失敗じゃないアイスキャンディ
強い夏の日差しが降り注いでいた。こんな日は、冷房のきいた涼しい部屋にいるのに限るといいたいところだが、私は公園に来ていた。
家の方が居心地が悪いからだった。
私は、一応浪人生という立場だったが、今は勉強もバイトも何もしていない。
大学受験に失敗して、心が折れてしまった。医者である父は、目に見るように失望し、さらに優秀な兄を溺死するようになった。
母からは毎日のように受験失敗について嫌味を言われ、家は居心地が悪い。なので公園に来ていた。
確かに公園は暑いが、木々に囲まれているので、木陰は比較的マシだ。噴水の近くで出店すているアイスクリーム屋もある。そこで買うイチゴ、メロン、オレンジなどのアイスキャンディが絶品だった。
さっくりした氷にジューシーな果実の味。炎天下で食べていると少し溶けてくるが、口の中高原の避暑地へと変わる。控えめに言って最高。蝉の鳴き声のうるささも、日焼けすてシミができた肌も、むわっとした熱風も、受験への失敗も一時期忘れてしまう。
こんな毎日のようにアイスキャンディーを食べていたら、屋台のおっちゃんにも顔を覚えられてしまった。
頭にタイルを巻き、よく日焼けした体格のいいおっちゃんだった。アイスは全部おっちゃんが工場でて作りしているらしい。見た目は逞しいにに、作っているアイスキャンディは繊細で甘い。そんなギャップもアイスキャンディをより甘くさせているように感じた。
「おっちゃん、今日は林檎のアイスキャンディくれる?」
私は小銭を指すだす。
「まいど」
おっちゃんは、小銭を受け取ると、冷凍ケースからアイスキャンディをくれた。
なぜか今日は白い歯を見せて笑っている。
「実は今日からアタリつきアイス初めました」
「え、本当?」
「おお。棒にアタリってあったら、もう一個だ」
そんな事を言われると、嬉しくなる。ワクワクしながら林檎のアイスキャラディを食べる。
ジューシィな林檎の味、氷の冷たさ、それにアタリへの期待は胸を独占したいた。この時間だけは、過去の悪い事も全部忘れていた。
「あ!」
期待は裏切られる事はなかった。食べ終わった棒には「アタリ」とある。
「嬉しいー!」
まるで子供に戻ったようだ。棒をもっておっちゃんの所に向かう。
「よし、もう一本!」
「イチゴがいい。ありがとう」
イチゴのアイスキャンディは、赤く、艶やか、表面には薄く氷もついていた。太陽の光が強く、なんだかすぐ溶けそうだったので、その場で食べる。
「アイスキャンディに起源って知ってるかい?」
他の客も途絶え、私もアイスを食べ終わった時、おっちゃんに声をかけられた。
「失敗で生まれたアイスだ」
「えー、本当?」
「ああ。寒い時期、子供が外にソーダ水を放置してたら、アイスができたっていうな」
「それ、もう失敗じゃなくない?」
「結果オーライってやつだ」
おっちゃんは、豪快に笑っていた。
確かにそうかも。
大学受験に失敗していたが、別に人生を全部失敗したわけでもない。ちょっと石に躓いただけなのに、全部を絶望していた。どうも視野が狭くなっていたようだ。
心に溜まっていた不安も溶けていく。これも夏の太陽に照らされ、アイスクキャンディみたいに溶けてしまったのかも。そんな気がした。
また、明日もアイスキャンディを買いにいこう。
未来はまだ何も見えない。わからない事も多いけれど、全部が失敗ではないはずだ。