乃東生(なつかれくさしょうず)
「どうすればいいと思う?」
コーイチとアオの言葉に、チカとアマネは黙り込んでしまった。コーイチとアオ、ふたりのあいだには、マシロが挟まれる形となっている。
この三人は朝食の席に現れるのがいつもより遅いと思ったら、これである。
しかしチカとアマネが気になったのは、三人が遅れてきたことではない。
マシロの頭頂部に、青々とした双葉が生えていることだ。
「『どうすれば』って聞かれても……」
困る。それがチカの偽らざる本音であった。
けれどもチカの目の前にいる三人も困っていることは明らかだったので、途中で口を閉ざしたわけである。
ちらりとチカはアマネを見た。いつも通りの仏頂面で、眉間にしわを寄せてマシロの頭に視線を向けている。
「そもそも、なんでそんなことになってんだ」
「わかんない。朝起きたら生えてて……」
アマネの疑問を受けて、ぴるぴるっとマシロの頭に生えた双葉が動いた。チカは双葉が動いたことにおどろくも、すぐにハムスターの耳のようだと思った。
眉を八の字に下げて困った顔をするマシロだったが、どうにも頭に生えた双葉の動きがコミカルなので、イマイチ空気が締まらない。
双葉がなにに反応して動いているのかは定かではなかったが、定期的にぴるぴると小動物の耳のようにうごめく。チカは思わずそれを目で追ってしまう。
「だから、抜いてみようと思ったんだけどさ」
「いや、こーいうのは無理に抜いたらゼッタイまずいって」
どうやら、マシロの頭に生えた双葉の処遇を巡っては、珍しくコーイチとアオの意見が合わないようだ。
マシロの頭に双葉が生えるというイレギュラーに加えて、意見の相違によって食堂へ現れるのが遅れたらしいとチカは察した。
「じゃあどうすんだよ? 放置しててもよくないだろ、コレ」
「まあそうだけどさ……。でも無理に引き抜くのはナシだろ。まず頭に直接生えてるってのが怖い」
チカにはコーイチとアオ、どちらの意見にも一定の理があると感じた。
たしかに放置していても事態が悪化しそうではある。しかしアオの言う通り無理に引き抜くのは怖い。頭という位置も問題だった。これが腕などに生えているのであれば、無理に引き抜いてしまうのもアリだったかもしれないが。
アマネも考え込んでしまっている。チカが考えたように、コーイチとアオ、ふたりの意見はあるていど筋が通っており、かつ懸念点もそれぞれにあるということを理解しているからだろう。
「朝っぱらからなに揉めてるんだ?」
そこへ、朝食を乗せた皿を手にしたユースケが現れる。ユースケは五人を見やって、すぐにマシロの異変に気づいたようだ。
「なんだそれ」
「朝起きたらんなんか生えてたんだよ」
「で、引っこ抜くか放置するか、他の方法を取るかで議論してたってわけ」
コーイチとアオの説明に、ユースケは「ふうん」と目を細めた。
「どうしたらいいと思う?」
チカはユースケに問うてみた。ユースケは七人の中では博識で、頭の回るほうである。他の五人もそう認識しているはずだ。
とは言え、この不可解な現象をすぐさま解決できるような、ミラクルな答えが返ってくるほどの期待は、チカもしてはいなかった。
「三人寄れば文殊の知恵」と言うし、多人数から意見を募るのがいいと思っただけの行動であった。
「塩にでも突っ込めば? それが植物だったら枯れるだろ」
こともなげに言ったユースケの返事に、五人ともが呆気に取られるのが空気でわかった。
もちろんそれをユースケが気づかないはずもない。しかし彼はやはりこともなげに言葉を続けるのであった。
「でもまあ、ずっと塩に浸けるのは現実的じゃない。塩を溶かした風呂とかどうだ?」
ユースケのその提案が、どこまで本気なのかチカは図りかねた。だが、ユースケとてこんな場面で冗談を飛ばすほど悪趣味ではないはずだ。
「確かに塩を撒いた土地には雑草が生えないという話は聞いたことあるけれども……」
「……やるだけやってみりゃいいんじゃねえの」
コーイチとアオは疑わしいと言うより、呆気に取られた様子でまじまじとユースケを見ていた。
チカは特にこれと言った打開策が思い浮かばなかったので、ユースケの案を試してみる価値はあると考えた。アマネとしてもそうらしい。たしかに、塩を溶かした風呂に浸かっても、マシロにはなんともないだろう。
「まあひとまず朝食を済ませてからにしないか? せっかく作ったのに冷めちまう」
ユースケのそのひとことで、みな各々定位置につく。ササもやってきて、机の上に朝食が並べられた。
果たして、ユースケ提案の塩風呂は効果があった。マシロの頭に生えていた双葉は、たちまちのうちにしおれて、ぽろりと頭頂部から剥がれ落ちたのだ。
「花や実をつける前でよかったな」
ユースケはそう言って、冗談とも本気ともつかない顔で笑った。
真相は闇の中である。しかし解決方法が確定したので、チカは深くは考えないようにした。




