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ドグマの城  作者: やなぎ怜


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禾乃登(こくものすなわちみのる)

 信者である“黒子”たちが持ち込む“捨品”には様々なものがある。


 今、山と盛りつけているイネも“捨品”のうちだが、これはどうやら呪われているらしい。


 どう呪われているのか、呪われているとどうなのか。それはなにもわからない。少なくとも、チカたちは知らされずのままだ。


 それを“城”で燃やして欲しいと頼まれた。たしかに呪われていると言うものを、そのまま倉庫に眠らせておくには怖い。けれども燃やすのだってそれなりにリスキーな気はする。


 そして結局チカたちは議論して後者を選んだ。


 燃やす場所は台所だ。それ以外にいい場所がない。台所以外はどう火を起こすかという問題がある上、換気の問題もある。その点台所であれば換気はしっかりできていることがわかっている。火の問題もクリアだ。


 呪われているというイネは、黄金色の穂を実らせて重く下へと垂れている。チカはそれを見て黄金色の田んぼを想像した。けれどもそれが単なる空想なのか、実際に見た光景を思い出しているのかまではわからなかった。


 呪われたイネを燃やすところが見たい、と言い出したのはマシロと、つられてササ。そこになぜかチカも加わる流れになった。


 燃やす役割はじゃんけんで負けたコーイチがすることになっていた。ひとりだけ選ばれたのは、全員で参加して万が一のことがあればだれも救助ができないからである。なのになぜかマシロやササと共にチカも見学することになった。


 恐らく、マシロはコーイチが心配なのだろう。だからそばにいたがって、興味があるフリをしているのかもしれない。あるいは実際に呪われたイネが燃やされることに対して興味があるのかもしれないし、その両方かもしれない。


 いずれにせよ、この四人でイネが燃えるところを見ることになった。


 ちなみにササが加わったのでユースケも参加したがったが、それはアマネに止められた。もしもだれかが倒れたときに、人手がアマネだけでは苦しいと判断してのことだろう。ユースケはいかにも渋々といった顔で、アマネに連れられて食堂で待機することになった。


 コンロの火を点ける。いつもしている動作だ。問題はない。


「燃やすぞー」


 軍手をつけたコーイチがそう言って、火の中にイネの穂先を突っ込んだ。


「なんだかいいにおいがする」


 あっという間に火が移って燃え始めたイネから、草木を燃やしたにおいが漂ってきた。それにかすかに、生米を焼けばこんなにおいがするだろう、という香りも。


「燃やすって、どこまで燃やせばいいんだ?」

「それは……全部じゃない?」


 コーイチの疑問に、チカはテキトーな返事をする。


「全部って……まあ、最後は火に全部突っ込めばいいか」


 それに対するコーイチの返事も、実にテキトーなものだった。


 稲穂を焼くために大きくなり、ちろちろと先端を揺らす炎を黙って見る。辺りにはイネを燃やすにおいが立ち込める。


 炎を黙って見る。においがする。


 青い炎を見る――。


 ……いいにおいがする……。


「おい」


 アマネの声がしてチカは我に返った。


「――へ? え?」

「おい、しっかりしろ」


 あせった様子のアマネの顔が、鼻先少し前にまで迫っていたので、チカは非常におどろいた。アマネの大きな手がぺちぺちとチカの頬を叩いている。


 あわてて周囲を見回せば、心配そうな顔が五つ。みなじっとチカのほうを見ていたので、チカは二度おどろいた。


「大丈夫?」

「うん……」


 心配そうな顔をして問いかけるマシロに、チカはそうとしか返せなかった。


「なにかあったの?」


 チカがそう言うと、目の前にいるアマネが、いつもの眉間にしわを刻んだ顔でため息をついた。


「お前がおかしくなったって聞いたから……」

「おかしく……?」


 チカにはまったく心当たりがない。イネが燃えるさまを見ていただけだし、そのあいだに妙なことをした記憶もない。


 ぽかんとしているチカに対し、アマネやコーイチなどは渋い顔をする。


「なに話しかけても反応しなくなったからビビった」

「え? ……ぜんぜん記憶にない」

「呪われてるって、こういうことだったのかな……」


 コーイチの言葉を受けても、チカには己の身に起こったことがうまく吞み込めなかった。


 そしてマシロが真剣な様子でそう言えば、アオが答える。


「ヤクキメたみたいな感じだったんじゃないの?」

「またそういうこと言う!」

「いって!」


 マシロにぶっ叩かれているアオを見つつ、コーイチが「本当になにも覚えてないのか?」とチカに問う。それにチカは首を横に振る以外のことはできなかった。


「記憶は?」

「え?」


 ユースケの言葉が突拍子もなく聞こえて、チカは思わず聞き返した。


「いや、記憶を思い出せたりしたのかと思って」

「残念ながら……」

「そうか」


 チカは変わらず記憶喪失のままだ。相変わらず冬以前の、みんなとの記憶を思い出せないでいる。


 しかし、なぜユースケは急にチカの記憶について聞いてきたのだろう。そこが腑に落ちなくてもぞもぞと居心地の悪い思いをする。


 だがそれをチカが深堀できる機会は訪れなかった。


「ハア……こいつは部屋に連れて帰る」

「……ひとりでも帰れるよ?」

「途中で倒れられでもしたら厄介だ。一緒に戻る」


 アマネにそう言われてしまえば、チカがその好意をむげにできるはずもなく、ユースケに問いかける機会を失してしまった。


 アマネに手首を取られてぐいぐいと引っ張られる。


「そんなに引っ張らなくても」

「……早く行くぞ」

「ちゃんと行くって」


 そしてチカはそのまま部屋に戻されると、広いベッドに押し込まれてしまったのだった。

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