お祭りの焼き鳥
一年近く、ほぼ引きこもりの生活だった。仕事はライトノベル作家だった。一年前、今書いているレーベルで受賞し、それからずっと執筆生活だった。
主に女性向けの作品を書いていたが、想像以上に制限もあり、差別用語なども気をつかう。
「くだらないなぁ」
私は、ゲラ刷りを見ながら、ため息をこぼす。編集から、この表現は差別になるから辞めろと言われ、結局書き直していた。お陰で、何か作品にパワーみたいなものが減った気もしてくる。
「くだらない、くだらない〜」
一人、仕事部屋で愚痴をこぼすが、仕方がない。今の世の中は、ポリコレとか神経質になっている。
でも、だからといって差別が消える事は決してない。人種や性自認の差別を解消しても、学歴・年収・容姿差別は永遠にある気がする。その証拠に学校でのいじめ、会社でのパワハラが無くなったという話は聞いた事が無い。顔採用もあるだろう。かくいう私だってブスヒロインは読者に受けないから書きたくない。
一番タチが悪いのは「私は差別しません」と綺麗な顔をしている人だ。「LGBTの人に優しくしよう」と語る口で「反ワク陰謀論者は死ね」とヘイト。SNSを見るとそんな二枚舌は大量にいるが、本人にはその自覚はないだろう。
私のようなこんな女性向けライトノベルの表現がなんだと言うのか。ここを直せば世界から差別が消えるのか。そんな事は決して無い。表面的な言葉だけ綺麗にすれば良いのか。単なる言葉狩りだ。漫画やライトノベルでブス顔=悪役が一般的だ。これだって排他的差別かもしれないが、そんな事まで言い出したらエンタメは全滅し、文化は衰退するだろう。
そんな事を考えていたらイライラして、腹が減ってきた。
もう日が暮れていたが、財布をもって外に食べに行く事にした。
マンションから出ると、浴衣姿の若い女性とすれ違った。どこから賑やかな音楽もする。近所でお祭りをやっているらしい。
お祭りなんて一人で行くのもどうかと思ったが、コンビニ弁当より屋台で夕食を済ます方が楽しそうだ。
私は浴衣姿の若い女性の背中を追い、お祭り会場に向かった。会場につく頃は、もう夜になり、爪の先のような月が見えた。
近所の公園には、屋台がたくさん出店している。チョコバナナ、焼きそば、大判焼き、焼き鳥、りんご飴、かき氷。大人も子供も屋台料理を楽しんでいるようだ。公園には特設ステージもあり、ご当地アイドルが賑やかな音楽を歌っている。金魚すくいやスーパーボウルすくい、射的もあり、小さな子供達はかなりはしゃいでいた。
騒がしい人混みだが、案外、一人でいるのに目立たない。人混みに溶け込み、屋台を見て回る。
急に良い匂いが鼻をくすぐる。焼き鳥の屋台からの匂いだった。炭の焦げるような良い匂い。甘辛いタレの臭いも良い。
「おじさん、つくね、むね、ねぎま、レバーくれます?」
列に並び、ようやく焼き鳥を手に入れた。透明なフードパックに入れてくれたが、ジュワッと肉汁が垂れている。タレが照り輝き、どう見ても美味しそうだ。
焼き鳥だけでなくビールも一本買う。クーラーボックで冷やされたビールは、触るととても冷たい。
公園の端にある休憩スペースへ行く。簡易の椅子やテーブルには、客達でいっぱいだ。どうにか空いた席に滑り込み、焼き鳥を食べた。
「美味しい」
思わず声が漏れる。まだ微かに温かい焼き鳥は、最高だった。冷えたビールとの組み合わせも最高。
すっかり仕事でのイライラ感は忘れ、無茶で焼き鳥を食べ、ビールを飲んだ。
「へえ、焼き鳥ですか」
隣に座った老人の声をかけられた。この人も一人で来たようだ。
「ええ」
「美味しそうですけど、私は、レバーはちょっとな」
「レバー、美味しいですよ」
確かにレバーは癖がある。ただ、貧血対策で食べていたら、ハマり、焼き鳥を買う時は、いつも注文していた。あっさりとしてる割には、鉄分も豊富で健康に良い。作家も身体が資本なので、レバーは有り難い食材だ。
私にとっては好きなレバーだが、みんなに好かれるわけもない。そもそもみんなが好むものは無い。だからといってレバーの価値は変わらない。
編集に色々とケチをつけられたが、私の作品の価値は変わらないはずだ。
それに気づいたら、気が抜けてきた。もう少し肩の力を抜いて、仕事を楽しんでもいいかもしれない。
どうせこの世の中の差別はなくならない。「私は差別しません」という綺麗事を言う人が、難癖つけているだけ。表面的に「やってる感」演出しているだけ。あるいは、何か弱者を食い物にする利権があるのかもしれない。本当に差別を解消したかったら、言葉狩りにエネルギーなど使わないはずだろう。
そう思うと、もっと気が抜ける
とりあえず、今日はお祭りを楽しもう。焼き鳥を食べ終えたら、賑やかなご当地アイドルのステージの方へ向かった。




