彼の話《1》
やぁ。初めまして。
僕はね。幻想を操る悪魔、夢魔だ。
そうそう、よく知ってるね。
インキュバスとかそう言うたぐいの。
あ、違う違う。別に君を襲いに来たわけじゃないんだ。安心して。
夢とかイメージとかそういった人が心に思い描いた幻、つまり幻想を自由自在に操れるのが僕の能力なんだけど、人間に直接何かをする事はできないからさ。
僕は夢魔の中でも低級の部類で、どちらかというと幽霊とか妖怪に近いんだ。
だからたいした魔力は無いし、君が想像してるような事はできないよ。
あっ期待してた?ごめんね〜。
ふふっ。嘘だよ。あっ怒った?……ごめんごめん。
実は最近ね。
悪魔という種族全体が弱ってきていてね。
もちろん僕もなんだけど。
僕は知り合いが結構多い方だったんだけど、次々と存在が保てなくなって消えてしまって、今ではほんのわずかになってしまった。
君達人間が無駄に……おっと失礼、君達人間が頑張って脳みそ使ってさ。科学だの何だのやり出すもんだから居場所は無くなるわ、魔力は通じなくなるわでもう大変だよ。
結構かわいそうでしょ?僕ら。
心配してくれるのかい?
ふふっ。優しいね、君は。
まぁ、でも今僕は1人の人間から定期的に魔力を補給させてもらってるからね。
しばらくの間はなんとか大丈夫かな。
うん?その人間はって?
ある女性なんだけど、なかなか綺麗な人でね……
いやいや、変な事はしてないよ?
だから、元々そういう事できないんだって。
ほんとだよ、ほんと。嘘ついてないよ。
でも男なら、一緒にいるならやっぱり女性がいいって思うだろう?人間と同じだよ。
って、話逸れちゃったじゃないか。もう。
それでね、僕はその人の『作品』から魔力を補給させてもらってるんだよ。
で、そのお返しに幻想を与える。
我ながら賢いやり方だ。素晴らしい。
メリットしか無いよね、これ。
……えっどういう事かって?
ちょっと説明分かりづらかったかな?
う〜ん。そうだなぁ……
その人間はね、ちょっとした小説みたいなものを書いているんだ。
別に仕事じゃなくて、ただの趣味でね。
あと、絵を描くのも好きだね。
それも風景画とか決まったものじゃなくて自由に描きたいタイプ。
なんかそういう、自分で世界を創るのが好きな人なんだよ。
たまにいるだろう?そういう人。
僕は彼女の夢の中で幻想を見せる。
すると彼女はその幻想をもとに、あるいはその幻想に刺激を受けて、作品を創る。
そしたら僕がそれを食べて魔力補給する。
で、お返しにまた幻想を見せる。
彼女は小説のネタを思いつけて嬉しい、僕は魔力もらえて嬉しい。
ほら、win-winだろ?
ふふふっ。なんだかよく分からないって顔をしてるね。
そもそも幻想って説明つかないからなぁ。
まぁ、世の中理屈じゃ説明できない事ってたくさんあるからね。そんなもんさ。
えっ誤魔化してないよ〜。ちゃんと説明したよ、僕は。
さてと。そろそろ僕はこの辺でお暇しよう。
たまには他の人間と話してみるもんだね。
楽しかったよ。ありがとう。
またね。