冷やし中華はじめました
冷やし中華なんて簡単に出来ると思っていた。
「これ、いつ終わるわけ?」
俺はキッチンに立ちながら途方に暮れていた。スーパーで買った麺やタレで冷やし中華を作っていたが、とにかく具材を作るのが面倒だった。
トマトやきゅうり、ハムを切り、薄焼き玉子を作る。一見簡単な作業だが、実際やってみると、途方もない。特に薄焼き玉子は全く簡単ではなく、一度焦げ付かせて失敗してしまった。
さらに麺を茹でる時は、熱くてたまらない。俺の額には、汗が浮いていた。
それでも最後まで作らなければ。
息子や娘にも「冷やし中華がいいー」とリクエストされているし、今は妻も語学研修で出張中だった。ここで負けるわけにはいかない。
思えばいつもの夏は「冷やし中華でいい」「素麺でいい」と言い、妻をむっとさせていたが、その理由がよくわかってしまった。見た目はつるっとシンプルな麺類だが、実際作ると面倒だった。素麺もお湯で茹でる工程があるので、言うほど夏向けの料理かわからない。スーパーの流水麺を使えばいいが、揖保乃糸も美味しいんだよな……。
そんな事を考えつつ、どうにか冷やし中華ができた。皿の上はトマトやきゅうり、ハム、薄焼き玉子が色鮮やかで見た目もいい。まあ、薄焼き玉子は焦げ付いているところもあるが。
「みんな、できたぞ!」
大声で食卓に息子や娘を呼び寄せた。
「わぁ、冷やし中華だ!」
娘のキラキラした目を見るだけで、俺の苦労も報われる。
「でも母ちゃんのが美味しそう」
息子よ、それを言ったらおしまいよ。
とはいいつつ、親子三人で冷やし中華を楽しんだ。
麺はつるつる、タレも甘酸っぱくてうまい。野菜も新鮮で冷たい。薄焼き玉子は焦げて苦いが、こればっかりは仕方がない。
チラリとキッチンの流しの方を見ると、汚れた鍋やフライパンが溜まっている。これを片付けると思うと再び骨が折れそうだ。
早く妻は帰ってきて欲しいが、今は子供達の笑顔を見ながら、冷やし中華を楽しむしか無いようだ。
窓の外から蝉の鳴き声が聞こえる。外は炎天下なのに、この場所は涼しい。ここに妻がいたら完璧だったが。
妻が帰ったら一番に「いつも飯ありがとう」と伝えたい。
こうして夏のひと時は過ぎいった。