何も残らない気がした。
とりあえず、この夏からは少し勉強もしてみるか。男遊びもほどほどにしよう。
メロン味のかき氷を食べながら、未来への希望も感じ初めていた。この夏は忘れられない気がする。