卒 業3
一旦家に戻って、分かる限りの花織の学校や友人関係に電話をかけまくった。もちろん、花織のことを考えて、家を出たことの明言は避けて。
その中で唯一得られた情報が、依然花織がバイトをしていたカフェの隣の花屋のこと。そのパートの女性ととても仲が良かったことだった。
俺はそれを聞いてあの熱い夏の日に、麻緒に花織のことを調べて貰った時のことを思い出した。
あの時、確か麻緒は、花織がその女性と一緒に食事をしに行っていたと。
もしかすると、その女性が花織の言うママ?
確かに麻緒の話では、年齢的には俺や麻緒に近いようなことを言っていた気がする。
でも、幾ら仲が良かったとしても花織が赤の他人を、ママと呼ぶだろうか?
だったら、もしかするとその彼女が花織の実の母、前田有希?
俺はそうも思ったが、直ぐにそれを否定した。だったらあんなに長くバイトを続けるはずがないと。
しかし、何かを知ってる可能性はある。
そう思った俺は、まず、俺は花織が依然バイトしていたカフェに向かった。そして、心当たりを聞いてみた。
だが、心当たりはないらしい。
それに、以前は偶に遊びに来ていた花織が、ここのところ顔を見せていなかったとのことである。
次に隣の花屋にへと。
そこでも、やはり心当たりはないとのことであった。
そこで俺は、一応花織が仲が良かったと言う女性のことを聞いてみた。すると、彼女は既に辞めたとのこと。
一応名前を聞くと、彼女の名前は「佐藤奈津」。やはり「前田有希」ではない。
ただ、彼女がそこのパートを辞めたのが、花織がカフェのバイトを辞めた次の月のことであった。
それを聞いた俺は、念のためにその佐藤奈津に電話をしてもらうことに。
事情を話すと、親切にも履歴書を探し出して電話をしてくれた。
その結果は、残念ながら電話番号が既に変わってるようで繋がらない。
そこで俺は無理を言って彼女の住所を聞き出し、行ってみることに。
そこは、古いアパートの一階だった。
着いた時には、もう日は暮れていた。気温も下がり肌寒くなっていた。
灯りが点いていたいたので俺は思い切って訪ねてみたが、結果は空振り。彼女は既に引っ越した後。
その時、佐藤奈津が前田有希と同一人物だと知っていれば、引っ越し先を探す為に近所にも聞きまくったのかもしれないけど、俺はその時在宅であった隣の住人に確認するに留めてしまっていた。
これで、思い当たるところは全て確認をした。万策尽きてしまった。
行き場の無くなった俺は、依然住んでいたアパートに脚が向いていた。
そして、気が付けば初めて花織を見つけた場所に立ち、小さかった花織の姿を探そうとしていた。
もちろん既に過ぎ去った姿を探そうとしても、花織に届くはずもなければ、何も見つかるはずもない。
「なにやってるんだろ・・・」
我に返った俺は、明日の朝までに花織が帰って来なかったら、察に届けよう。そう心に決めた。
その帰り道、体が冷え切っていた俺は、見知らぬ小さな居酒屋に入り、初めて一人居酒屋をした。
お酒の弱い俺が、一人で日本酒を飲み続けた。
お酒を飲んで、やるせない気持ちを麻痺させたかったのだ。
どれだけ飲んだのか、どう家に帰ったのか分からない。気が付けば、俺は自分の家の玄関で寝ていた。
転んで頭を打ったのか、頭が痛くて目が覚めたのだ。こぶも出来ているし、少し血も出ている。手足には擦り傷が幾つもあり、体のあちこちが痛い。
玄関には吐いた跡もある。でも、それを片付ける気力もないし、気分も悪い。
俺は汚れた衣服を脱ぎ棄て、水だけを飲んでソファーの上で再び眠りについた。
(なんだか、景色がボヤっとして来た。
思考が薄れて行く。
記憶も淡くなって来た
拙いかも・・・)
翌朝、二日酔いからなのか、頭を打ったせいなのか、相変わらずの酷い頭痛だった。
周りがボヤっとして見える。焦点が定まらない感じがする。それに吐き気も。
俺は水をのみ、何度か吐いた。
重い体を無理に動かし、昨夜吐いた跡を片付けていると、俺は花織の大学入学の書類が届いているのに気が付いた。
それを見つけた俺は、反射的に嬉しかった。
嬉しくて、何を焦っていたのか早く手続きをしなければ、そう思っていた。そこまで急ぐ必要は無いのに。
俺はまず必要書類の入手を済ませて、それから警察と、余りに気分が悪いので念のため病院へと向かうことにした。
あれだけ努力して合格した大学。辞退は絶対にさせたくはない。その気持ちが強かったのだと思う。
俺は学校に電話をして、卒業証明書の依頼。そして、まず住民票を取りに一番近い市役所へと向かった。
余りの具合の悪さに、顔も洗わずに口だけをすすいで家を出た。
駅に向かう途中、次第に手足が動かしにくくなるのを感じた。
体が重い。何度も吐いたのに、相変わらず吐き気が酷い。
何度も自販機でスポーツドリンクを飲んでは吐いた。
そしてやっと駅まで着いた。
市役所は、もう直ぐそこだ。
でも先に・・・。
頬が冷たい。
俺は地面に倒れたのか?
冷たさが凄く気持ちいい。
もう、このまま眠ってしまおうか・・・。
(急に動きが緩やかになって来た
それから、それから何だっけ?
どうしたんだっけ?
そっか、先に病院に行った方が良いかも
俺はそう思ったんだった
あれ?その次、その次は?
で、俺はいま病院に居る
どうやって?
まあ、それはいっかぁ
俺は、ここまでずっと花織と出会ってからのことを思い出していたんだ
記憶の全てを吐き出すように
まるでビデオを見るかのように
どうしてだろう?
もしかして、これって走馬灯?
これが走馬灯なのだろうか?
だったら、おれの記憶はもう終わる
終わってしまう。
全てが終わって・・・しまう
花織に会いたい。花織の声が聴きたい。
そうだ、花織の入学の手続きをしなきゃならないんだ
でも、花織、ごめんもう出来そうもない
次が出て来ない無いんだ)
止まる
止まる
巡っていた記憶が、走馬灯がゆっくりと止まって行く
さっきまで外から呼んでた声は?
もう・・・殆ど聞こえてこない
せめてもう一度、花織に会いたい、花織に
もう一度、もう一度でいいから、花織に会いたい
それが無理なら、せめて花織に呼ばれたい
パパと
これが、走・馬・灯・って・言・う・も・の・な・ん・だ
シャリン、シャリン・・・
あれっ、音がっ・・・!
「パパ、パパ―」
「」
<つづく>




