おしゃべり(3)
「ほんとに毎日毎日私につきまとうのね」
君が召喚したからね。
「うそつけ。呼んでない」
ほんとだよ。ここにいるのは……いや、ここにいられるのは小さいころの君のおかげだ。
本当にありがたいと思っているよ。
「なにそれ。会ったのはつい最近でしょう?」
「いや、いたよ昔から。君には見えていなかったけどずっと隣にいたよ?姿を見せたのがあの日だった、それだけさ」
あの時、実体が保てないくらい弱っていた僕は手当たり次第色んな人間の夢の中に入っては彷徨っていたんだ。
どこにも居場所が無くてね、延々と漂っていた。
どこまでもどこまでも流れていって、最終的に力尽きて存在が消えてしまいそうだった。
「そのまま消えればよかったのに」
まぁまぁ、そんな事言わずに。
その日、小学生だった君は家族で旅行に行っていたね。あれは車に乗っていた時だった。
渋滞でなかなか水族館にたどり着けず退屈していた君は、車の後部座席に寝転がって空想遊びしていたよね。
その時僕を呼びだした。
君達……人間達が言うところの、イマジナリーフレンドとかいうやつ?空想上の友達。
その頃から君の想像力は凄まじくてね。
最初はちょっと会話して遊んでただけだったの
に、あっという間にあれこれ設定ができて僕のイメージがほぼ完成していた。
水族館に着くよりも早かった。ほんとびっくりだよ。
それで、僕はすぐにその想像を自分の体にした。
「『自分』の体じゃないじゃん」
外身なんて何でもいいのさ。ただの入れ物だから。物じゃなくたっていい。メロディーでも、文字でも。僕の意識が入っていれば、それは僕なんだから。
「じゃあ、小汚い太ったおっさんでもよかったわけ?」
えっと……う〜ん。
それはちょっと……いやだいぶ、嫌かな。
まぁでも、昔の君は僕にこの姿を与えてくれた。いわゆる金髪碧眼の美少年ってやつ?
嬉しいね。僕を相当気に入ってくれてたんだよね。
「ブサイクにしとけばよかった」
プラチナブロンドでサラサラの髪、ブルーグレーの綺麗な瞳、ピンクで艶々ふっくらした唇、手足といい身長といい理想的なプロポーション…….惚れ惚れするよ。
こんなイメージをまだ十歳にもならないうちに創り出すなんて。
テレビとか雑誌で見たものの模倣だったとしても、この完成度。やっぱりすごいよ君は。
「は?自分大好きなの?ナルシストなの?」
もちろん大好きさ。この体はとても気に入ってる。
「気持ち悪っ」
相変わらず酷いなぁ。
ともかく、僕は命拾いしたんだよ。ありがとう。
本当に感謝しているよ。
もうこれで当分は消えることはない。
「さっさと消えろ」
やだよ。君の作品もまだまだもっと見てたいし。
「あっそ。じゃ、もう寝るから」
おや、今日は早いね。おやすみなさい。
そしていらっしゃい、夢の中へ。