表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アヒルの子だった王女様

作者: 瀬嵐しるん



「わたしはみにくいアヒルの子……」


事実を知った衝撃で、王女さまは床に崩れ落ちました。




温暖な島国にある鳥族の王国は、ものすごく豊かというわけではありませんが平和で、皆は楽しく暮らしていました。


お城には国王さまと王妃さま、そして十一人の美しい王子さまと、愛らしい末っ子の王女さまがいます。


王女さまが物心ついたとき、お兄さまたちは皆、美しい白鳥の姿をしていました。

もちろん、国王さまと王妃さまも白鳥です。


だから王女さまは、黄色い雛だった自分が、皆とは違うことに気付きませんでした。


やがて、成長した王女さまの羽は白く美しくなりました。

けれども、どうにも白鳥には見えません。

丸っこくて、寸足らずで、白鳥とは比べ物にならないのです。



「わたしはみにくいアヒルの子……」


くずおれた王女のもとに、兄王子たちが駆けつけます。


「お前がみにくいわけがない!」


「こんなに可愛らしい姫はどこにもいないよ!」


「ああ、僕たちの大事な大事な妹姫」


王子さまたちは真心のこもった眼差しで、真剣に王女さまを慰めました。


「お兄さま……」


血は繋がっていなくても、この愛情は本物です。

王女さまは、嬉しくて涙を流しました。



そこへ、国王さまと王妃さまがやってきました。


「姫よ、今まで黙っていて済まなかった。

私たちは白鳥だが、お前はアヒルだ。

卵から孵ってすぐ、養女としてもらい受けたのだ」


「姫、たとえ、わたくしが産んでいなくても、あなたはわたくしたちの子。

わたくしたちの家族です。

どうか、それだけは信じて」


「お父さま、お母さま、姿が違うことで取り乱してしまい申し訳ございません。

皆さまの愛情を疑うことなどありませんわ」


家族は皆、ほっとしました。



「よい機会だ。もう一つ、話さねばならないことがあるのだ」


「お父さま、なんでございましょう?」


国王さまは真面目なお顔で話し始めました。


「我が王国には、遠い遠い北にも領土があることは知っているな?」


「はい」


鳥の王国は、温暖なこの地と、寒さの厳しい北の地、二か所に領土を持っていました。

渡りをする鳥族は、夏の間は涼しい北の地のほうが過ごしやすいのです。

それで今までは、国王夫妻と十一人の王子が交代で北の地に出かけていました。


「しかし、このところ温暖化で夏の暑さが厳しくなっている。

こちらに残った渡りの鳥族は皆、バテ気味なのだ」


そう言えば、夏の間は皆、どことなく元気がないことを、王女さまは思い出しました。


「というわけで、こちらの国にはお前を女王として立てたいと思う。

お前は幼い時から真面目に学んできた。

安心して国を任せられる。

どうか、女王となってもらえないだろうか?」


突然のことで王女さまは驚きます。


「お父さま、わたし一人ではとても無理です」



「私がお助けいたします」


その時、宰相の息子が進み出ました。


「いつでもあなたのお側に控え、どんな相談にも応えましょう」


そう言って、恭しく王女の手を取ります。


「まあ、本当に?」


「北の大星に誓って」


「よろしくお願いするわ」


アヒルの王女は頬をバラ色に染めました。



宰相一家はアヒル族です。

凛々しくきびきびと宰相を手伝う彼を見るたび、王女はときめいていました。


アヒルは、白鳥と比べたら優美さでは劣ります。

でも、王女はアヒルの姿が好きでした。


自分がアヒルだと知った時は取り乱して『みにくい』などと言ってしまったのですが、少しも本心ではなかったのです。


ちょっと寸足らずで可愛いし、ちょっとずんぐりめなのも可愛いのです。

いえ、王女さまはアヒル族全部が可愛いと思ったわけではありません。

宰相の息子である彼だけが特別素敵に見えたのです。


白鳥族とアヒル族では結婚できないと一度は諦めた恋。

そっと胸に秘めた思いが報われる時が来たのです。



「どうやら、王配も心配ないようだ」


国王さまと王妃さまが微笑みを交わします。

けれど、妹が可愛くて仕方ない王子さまたちは少し複雑な顔をしました。



それから、急ピッチで女王教育が行われ、次の春。

北へ渡る鳥族を見送る季節になりました。


「お父さま、お母さま、お兄さまたち、お気をつけて。

ご無事のお帰りをお待ちしております」


「ああ、お前も身体を大事にな。

では、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ」


この地に残る鳥族たちの見送りの中、白鳥の王族を先頭に、渡りの旅が始まります。

妹が大好きな兄たちも、名残惜しいのを振り切って旅立ちました。


妹女王の幸せなさまを、たっぷり見せつけられた兄たちは北の地で、それぞれに自分の恋を見つけることでしょう。


もしかすると帰りの旅路は、家族が増えて更に賑やかになっているかもしれません。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全体を通して、すごく可愛い♡ [一言] 読んでよかったと思える作品に出会えました。ありがとう!
[良い点] 自分だけ家族と違うところを卑下しないのが素敵ですね。 そして全員幸せを掴めそうな明るい結末がよかったです。
[一言] 既存の物語と反転しているのが面白かったです。 綺麗にまとまっていて、ハッピーエンドを迎えてほっこりとしました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ