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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
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反抗期(思惑2)

 彼の話を要約すると次の通りである。

 彼女と知り合ったのは、婚活パーティーでのことらしい。

 彼女は特別養護老人ホームで看護師をしているとのことで、そこでの話を色々聞かせて貰ったとのことである。

 彼はその話を聞いている内に、彼女の優しさや、話している時の雰囲気にすっかりのめり込んでしまい、連絡先を交換してもらうことに。

 それからは、しばしば二人で会うことになったのだが、最初は食事をしたり、映画を見る程度。誕生日やクリスマスにプレゼントをしたりもしたが、特に彼女から何かをねだられたりは無かったらしい。

 しかし、3ヶ月を過ぎ仲良くなるに連れ、彼女は彼にお金を貸して欲しいとお願いをするようになったとのことである。


 因みに、その理由は母親が入院したとか、自分の体の調子が悪くて病院代が掛かるとか、色々な理由であったらしい。

 最初は彼もその理由に心を痛めて、言われるがままの金額を貸していたのだが、一向に返す気配が無い。それどころか、一度に借りる金額が次第に増えて行ったらしいのだ。

 彼も、内心は嘘だと思う気持ちもあったのだが、それも、惚れた弱みで中々疑うことも出来ず、ずるずると続けてしまったとのことであった。


 ところが、ある時その話を酔った勢いで友人に話したところ、友人からの催促で彼女の写真を見せることに。

 そして、何枚か写真を見せたところ、その友人から「お前騙されてるよ」と指摘されたらしいのだ。

 と言うのも、彼の友人は偶然彼女のことを知っていて、一昨日も会っていると言うのである。

 半分、友人に遊ばれていると思いながら、詳しく話を聞いてみると、彼女は友人が時々行くキャバクラに在籍していて、つい一昨日も自分の隣に座ったと言うのである。更に、その店で彼女は他の女の子からの評判が余り良くないとも。


 彼はその場でキャバクラの彼女の名刺を見せて貰ったが、確かに似てはいるものの加工もされているので、本人と決めつけられる程のものでは無かった。

 そんなこともあり、その時はその友人のことを信じなかったので喧嘩にもなったのだが、酔いが醒め冷静になると喧嘩までし止めてくれた友人の言葉が気になりだしたらしい。


 後日、その友人から彼女のことを調べた内容が送られ、彼がそれを確認すると、特別養護老人ホームの看護師は嘘で、彼女の婚活パーティーの出席もただのサクラ、単発のバイトだったとのことであった。

 さらに、どうやらお金を借りている男性は自分以外にも何人か居て、高級マンションでパチンコ好きの男性と同棲をしているとのことでもあった。


 彼はそれに半信半疑ながらも、出来る範囲で調べたてみたところ、結果は友人が調べてくれた内容とほぼ一緒であったらしいのだ。

 それで、目が覚めた彼は、今まで貸した分はもう返してもらうことは諦めて、これ以上はもう貸さないと決意するに至ったらしい。

 俺もそのキャバクラの名刺とサイト、それに店内での写真を何枚か見せて貰い、彼の言い分が正しいと感じた。


 次に、今回彼女を置いてい行った件について聞いてみた。

 そもそも今回この柔井沢に来たのは、彼女からの誘いらしい。彼は、その証拠だと言って、彼女とのラインのやり取りを見せて貰った。

 彼は直ぐに、その誘いがお金を借りる為の伏線だと思ったそうだ。

 最近冷たい対応をしていた自分への関係修復の手立てなのだろうと。


 その想像には根拠はなかったが、彼は今までの経験上からそう思ったらしい。そんな断りを入れるところに、俺は彼の方を信じたくなってしまう。


 彼曰く、自分がダメなところは、そうと分かってても誘われると、つい嬉しくなって彼女の誘いに乗ってしまうことだそうだ。その結果が今回のことだとも。

 彼女は今回も彼を散々楽しませてくれはしたのだが、やはり帰り際に「お金を貸して欲しい」と申し出たとのことである。

 その大義名分が「父親が入院した」との理由であったそうだ。


 それを聞いた俺は、即座に俺には母子家庭と言っていたのを思い出した。

 確かに両親が離婚して母子家庭になったのであれば、成人して父親の心配をしてもおかしくはないが。でも、何かそれも疑わしく感じてしまう。

 彼は過去に同じ理由で二度お金を貸したことがあるらしく、因みに前回は10万円とのことである。


 そんなことで、彼は今回勇気を振り絞ってその頼みを断ることに。

そうしたら、彼女は彼が運転する車を無理やり止めさせ、怒って飛び出して行ったらしいのだ。

 彼はどうしようか迷ったが、ここで追いかけては今までの二の舞になってしまうと思い、そのまま帰ることに。


 帰る途中ずっと彼女のことが気になっていた彼は、家に着くと直ぐに車から降りることもせず彼女に電話を掛けてみた。

 すると、その着信音が何と自分の車の中から聞こえて来て、自分の車の中に彼女のバッグがあることに気が付いた。


 彼は助手席のシートとドアの間に挟まれたバッグを見つけると、悪いとは思いながら、中を開けてみた。すると、中には財布とスマホが。

 因みに、決して、開けただけで、ホントに中を探ってみたりはしていないとのこと。

 まあ、そんなこと出来る人ではないと俺も思う。


 それで、彼はあんな山の中の何もない場所。しかも夜にお金も連絡手段も無いのは拙いと思ったらしい。

 拙いとは思ったが、今まで騙されてかなりの金額を貸したままの腹いせに加え、多分彼女がワザと車の中にバッグを忘れたんだと思う勘繰りで、直ぐに引き返す気にはなれなかったとのこと。


 ここで、その彼女がワザと忘れたと言う意味が直ぐに分からなかった俺は、どう言う意味か彼に尋ねてみた。

 すると、彼曰く、バッグを忘れたことで彼に自分の後を追い掛けさせ、気持ちをもう一度惹きつけようと言う魂胆なのだろう、と思ったからだそうだ。

 ただ、彼女の誤算は、車から降りる際にバッグがシートと扉の間に挟まって、彼が家に帰るまで気づかなかったことだろうと。


 そうでなければ、幾ら怒っても山の中で車から飛び出すことは無いし、トイレに行くときでさえバッグを持って出る彼女が、酔いもしてない状態で膝の上に乗せていたバッグを忘れることはないはずだと。


 彼は少し困らせたいと放っては置いたものの、人の良い彼はやはり心配で夜も眠れなくなり、翌早朝に再び柔井沢に戻って来たそうなのである・・・。


 そこまでを一気に話した彼は、既に冷めたであろうコーヒーを口に含むと、少し間を置いて更に続けた。


「それが一昨日のことです。その後はご存じの通りです。

証拠としてお見せ出来るモノは、既にお見せした、彼女が働いているキャバクラの名刺とそこのサイト、あとこれしかないんですけど・・・」

 そう言って、彼女の口座に振り込んだ履歴ですと言って銀行の通帳を見せてくれた。ざっと計算しても全部で300万円以上にはなる。


「信じて頂けますか?」

 彼は、そう言って恥ずかしそうに俯いて頭に手を当てた。

 なぜ、こんな頭の回転も早いし冷静な人が騙されるのか俺は不思議に思い、失礼ながら聞いてみたくなってしまった。


「どうして、そんなことに?」

「恥ずかしながら正直に言えば、”モテて来なかった人間は、藁をもすがる”ってことなのかもしれません。冷静になれないんですね、多分」

 そう言って、彼は苦笑いを俺に見せて来る。

 俺的に見れば、彼の最大の欠点はお人好し過ぎるところのような気がしてならない。

 

 これを聞いた俺は、今度の借金のターゲットが俺なのだと確信した。

 これで俺が彼女に最初から不信を抱いていた、失くしたバッグを直ぐに探そうとしなかったことや、スマホや、恐らく何かしら持っているだろうカード類を止めようとしなかった理由も納得できた。

 俺は彼の話を聞いて、あの二日目にワインを飲んだ後に間違いを起こさなくてホントに良かったと思った。

 もし、間違いを起こしていたら、俺はその弱みで要求に応えていたかもしれない。そう思ってしまう。


<つづく>

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