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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
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[最終回]あれから10年


「これでおしまいなんだけど、パパどうだった?」


 全部読み終えて、パパに感想を聞いてみた。すると、

 車椅子のパパは、目を細くして微笑んでくれた。

 どうやら、私の想像で書いた部分も概ね合っているらしい。


「じゃあ、今度は義理姉おばたまに読んで貰おうかな?」

 そう言うと、れを聞いたパパは首を縦に振ってくれた。  

 どうやら、人目に触れても良いレベルらしい。

 合格である。


 早いもので、あれから10年が経った。

 このお話を書こうと思った切っ掛けは、今の家に引っ越す時に押し入れの中の段ボール箱の中から、30冊にも及ぶパパの日記を見つけたことに始まる。

 中を開くと、そのどれもがパパと私の思い出で一杯であった。パパと出会った翌日から始まって、パパが倒れる前日までのことで・・・。


 私はこの夏、久しぶりにそのノートの存在を思い出して、読み直してみた。読んでる内に、私はあることをしたくなってしまっていた。

 それは、パパの日記からパパと私のストーリーを書き上げること。

 なんだか、パパとの思い出を一つの本として残したくなってしまったのだ。

 もちろんそれには私の記憶や、義理姉おばたまから聞いた話も含まれてるし、それだけでは書ききれない部分には、少しの想像も含まれてはいるけど。


 それがやっと昨夜完成した。

 それで、早速、私は朝からそれをパパに聞いてもらっていたのだ。

 パパは、それを時々目を瞑ってその当時を思い出すかの様に聞いていたり、照れくさそうに笑ったりして聞いてくれていた。

 麻緒さんの部分では少し辛そうにしていたけれど。


 因みにその麻緒さんはと言えば、実はパパが家に戻る時、私は麻緒さんとは大げんかになってしまった。

 この先、どちらがパパと一緒に暮らすかで。

 結局は、パパに判断してもらうことになって・・・。


 パパはまだ全く言葉は喋れなかったけれど、その意思は視線で分かってしまった。

 パパは、私を選んだことを。


 それは、麻緒さんも無言で受け止めていた。

 顔は努めて無表情にしていたように見えたけど。

 でも、凄く辛そうだった。


 その麻緒さんも、その3年後に失意の彼女を支えてくれた人と結婚。

 何処となくパパに似ていて、凄く優しい人だ。

 子供はいないけど、今は幸せそう。


 もちろん、今は麻緒さんと私は良好な関係。

 依然、麻緒さんとその時の話になったことがあって、その時、麻緒さんは、


「恭ちゃんに聞くまでもなく、分かってたんだけどね」

 そう言って、笑ってた。


 そして、私はあれから母とは一度も会ってはいない。

 数日だったけど母と暮らした日々。その中で、私は色んな話を聞くことが出来た。

 それには、私が今まで一番疑問に思っていたことも含まれている。


 母は十九歳の時、出来ちゃった結婚を目論むほどに大好きだった彼氏がいたらしい。だけどその目論見は見事に失敗。彼氏に逃げられたらしい。

 母の母(私の祖母に当たる人)は、出産に反対していたらしいが、ママは諦めきれずに祖母の反対を押し切って出産。その時、産まれたのが私だ。


 最初は助けてくれていた祖母も、母が元気になりだすと喧嘩も絶えなくなり、結局は家を出ることに。

 そんなことだから生活に困っても祖母には相談出来ず、母は一人で少ない貯金を切り崩しながらも働きながら私を育てていたらしい。

 だが、そんな生活に疲れてしまった母は、私が3歳の時に、祖母が別れた夫、母の実の父になる人(私の祖父)に、お金の相談に行ったらしい。

 その時、祖父は偶々出掛けていたらしく、そこに居たのが祖父と同棲していた、なんと恭介パパの実の母。


 聞き上手の彼女に状況を話すと、驚いたことに彼女は自分の実の子である恭介に私を預けることを提案さしたらしいのだ。要は、私を養子にすると言うことである。


 その彼女はママが何も返事をしていないのに、何故か積極的に話を進めてしまう。

 その行動についてママは、きっと離れてしまった息子と関りを持ちたかったのではないか。そう言っていた。


 その時好意を持っていた男性が居た母は、すっかり生活に疲れてしまっていたことと、将来への不安もあって、勝手に動き出した彼女についうっかり乗ってしまったらしいのだ。

 その後は、走り出しりまくる彼女に断り切れなくなってしまい、結局、母は私をパパのアパートの前に置き去りにしてしまったのである。


 母の話では、彼女が一人で私をパパの養子にする手立てを考えれるとは思えないので、きっと知り合いにその手のことに詳しい人が居るのではないかと言っていた。

 因みに、母はその男性とは結局上手く行かず、その後何度か恋愛はするも結婚には至らなかったらしい。

 母は自分でも今更とは思いながら、私を捨てたことを酷く後悔したとのこと。


 パパの実の母と私の祖父の同棲も、結局その後3年と少しで解消。

 でも、その間は彼女からパパの情報を得れたので、パパと私の引っ越し先も分かったとのこと。

 でも、彼女がどうしてパパの情報を得ていたのかは、そこまでは母も分からないとのことであった。

 と言うことで、今は義理姉おばたまに助けてもらいながら、パパと二人暮らしをしている。

 ここは、私が大学3年の時に叔父様(パパのお兄さん)と義理姉おばたま夫妻が建てた二世帯住宅のその一世帯分。


 パパが入院した半年後に、それまで働いていた会社を退社した叔父様は、義理姉おばたまとその子里香ちゃんの一家三人で日本に戻って来た。そして、それから間もなく叔父様は起業。

 すると、その事業は順調に業績を伸ばし、その三年後には二世帯住宅を新築することに。有難いことに、その一世帯分は私とパパの為であったのだ。


 パパは今でもリハビリを続けており、今では自分の力で車椅子を移動することも出来るし、食事だった自分で出来るまでになっている。ただ、会話はちょっと苦労している。

 でも、私にとっては幸せな毎日が続いている。

 パパにとっても、そうであればいいのだけど・・・。


 私がパパの家に戻ったその後も、パパは暫く入院生活が続き、その後、障害者支援施設に入所した。

 その時に聞いたのが、これからリハビリをして行けば少しずつ動けるようになる可能性があるとのことだった。

 私はその言葉に希望を持って、それからはずっとパパが返って来る日を待ち続けた。

 取り敢えず自分の生活費を稼ぐ為のアルバイトと、翌年受験の為の勉強を続けながら。


 皆からは折角合格した大学だからと、何度も大学に入学することを勧められた。お金のことは心配しなくても大丈夫だとも言ってもらえた。それがパパの希望だからと。

 だけど、私は頑なにそれを断った。


 それは、まだそんな気持ちになれなかったこともあるけど、一番は明確な目標が出来たからであった。

 その時はまだ、実現できるか分からなかったので口に出しはしなかったけど、既に私の中では、翌年、理学療法士を目指して受験し直すことを決めていたのだ。

 今度は私がパパを支える番だから・・・。


 そして、私は予定通り一浪をし、翌年に希望の進路に向け再度大学を受験。

 その結果は、もちろん合格。

 その後、パパのお兄さんの叔父様や、その奥さんの義理姉おばたま、更にその実家である本庄家の支援を得て、大学も卒業、無事国家試験にも合格した。

 義理姉おばたまの実家である本庄さんとパパの叔父様には、返済期限なしでのかなりの借金を背負うことになってしまったけど。


 卒業後にその本庄さんから、返済の替わりに提示されたのが、本庄さんの関係している障害者支援施設で理学療法士として働くことであった。

 そこは、パパが入所していたところで、今もリハビリに通っているところ。そして、私が目指していたこと、そのものでもあった。

 もちろん、私は二つ返事でお受けすることに。


 実は、これは最初から本庄の叔父様と叔母様が、私の為に考えていてくれた既定路線だったみたいだ。


 本庄さんご夫妻は、私が幼稚園へ入園する時から変わらず、私たち親子を支え続けてくれている。

 だから、本庄さんの豪邸が私の住む家から見て南西側だと知ってからは、私はベッドの向きを変えた。

 もちろん、それは脚を向けて寝る訳には行かないから。


 お借りしたお金も少しずつだけど今も返済は続けている。この先、何年かかるかは分からないけど。

 恩を受けっ放しだけは避けたいし。


 そんなことで、私とパパは大丈夫。


 これからもずっと。

 大丈夫なんだ!

 


 * * *


 今日も日当たりの良いベランダからは、溢れた陽ざしが差し込んでいる

 そのベランダから、パパは外を眺めている


 開け放った窓からは、日差しを和らげる涼しい風が私に届いて来ている

 今日の風は、あの時と同じ匂いがする

 私がパパと初めてお出掛けしたあの時と


 私はたくさんの匂いを覚えている

 パパと感じて来た、数えきれないくらいの風の匂いを


 陽ざしのように優しくて、心地よかった温かい風の匂い

 ひんやりとした、頬に冷たかった風の匂い

 暑ぐるしいけど、楽しかった夏の風の匂い


 風の匂いを感じる度に、私はその時々の気持ちに通じることが出来る

 風に触れるだけで、その時々と同じ幸せを感じることが出来る


 今の私には、それがかけがえのない宝物になっている


 きっと、これからもいくつもの宝物を増やすことが出来るはず

 たくさんの風の匂いを感じることが出来るはず


 パパと一緒に

 今までがそうだったように

 

 有難うパパ


 あの時、私のパパと言ってくれて・・・



<おわり>

ありがとうございました。

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