おばあちゃんとチョコミント
夏休み、ばあちゃん家に行く事になった。
私は都会の一人っ子。千葉県の田舎に住んでいるばあちゃん家は、あんまり行った事はなかった。でも、両親は医者で仕事で忙しく、夏休みはばあちゃんに面倒を見て貰う事になった。まあ、私だって来年は中学生だ。一人でばあちゃん家に向かった。
電車を乗り継ぎ、千葉県の船橋駅につく。そこから野田線に乗り、ばあちゃん家の最寄り駅に向かった。
想像していた以上に田舎。駅前は、コンビニも何もない。スーパーはあるようだが、都会のようにコーヒーチェーン店や駅ビルはな全くない。野菜畑もあったりして、「田舎!」と思う。それでも、田舎とは違う新鮮さにワクワクしていた。人は少なそうだが、悪い場所ではなさそうだ。
「夏帆、いらっしゃい! よく来たね」
ばあちゃんは、にこやかに出迎えてくれた。田舎といっても普通に夏の暑さは変わない。汗をかいていたところ、ばあちゃん家は涼しかった。
家は二階建てちょっと古めかしい雰囲気だ。その代わり、芝生の庭や池があったりして、広々としている。お隣さんの庭も広い。犬を飼っているようだが、犬も十分遊べる広さに見えた。
「嬉しいわ、来てくれて」
さっそく居間に通される。大きな丸い時計や変な人形なんかも飾ってある。人形はたぶん、郷土土産だろうが、やっぱり都会の家とはは違うようだ。
仏壇は意外なことにない。位牌と聖母像が飾ってある。カトリックのクリスチャンの家庭祭壇だ。ばあちゃんは、日本では珍しいクリスチャンだった事を思い出す。確か幼い頃は、キリシタンが多い長崎にも住んでいた頃があるらしいが、その事はあまり話さないらしい。父も母み聞いちゃいけないタブーとしていると言っていた。私もここに来る前に父と母から言いつけられていた。
ばあちゃんは、私と背が同じぐらい。もっと大きいと思っていたから、驚きだった。もっとも体格はぽっちゃり系で、雰囲気が優しげだ。シワクチャな肌も、何となく愛嬌はある。
「どうぞ。アイスよ」
ばあちゃんは、居間のテーブルにアイスを置いた。あと、冷たい麦茶も。
アイスは意外な事にチョコミント味だった。ガラスの皿の上に、真っ青なアイスが乗っている。てっきりイモや煎餅、ベタベタしたゼリーなんかを出すと思ったから意外だった。
「美味しい!」
そうは言ってもチョコミントは美味しい。甘さ→爽快感の繰り返しで、舌の上はすっかり中毒状態。ばあちゃんと一緒にニコニコしながら食べてしまった。
そんな楽しい一時だったが、居間のテレビからの情報で、ばあちゃんの表情は凍ってしまった。
テレビでは米国の若者が原爆を揶揄しし、SNS上で炎上している話題を取り上げていた。また、それに対して日本人の若者のコメントも紹介されてた。「アメリカ人には、原爆でカトリック教会が破壊された事を言えばいい。目に見えて狼狽えるから」という日本人もいるらしかった。
ばあちゃんは複雑な表情だった。さっきまでチョコミントアイスで笑っていたのに、しばらく無言だった。これは地雷的な話題だったのかもしれない。
「今の日本人も勝手ねぇ。戦前もその前もクリスチャンを一番迫害したのは、一体どこの国の人かしら」
ぽつりと呟いた事をきっかけに、ばあちゃんは戦争の記憶を話し始めた。偶然、福岡の親戚の家に行っていたばあちゃんは、原爆の被害はなかったらしいが。
それでも、多くの家族や友人を失い、後悔の念しかなかった事も語る。助かったのに、全く喜んではいない。ばあちゃんの表情を見ていたら、何だか胸が締め付けられる。
「それにね。終戦してずっと後に、クリスチャンでもなんでもない日本人が揶揄ってくるのよ。『教会に原爆落とされちゃったから日本でクリスチャンが増えないんだ』って笑ってくるのよね……」
そんな過去もあったのか。苦い表情を浮かべるばあちゃんを見ていると、余計に心が苦しくなってくる。運良く助かった人にもこんな深い傷を残す戦争は、一体誰が始めたんだろう。少なくとも、ばあちゃんみたいな一般庶民じゃない。
「もしかしたら、日本はまた戦争が来るかも」
「えー?」
「コロナ対策やワクチンを反対する人への攻撃が、あの頃の『非国民』とちょっと似てるのよね。気のせいだったら良いけど、全体主義というかね」
全くそんな発想はなかった。ただ、実際、今も戦争をやっている国があるし、日常があっという間に変わっていく様子だけは想像できてしまった。
もしかしたら、このチョコミントアイスを食べられるのは、贅沢な事かもしれない。それだけは良くわかる。平和じゃなくなったら、きっと日常は全て壊される。
「ばあちゃん、このチョコミント美味しいよ」
「そうね。おかわり食べる?」
「うん!」
こうして再びチョコミントアイスを食べた。さっきよりも美味しく感じるのは、なぜだろうか。
難しい事はよくわからない。戦争が何故あるのかもわからない。それでも、平和な日常が続く事は、何よりも大切だという事はわかる。
舌の上で甘みと爽快感が繰り返される。これ以上甘美なものは、今は思いつかない。
「美味しい!」
私は再び、ばあちゃんに笑顔を向けた。この夏のひと時は、絶対に忘れないようにしよう。私は心の中で誓った。




