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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
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反抗期(掛け違い2)

 そんなことの繰り返し。それでも、時間は無慈悲に几帳面にもきっちりと過ぎて行く。

 状況はどうあれ花織は高校受験も終え、花織の中学3年間も終わりを向かえることに。

 

 因みに、中学の三年間は、毎年、前田有希から花織宛てへの5万円の送金があって、花織の口座の預金額合計は15万円となっていた。


 そして、春休み期間も過ぎ、花織も晴れて高校生。

 入学したのは、安全策で受験したにも関わらず、県内でも指折りの県立の進学校。


 入学式の日、改めて見る制服姿の花織は、若干の顔のあどけなさを除けば、見た目は全く大人と遜色が無くなっていた。

 俺はついそれを感慨深く見入ってしまい、花織の機嫌を更に損なってしまう惨たる状況。おかげで、今ではそれ以外入学式の記憶が殆ど残っていない。

 

 そんな花織の高校生活も流れるように約3ヶ月が過ぎ、梅雨を迎えたある日のことである。

 俺はふと一つのことを思いついた。


 それは、取り敢えず”まず何かを昔に戻そう”と言うことである。

 原因も、解決策も考え付かないなら、「いっそのこと戻せることだけでも戻してみよう」そう考えたのだ。

 要は全リセットで元に戻せないなら、部分リセットをしようと言うことである。


 そこで真っ先に思いついたのが、義理姉実家の持ち物である別荘に遊びに行くことであった。

 花織が小学1年生から中学1年生までは、毎年それが夏の恒例であったのだ。


 俺は、まず初めにそれから復活させようと考えたのである。

 そして、無理にでも花織を連れ出し、昔のことを思い出させることが出来れば、もしかすると、そこで花織は何かを話してくれるかもしれない。そう思ったのだ。


 二年前の花織が中学二年生の時は、兄と義理姉の一家が海外に転勤してしまったばかりで、気乗りのしない花織を無理に連れて行くのも忍びないと思い、流れてしまった。

 昨年は昨年で、”受験”と言う大義名分を花織が持ち出したので、実行に移すことが叶わなかった。

 それも表向きは”受験”と言う理由であるが、実際は花織の気持ちが前向きでなかったことに尽きてしまう。

 花織にとって、二泊や三泊の旅行が受験に影響するような状況では無かったのは、その夏休みの彼女の行動から歴然としていたのだから。


 そうと決意したら、余計なことは考えずに行動あるのみ。

 まず、俺は義理姉の実家である本庄家に向かい、別荘の使用はお願いすることに。


 必ず貸してもらうと決めた俺は、熱意を込めて話し始めるも、話が全部終える前にご主人はあっさりと二つ返事の快諾。

 三つある別荘の内、好きな別荘を使用して良いとのことであった。

 そこで俺はご主人のお勧めの別荘をお借りすることに決めた。


 出来れば義理姉のご両親とも一緒に行きたかったが、義理姉不在の状況ではお互いに気を使ってしまう。

 それに花織の状況が状況だけに、実現事態が定かではなかった。更に、仮に実現したとしても、そこで楽しんでもらえる自信が俺には全く持てなかった。

 それで、今回こちらからお誘いすることは断念することにした。


 それよりも、肝心な花織をいかに連れ出すかに全力を注ぐことが先決。

 それからの俺は、実現に向けたプレッシャーとの戦い。誘うチャンスを窺う毎日。


 そして訪れた花織の一学期の期末試験が終わった翌日のこと。

 既に誘う機会を二度も逸して、落ち込んでいた三度目のことである。

 正面攻撃を避けた俺は、洗面所で就寝前の歯磨きをする花織の後姿に思い切って声を掛けてみた。

 以下、鏡越しでの会話である。


「花織、夏休みなんだけどさあ。

 その~、久しぶりにさ、この間ちょっとだけ話した、あ・れ・どうだろう?」

「あれって?」

「あれって、あの~、ほら、本庄さんの別荘にでもさあ、夏休みに行かないかなぁ?ってことだけど・・・。

 昨年も、一昨年も行けなかったしさぁ」


 高校生になった花織は、一年生の一学期の時点では帰宅部。どこの部にも入ろうとはしなかった。

 家事のことは気にせず好きなことをして欲しいと言う俺の希望は伝えたものの、返って来た応えは「面倒だから、いい」の一言。

 なので、夏休みは時間は有り余っているはずである。

 断る大義名分は無いずである。それでも、俺は何か適当な理由であっさりと断られる気がして、内心はビクビクしていた。


「へ~、誰が行くの?」

 返って来たのは否定では無かったが、何かそっけないお言葉。

 でも、今日の俺はそれで簡単に負けたりはしない。


「まだ、そこまで決めてないんだけど、いつも通りで行けば・・・」

 と、言いかけたところで、兄一家は海外。別荘の持ち主である義理姉のご両親は、改めて誘っても行くとは思えないし、今更誘いにくい。

 となると、麻緒を含めた3人となってしまうが、誰かを追加しなければ、このままでは現状の気まずい状況の延長戦になってしまう気もする。


「ん~そう、花織の友達を誘ってみようか?」

 俺の咄嗟のその提案に花織は歯磨きの手を止め少し考えて、

「やむもえた方ぐあ良いんじゃぁい?くるむあで行くんへひょ。とほはひだけはほって、なひかあったらたいへんだひょ(訳:止めた方が良いんじゃない?車で行くんでしょ。友達だけ誘って、何かあったら大変だよ)」

 歯磨きをしながら、ゴコゴモ応える花織。

 何となく言ってる意味は分かった。それは、ごもっともである。

 でも、だからと言って、俺と交流のない高校の友達の親が付いて来てくれるとは思えない。


あゆみちゃんは? ご両親も一緒に誘ってさあ」

 中学生の時に花織と一番仲の良かった歩ちゃんは、俺もご両親を良く知っている。

 その歩ちゃんは花織とは違う高校に進学している。


「あふみひゃんは、うんほうふだから、むふかひいいふぁも。おほんもおほうさんのひっかでおふぁかまいりだって(訳:歩ちゃんは運動部だから難しいかも。お盆もお父さんの実家でお墓参りだって)」

 なるほど。


「そっかぁ・・・」

 やばい!これでは断られてしまう。そう思った俺は、何か起死回生の一発逆転の一打を捜すも見つからない。


 ところが、口を濯ぎ終わった花織が、

「いいんじゃない?行ける人で行けば」

 そんなことを言って来て、


「んっ、えっ!?」

 自分の耳を疑う俺。

 洗面台の鏡に映る花織を見ると、鏡に反射する俺の顔を見て、何処か含み笑いを感じる。

 良くわからないが、そんな錯覚かも知れないことは、この際どうでも良い。


「うん、そ、そうだな。そうしよっか」

 驚いた声を上げたことを俺の中で無かったことにして、極力毅然と応える。ガッツポーズに関しては、自室まで取っておくこことに。


 この時点で、参加者は既に俺と花織と麻緒の3人のみ。ただ、後日麻緒も仕事の都合で連休は難しいと断って来た。

 麻緒の会社は、結構融通の利くとても良い会社で、今まで麻緒に仕事で断られたことは一度も無かった。少なくても、お盆休みは連休を取れるはずである。

 なので、これは花織を気遣ってのことだと直ぐに俺は気付いてしまった。だから、俺もここは無理に誘うべきではないと思い、俺はその言い訳をそのまま受け止めることにした。


 結局のところ、参加者は俺と花織の二人だけとなったのである。

 

 それでも女子高生になった反抗期の花織が、父親と二人っきりで行くと言ってくれただけでもかなりの前進である。

 俺は人数的な盛り上がりに欠ける部分を埋めるべく、せめてもの穴埋めとして俺なりのイベントを色々考えることに。

 花織と出会った頃のことを思い出しながら、更なる関係の回復を目指し!


 二人っきりとなると、日程も決めるのは簡単。結局のところ、世間一般通りに俺が一番長く連休が取れるお盆休みと言うことに。

 その年のお盆休みは土日を絡め5連休。最終日の15日は毎年空けなければならないので、11日から14日の三泊四日で行くことが決定。


 それからお盆休みまでは約一か月。

 その間、俺の気持ちは久しぶりの前向き状態。そして花織は?と言うと・・・


 俺には気になったことがあった。

 それは、気のせいか花織の物腰が柔らかくなったことである。

 俺にとってその原因が、全く心当たり無しの理由不明。不可思議状態。

 今なら、その理由も何となく想像はつくのだけど・・・。


 でも、それは旅行のことを話し合う上で、俺にとってはとてもラッキーであった。

 全てが上手く進み、その一カ月は、あっという間にやって来る。

 そして、いよいよ花織の夏休みも終盤に入ったお盆休み前日夜。


 少しでも早く到着するために、俺は定時で速攻帰宅。三泊四日の旅行の残りの準備を終えると花織を助手席に乗せ、我が家を軽快に出発!

 もちろん、内心は慌ただしい出発が花織のご機嫌を損なわないことを願いながら・・・。


 こうして、始まった5年振りの二人だけの旅行であった。

 俺にとっては、花織との関係回復を探る大切な意味ある旅行である。

 俺は快調な出だしになったことを喜んでいたのに、それが、よりにもよって目的地への到着寸前で、妙なモノに出くわしてしまう。

 そんなことになってしまい・・・


<つづく>


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