引きこもりの屋台飯
どん!
音がした。
窓の外を見ると、夜空に綺麗な花火がある。どこから音楽も聞こえてきた。近所でお祭りをやっているらしい。
ぐー。
俺のお腹は、花火とは正反対の弱い音をあげる。お腹が減った。
大学を中退後、一年以上、子供部屋に引きこもり、ゲーム三昧の毎日を送っていた。ありがたい事に大学時代に稼いだバイト代を資産運用したり、SNSを収益化したりして、お金には困っていない。故にズルズルと一年以上引きこもっていた。
元々、人が嫌い。何かされた事はないが、地上の生き物で人間が一番邪悪に感じる。その証拠に戦争をしたり、殺人やいじめがあったりする。
そんな哲学的な事を考えていても腹は膨れない。両親も親戚の家に出かけてしまった。
俺は財布を持ち、お祭りに行くのを決めた。
俺のような人嫌いの引きこもりがお祭り。矛盾しているが、たこ焼きやお好み焼き、焼きとうもろこしなどの屋台料理が食べたくなってしまった。
家を出てお祭り会場に近づくと、もう人だかりができていた。夜だったが、屋台の灯りのおかげで昼間のような明るさも感じる。時々夜空には、花火が打ち上がっているせいかもしれないが。
友達、カップル、家族連れ。
お祭りの客は、どう見てカースト上位の人間ってしかいない。一人で歩いているものなんて俺ぐらいのもの。
少し惨めな気分になってくるが、カースト上位者が案外優しい。誰も俺のことなど気にせずスルーされてホッとしてくる。一番厄介なのはカースト底辺に落ちそうで落ちないタイプだ。この辺りが一番攻撃性が強く、SNSでも強がっている。カースト上位にもなれないから、下を見るしかないのだろう。
そうは言っても今は、そんな中途半端なものもいないようせ、カースト底辺な俺も自由気ままに屋台の飯をかう。
焼きそば、お好み焼き、たこ焼き。チョコバナナも買って食べ歩きする。そういえばチョコバナナって家では食えない&作るのも面倒なやつだ。お祭りでリアルに楽しもう。
カラースプレーがついたチョコバナナは、いかにも駄菓子ぽっくて美味い。パリパリチョコと柔らかなバナナがベストマッチだ。
底辺引きこもり男がチョコバナナを楽しんでいても、人混みに紛れ、誰も何も気にしていない。
そういえばマスクをしている人も少数派になっている。コロナ初期は、ノーマスク派は非国民の如く叩かれたが、あれって一体何だったんだろう状態だ。
いつかマスクを外して生きる事になる。その日の為にノーマスクを叩いて自分の首を絞めるのは、辞めた方がいいかもしれない。元々効果も確証されてはいないし、人それぞれ好きにすれば良い事だ。
お祭りを楽しむカースト上位者は、マスクなんてしないでキラキラな充実した笑顔を見せている。俺も今日はマスクして来ないで良かった。
人は他人の事の興味がないのかもしれない。人間嫌いで引きこもっている俺は、何か思い違いをしていた気がしてきた。他人の目は、そんな気にしなくても良いのかもしれない。
そんな事を考えながら、チョコバナナを完食し、家に帰る。両手には、屋台でかったご飯もあり、満足していた。
部屋のてテーブルにたこ焼き、お好み焼き、焼きそばを広げて屋台飯祭りを開催する。
「ふふ、うまい」
一人、涼しい部屋で屋台飯を食うのも、また楽しい。他人の目も気にせ女、歯や唇に青のりもつけちゃう。
こんな祭りを開催しながら、引きこもりもそろそろ終わらせても良いかもと思いはじめていた。
「あはは」
ちょっと苦笑する。
それでも、悪い気分は全くない夏の夜だった。
どん!
再び花火が打ち上げられ、夜空には花が舞い踊っていた。