蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)
もはやヘビが人語を操っていたとしても、たいそうおどろくべきことではないのだ。少なくとも、新鮮な気持ちにはならない。
その真っ白なヘビは“城”に開いた穴からやってきたそうだ。
瞳は黒いのでマシロのようにアルビノというわけではないらしい。表面はすべすべとしていて触り心地が良さそうだ。体長は二メートルには届かないようだが、それなりに長く、身体も太い。口を開けば小さなキバが見える。ちろちろと口の端から出る舌は、ヘビだから二又にわかれている。
どこからどう見てもヘビだ。しかし、人語を解し、操る。
「さっさと出ていけ。でないと首を刎ねる」
アオはそう言って闖入者たるヘビにすごんだ。人語を操るヘビなど不審極まりなく、早急に“城”から退去願いたいといったところなのだろう。
マシロは、以前のタカの一件があったからなのか、ヘビをかばうようなマネはしなかった。チカも、その一件もあったし、単純にこのヘビが毒を持っているかもしれないという恐れもあって、どちらかと言えばアオの言い分には賛成であった。
「ひえええ、そんな殺生な」
「殺生してやろうか?」
「ひえええ、せめて、せめて話だけでも聞いていただけないでしょうか……」
「なんで無断侵入してきた畜生の話を聞いてやんないといけないわけ?」
「ひえええ、男の人は怖い……! そこの女の人! どうか話を聞いてください!」
ヘビは鎌首をもたげた姿勢でするするとチカたちのほうへと這い寄る。だがアマネがヘビの目の前の床に、持っていた棒の先を叩きつけたので、ヘビは進行を止めた。
「ひえええ、男の人ってなんでこんなに乱暴なのでしょう! ワタシはただ女同士でお話ししたいというだけなのに!」
「……お前、メスなのか?」
「そうですよ!」
コーイチの質問にヘビはなぜか意気揚々と答えた。
「……本当か?」
そんな返しになにか不審な点を感じ取ったのか、コーイチがじとっと半目でヘビを見て再度問う。
するとにわかにヘビの様子がおかしくなった。
「ひえ、本当決まっているじゃあありませんか! ワタシは女の子です!」
「……ヘビってどうやってオスとメスを見分けるんだ?」
コーイチがそう言えば、ササの隣に立つユースケが答える。
「見た目ではまずわからなかったはずだ」
「じゃーこいつがオスかメスかはわかんねーってことか?」
「総排出腔から棒を突っ込めばわかるらしいぞ。深かったらオス、浅ければメス」
「じゃあ棒突っ込むか」
男性陣の乱暴な結論にヘビが「ひえええ」と悲鳴を上げた。
「そんな殺生な! おやめください! おやめください!」
「なんでそんなにイヤがるんだ?」
「ひえええ、イヤがるに決まってるじゃあありませんか! そんなぶっとい棒は入りませんよ! ワタシのペニスに傷がついたらどうするんです?!」
「オスじゃねーか!!!」
コーイチのツッコミのあと、沈黙が落ちた。
その沈黙のあと、ヘビがちろっと舌を出した。別に可愛くはなかった。
「いえ、ただちょっとそこの女の人のうちだれかがワタシの卵を産んでくれれば、ワタシはそれでいいんですよ……?」
「死刑」
アオの冷たい声が部屋に響く。それを合図にアマネが持っていた棒を振り上げた。
「人間は卵を産めないぞ」
ササの言葉がヘビに届いたかはわからない。いや、ボッコボコのボッコボコにされたので、十中八九聞こえてはいないだろう。
かくして不届き者のヘビは“城”から放り出され、ヘビが入ってきた穴はがっつり塞がれた。




