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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
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反抗期(探し人2)

 スーパーに入ると、店内は少し薄暗いが、置いてあるものは古くは無さそうであった。

 早速、俺は必要な食料の物色を始める。すると、そこに愛想の良さそうな店主らしき中年男性が俺の方に近づいて来た。


「いらっしゃいませ」

 それに、俺が軽く頭を下げると、その男性は申し訳無さそうに話し掛けて来た。


「お客さんは、こちらの方じゃないですよね」

 さすがは、住民の少ない観光地。一目で見抜かれてしまう。


「そうですけど、何か?」

「でしたら、お聞きするのも何なのですが、一応、ちょっとお尋ねしたいのですが・・・」

「どんなことでしょうか」


「この女性何ですが、何処かで見掛けなかったですか?」

 そう言って、1枚のコピー用紙を見せて来た。

 それは一人の女性だけをアップに加工して印刷したものであった。


「んっ?!」

 それを見て、俺は思わず首を前に出してしまう。

 

 引き伸ばしたせいで少しボケてるので確信は持てないが、髪の色が少し違うのと、若干細く見えるのを除けば、辻本乃里そっくりなのである。


「ご存じでなんですか?」

 そこで、俺はハッと気づいた。探している事情には色々ある。彼女を探していると言う人の身の上も知らないのに、簡単に彼女のことを教える訳には行かないと。


「昨日会った人と似てるん気がするんですけど・・・、この写真の女性が何か?」

 俺は落ち着き直してそう半分嘘で応え、その理由を聞いてみる。

 協力できるかは、理由次第である。


「私は頼まれただけなんですけどね、この女性を探してる男性が居るんですよ。

 今朝、その人がやって来て、この紙を置いて行ったんですけどね」


「探している人って、写真の女性とどういう関係の方なんですか?」


「なんでも、昨日この女性と一緒にこの柔井沢に車で遊びに来て、喧嘩になったらしくて。それで、彼女は車を降りて一人で行ってしまったらしいんですけどね。

 それでも、まあ相手も大人だし、まだ8時を過ぎたばっかりだったので、その男性はそのまま帰ったらしいんですよ。

 でも、家に帰ってから、その女性が車の中にバッグを忘れているのに気付いて、その中を見ると財布も、スマホも入っていて、それで、拙いと思ったらしくてね・・・」


 その話は、多少の食い違いはあるけれど、大まかには辻本乃里の話と合致する。

 食い違いは両者の言い分の違いの範囲と捉えらることも出来る。


「・・・私もね、安易に協力すべきではないと思ったんですがね、”命に関わるかも”まで言われましてね。

 確かに、お金も携帯電話も無ければ、この辺りまで戻って来れれば良いですが、道を間違えたりすれば、そんなことも無い訳では無いと思いましてね」


「どの辺で別れたんですか?」

「私が聞いた感じでは、恐らくここから歩いて15分くらいだと思いますね」

 俺が彼女を見つけたのは、此処から車で10分ちょっとの所である。距離で10キロメートル位だろうか。

 そうなると、曲がるところは一か所しかないから、彼女は、そこを逆方向にかなり進んだと思われる。


「その女性を捜している方は、警察には行ったんですか?」

「一応、警察にも行ったらしいんですが、相手がいい大人で、何かの事件に遭った訳でも無ければ遭難した訳でもないので、余り積極的に探してくれるとは思えなかったらしいんですよ。

 私もそれを確認して、協力することにしたのですけど・・・」


「その方は今何処に?」

「それが、もう帰ってしまったんですよ」

 話によると、今日の夕方からと、明日一杯は抜けられない仕事があるとのことで、今日は一旦帰り、もし探している人が見つからないままであれば、また明後日来るとのことである。


 俺の話を聞いた店主は、俺の前でその彼に何度か連絡を取っていたが、どうやら電波が繋がりにくいところに居るらしく、繋がらない。

 恐らく、帰る途中なのだろう。

 後で、俺から彼に連絡をすると言う方法もあったが、店主曰く、無暗に彼の連絡先を教えてしまうと、中には面白がってイタズラの情報を教える人もいるかもしれない。

 そんな心配があると彼との間でなったらしく、結局は店主が間を取り持って連絡をすることになったとのことである。


 それは、ごもっとな話である。

 この手の話を面白がり、騒ぎが大きくなる方に導こうとする人が、残念ながら居るのは確かである。

 なので、取り敢えず俺は携帯番号と明後日の午前中までは、別荘に滞在している旨を彼の留守番電話に入れることを了解した。


 例え、その話が嘘で会ったとして、取り敢えず電話で話すくらいは問題ないと俺は判断したからだ。

 それに、彼女よりも彼女を探している男性の方に何となく好感を持ってしまってる俺もいたのも事実である。まだ、会ってもいないのに。

 結局、俺はその彼とのことは電話待ちと言うかたちとなり、買い物を終えると直ぐに二人と合流するためにスーパーを出た。


 合流後は、前もって俺が調べ上げた余りメディアに取り上げられていない名所巡りと、名物の食べ歩きを熟す。

 花織は終始テンションが高かったし、俺も三人でそれなりに楽しく過ごせたと感じた。

 俺は取りあえず、辻本乃里を捜している男性が居ることは黙っていることにした。それは、その上手くっている状況を壊したくないのと、情報がまだ不確であったからである。


 そして、早めに別荘に戻りバーベキューパーティーを豪勢に開き、その後はお決まりの花火で締め括る。

 花織の為に用意した本日の全イベントが終了する頃には、花織と彼女はすっかり仲良くなっており、二人で一緒に部屋へと戻って行った。

 俺は少し疎外感を味わうことになったが、花織が楽しそうなので結果は良いはずなのだろう。そう思うことにした。


 その夜のことである。俺の下に電話が掛かって来た。

 電話の相手は、今朝スーパーで聞いた、彼女を捜していると言う男性である。

 彼の名前は”畑中徹”。

 俺は、まずその彼に改めていくつか確認の質問をした。彼の探し人が辻本乃里で間違いないことと、彼の言ってることの信憑性を確認するために。

 そして、そのことにある程度の確信を持てた俺は、彼と約束をした。

 この柔井沢高原で会うことを。


 その彼が話を終える間際に、彼女に対する忠告を一つ俺に教えてくれた。

 それは、彼女ではなく、俺のことを心配しての忠告であった。

 

 三日目、その日は旅行の中で一番の快晴。

 この日、俺が起きた時には、彼女はまだ起きてはいなかった。

 多分、俺の表情の何処かに、勝手に朝食を作られることを余り歓迎していない旨を感じたのだろう。俺はそう思った。

 彼女は俺が起きると、待っていたかのように直ぐに起きて来た。

 相変わらずの、目に悪い眩しい笑顔で。


「おはようございます」

「あっ、おはようございます。昨日は疲れたんじゃない?」

「いえ全然!凄く楽しかったです。

 それより、ごめんなさい。今日は起きられなくて、朝食の用意が出来ませんでした」

 そう言って、彼女はハニカンで頭を下げて来た。


「とんでもない、それくらい用意しますから座ってて下さい。と言っても、今日は花織の当番だから、今起きて来ると思います。もう少し待ってて下さいね」

 そう言って、今日は俺が三人分のコーヒーを淹れていると、花織が階段を駆け下りる音が聞こえて来た。


「おはよう、二人とも起きるの早くない?」

 元気にそう言うと、花織は慌てて朝食の準備を始め出した。ここに来てからの花織は、幼かった頃の様に元気一杯だ。

 それは嬉しいのだけど、何か素直に喜べない俺も居る。


<つづく>


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