表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひと夏の思い出〜とっても美味しい夏でした〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

妹のゴーヤチャンプルー

 良い子でいなきゃ。


 良い奥さんでいなきゃ。


 良い母親でいなきゃ。


 香子はそう思って生きてきた。実際、子供の頃から優等生だった。公務員になり、真面目に仕事もこなしていた。


 結婚後も妻として、母として頑張ってきたつもりだ。夫はアメリカに長期出張中で、いわゆるワンオペ育児で仕事もやっている状況だったが、頑張っていた。いや、頑張らないといけないと思っていた。


 ただ、今日の出来事は心が折れた。


 盆休みに入り、近所の公園に息子と娘を連れて行って遊ばせていたら、老人に怒られた。


「うるさい! 子供を連れてくるな!」


 怒られたというよりは、一方的に怒鳴られたといった方がいい。香子に落ち度の無い被害者だったが、気が折れた。すぐ息子と娘を連れて家に帰った。


 日本は子育てをするのに向いてる場所では無い。少子化に向かう理由がよくわかってしまった。まだ、3歳の娘、5歳の息子を見ながら「日本の未来はあまり明るく無いかもしれない」と申し訳ない気もしてくる。


 そんな事を考えていたら、妹がやってきた。沖縄に遊びに行ってきたという。沖縄そば、ちんすこう、タコライスの素、そしてゴーヤもお土産で持ってきた。ゴーヤは帰る日、飛行機に乗る前に買ったんだという。


 妹は真っ黒に日焼けし、機嫌も良さそうだった。息子や娘と一緒にキャッキャとはしゃいでいる。こうして見ると、どちらが子供かよくわからない。


 この妹は、昔から天真爛漫で、自由人だった。面白そうな事があると、すぐに食いつき行動してしまう。そんな妹は受験も就職もせず、会社を作っていた。まあ、何度か会社経営は失敗していたが、本人は実に楽しそうに生きていた。親はこの姉妹を見て「正反対だ」とよく言っていた。香子は、とても妹のようには、生きられないと思う。


「っていうか、姉ちゃん。もうお昼だよ。ご飯作らない?」


 妹は時計を指差しながら言う。子供たちも騒ぎ始めた。


「実はさ」


 公園の出来事があり、料理を作る気が失せている事を告白した。良い奥さん、良い母親になるように努力していた香子にとっては、恥ずかしすぎる告白だったが、本音が溢れてしまった。


「だったら、私がつくるわ。冷蔵庫になんかあるっしょ?」

「ちょっと」


 香子が止める間もなく、妹はキッチンに行き、なんか作りはじめてしまった。


 しばらくすると、キッチンから炒め物の音がする。同時に香ばしい良い香りもしてきた。


「みんな、ご飯できた! ゴーヤチャンプルと沖縄そばだよ」


 妹は食卓にゴーヤチャンプルや沖縄そばを並べていた。


 沖縄そばは、濃いめのスープに太い麺だった。上に角煮もある。妹によれば全部インスタントらしいが。


 ゴーヤチャンプルは、卵とゴーヤで色あいも良い。上に鰹節が踊り、ふわふわと湯気もでていた。湯気にのり、香ばしい香りもする。


 子供達は妹の沖縄料理に大喜びで食べていた。良い母親になりたい香子としては、インスタント食品はどうかと思ったが、素直にありがたい気持ちになった。


 ゴーヤチャンプルは、よく見ると妹らしい出来だった。ゴーヤの切り方が雑で繋がっているところもある。それでも悪くない。むしろ美味しい。この料理は、これぐらい大らかさがある方が良いかもしれない。


 苦いゴーヤと甘い卵のバランスも最高だった。ついつい箸がすすむ。卵の黄色とゴーヤの緑色も色欲を刺激していた。


「お姉ちゃんさ、もう真面目辞めたら?」

「え?」


 ちょうどゴーヤチャンプルを食べかけた時、妹が呟く。子供たちは食べ終わり、テレビアニメに夢中だった。リビングからアニメ声優の声や子供のはしゃぎ声が響く。


「真面目過ぎると鬱病にもなりやすいんだって。それに、お姉ちゃんが不真面目でも真面目でも、そんな変わらない気がするよ」

「えー?」

「最低限のことはやってたらいいのよ。どうしても出来ない事は、人に頼る。今日みたいにね」


 妹は、白い歯を見せて笑っていた。


 確かにそうかもしれない。ちょっと雑に切られたゴーヤ。だからと言ってゴーヤチャンプルの味は別に変わらない。


 手を抜けるところは抜いて良いのかもしれない。それに今どき良妻賢母をやっていても誰も褒めない事にも気づいてしまった。むしろ、都合の良い存在になるかもしれない。


「ありがとう。なんか気が抜けてきた」

「そうだよ。肩の力抜いて、リラックス!」

「じゃあ、今日も掃除手伝って行ってくれない? 庭の草むしりとか」

「え、お姉ちゃん、だいぶ調子いいね?」


 妹は呆れて笑っていた。その笑い声を聞きながら、夏のひと時は過ぎていく。


 この日から、香子の肩の力も抜け、家事も育児も余裕が出るようになった。香子を縛っていた呪いは、解けてきたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ