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ひと夏の思い出〜とっても美味しい夏でした〜  作者: 地野千塩


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15/22

幽霊騒ぎとパイナップルケーキ

 大学も夏休みに入ったので、実家に帰る事にした。


 ばあちゃんが好きだったパイナップルケーキもお土産に。


 本当は台湾の本格的なのが良かったけど、そうそう簡単に行けない。デパートで似たようなものを買った。


 生前のばあちゃんは、やたらと甘いものが好きだった。息子である私の父は、無理矢理止めさせてた。実際糖尿病や胃の病気に罹っていて、医者にも注意されてたし、死因もそんな病気のせいだった。


 表向きは糖質制限、塩分制限、軽い運動はやっていたけど、時々こっそり甘いものを食べていた事を私は知っている。特にパイナップル味のものが好きだった。いけないと思いつつも、私は見逃していた。一度だけ台湾風のパイナップルケーキをあげたら、大層喜んでいた。


「麗香とばあちゃんの二人の秘密ね」


 なんて無邪気に笑っていたっけ。


 それから急激に体調が悪化し、病院で亡くなった。入院生活は一カ月ぐらいだった。内心、ばあちゃんとの同居や介護に不安があった母は、妙にホッとした表情を見せていたのを覚えている。


「わぁ、灯篭流し」


 実家近くの川では、灯篭流しが行われていた。まだ夕方だったが、淡い色の灯篭が川に浮いている。ご先祖様を祀るらしい。


 大きな川では無いので、灯篭で大渋滞だった。周囲も見ている人も多く、混み合っていた。


 私も実家に向かう途中、なんとなく人混みに紛れて、灯篭流しを見ていたが、だんだん気分が悪くなってきた。夏バテだろうか。


『麗香、こっちきて。パイナップルケーキちょうだい』


 しかもばあちゃんの声まで聞こえてきた。単なる幻聴だろうが、暑さで疲れているのかも。


 私は早歩きで実家に向かった。


 この辺りが田舎で、周りは田んぼや野菜畑ばっかりだ。実家も改築したのでそこそこ綺麗な二階建てになっていたが、昔は木造で古かったが、そこそこ広い。一応父は土地を持っていて、いわゆる地主という存在でもあった。父はお金もあるが、お人好しで人の言う事を鵜呑みにしやすい。時々借金の保証人にもなって苦労していたが、自業自得なので仕方ない。


「ただいま」


 実家に帰ると、親戚連中が集まっているようで、騒がしかった。たぶん、父も親戚も酒を飲んでいる。


 従兄弟の子供たちが走り回り、少々うるさい。まあ、中にはしっかり者もいるので、母の手伝いはその子に任せておこう。


 私は仏間に直行した。


 仏壇にパイナップルケーキを置く。箱ごと置くが、日持ちするので大丈夫だろう。


 そして、ばあちゃんとかご先祖様に手を合わせた。


 線香も一応やっておく。


「ばあちゃん、麗香は帰ってきました」


 一応ばあちゃんにも声をかけておく。


『麗香、パイナップルケーキちょうだい』


 は?


 また幻聴が聞こえた。


『あの時のパイナップルケーキ、美味しかったよ』


 え?


 なんでこの声は、こんな事を知ってるの?


 まさか本当にばあちゃん?


「ばあちゃん?」

『そうよ、私よ、私』


 声もそっくり。口調も生前のばあちゃんと同じ。


 どうやら、夏でばあちゃんも帰ってきたのか。不思議現象だったが、そう思う事にした。むしろ、ばあちゃんと会えて良かったぐらいに思っていた。


 ただ、それから悪夢に悩まされた。夜、何者かに追われたり、殺される夢を繰り返し見た。しかも金縛りもあったりして全く眠れない。父や母、親戚の子供も似たような現象にあっているらしく、神社のお祓いでも頼もうかと話し合っているところだった。


 ただ、その金額も高い。その上、もし、ご先祖様やばあちゃんの霊とかも消えたらと思うと踏み出せなかった。せっかく帰って来たのにという思いもある。


 困った私は、大学の友達に電話をかけた。朝霧桜という名前で、見た目はお嬢様だ。ただ、クリスチャンで、オカルト的な話題も詳しかった。桜によると、聖書には霊についての話もいっぱい書いているらしい。私が住んでいるアパートにも幽霊っぽいものが居る事があり、桜に頼んで祓ってもらった事もあった。


 そんな桜なら、この現象も何かわかるだろうと思う。


「ご先祖様の幽霊なんていないよ」

「え?」


 最初から桜は、ばっさりと切ってきた。


「うん、死んだら大抵の人は黄泉に行くから、地上には死んだ人いない」

「えー? だったら、幽霊とか何?」

「聖書でいう悪霊よ」


 そこから桜は、聖書の話を教えてくれた。正直、難しくてよく分からなかったが、悪い霊は関わらない方がいい事はわかる。


「でも何でばあちゃんの記憶知ってるの?」


 特にパイナップルケーキの事は、私とばあちゃんしか知らない情報だ。


「悪霊は、死んだ人の記憶をコピーするからね。いわば、オレオレ詐欺よ。その人のフリして人間を騙す」

「えー? 何で悪霊はそんな事するの?」

「あいつらの目的は、人間が神様を信じない事。そのためだったら、死んだ人のフリしてでも何でもやるよ」

「もう難しい事は良いから、どうしたら良い? その悪霊ってやつ、追い払えない?」


 正直、宗教的な事とかはわからない。とりあえず、今はどうしたら良いのか、桜に泣きついてしまった。電話越しとはいえ、かなりみっともない。ドラえもんに泣きつくのび太みたいだった。


「そうねぇ。何か声が聞こえたら『イエス・キリストに従っていますか?』って言ってみて」

「それだけでいいの?」

「うーん、本当はクリスチャンが追い払うのが良いんだけどね…。あとは寝る時にオーディオ聖書を流してみて。だいぶマシになるはずだから」


 半信半疑だった。


 しかし、私たち家族には他に方法もなく、試して見ることにした。オーディオ聖書の種類を桜に聞き、聞くドラマ聖書というアプリを入れた。それを寝る時かけていると、不思議な事に悪夢がピタっと止まった。聖書の内容は全く興味がないが、そてでも悪夢は止まってしまった。


 また、ばあちゃんの声が聞こえたら、桜のアドバイス通りに言ってみた。


『イエスの名前なんて出すなよ! しかもこいつ桜の知り合いかよ、近づきたくねーわ! 桜も祈ってくるな、くるなあああ!』


 そう悲鳴をあげながら消えてしまった。


 やっぱり、桜が言って通り、ばあちゃんにフリした悪霊? 悪霊のオレオレ詐欺?


 わからないが、とりあえず実家での幽霊騒ぎは、これで解決した。


 まだまだ信じられない事は多いし、宗教とかは嫌悪があるが、幽霊とかは怖く無くなってしまった。


 ご先祖様もばあちゃんも、もうこの世に居ない。そう思ってしまった方が、心は楽だった。


 仏壇にパイナップルケーキを置いているのも馬鹿馬鹿しくなり、一人で食べる事にした。


 しっとりと濃厚なパイナップルの味が染みる。改めてばあちゃんは、死んでしまったと思ったが、死んだ人より生きている人間の方が大事だ。ずっとばあちゃんの事を引きずって生きていくわけにもいかない。ばあちゃんは別に神様でもなんでもない。甘いものが好きで不摂生なただの人間だった。


 親戚の子供たちの声がする。


 元気いっぱいな声を聞きながら、私も回復してきた。


 東京に帰ったら桜に霊の話も詳しく聞いてみようか。あの霊の声からすると、桜は意外と強そうだったし、詳しく聞いてみたい。


 なんだか楽しみになってきた。夏が終わっても楽しい事は続きそうだ。

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